第39話 結成 サンガードズ
ピピピと、電子音が響く。
鋼陽はベットから起き上がり、スマホを見る。
「……誰からだ?」
タップしてスマホを通話モードにし耳に当てる。
「……はい」
『おう、統烏院か? 今から会議室に来てくれ』
「まだ7時ですよ?」
『ライングリムは組織だ。学生時代のような起床時間は普通だぞー? 40秒で支度しろぉ』
「無理でしょう」
『はは、冗談だ。みんな待ってくれてる。お前だけなんだから急げよ』
「……わかりました」
ピ、っと通話を切り霊体化している聆月は俺に声をかけてくる。
『鋼陽、誰だったんだ?』
「論手司令官からだ、会議室に来いと」
『そうか、なら急ごう』
「……わかっている」
ベットから起き上がって、俺は支度を始めることにした。
新しく届いた自分の制服に着替えを終えると論手からスマホにメールが送られてきた。画像付きのメールで、今回の会議室への地図だった。
『鋼陽、ここじゃないか?』
「そうだな」
指定された会議室の前に立ち、扉を開ける。
会議室の中に集まった処刑人は綺月と剣城と国木田先輩、猫本先輩、夜部先輩たちが一緒にいた。ガタッと椅子が倒れた音をした方向に向けば、剣城がわなわなと震えながら俺を指さす。
「なぜ貴様がここにいる!? 統烏院鋼陽!!」
「……いてもいいだろう」
……呼び出しでこいつもいたとは思わなかったな。
面倒だ、本当に面倒だ。鋼陽は頭を抱える。
「貴様、ふざけているのか!? お前のような刀匠志望の男が処刑人の恰好をなぜしている!?」
「……処刑人だから意外他ならないが」
「やはりふざけているだろう貴様ぁ!! 処刑人という尊き仕事をなんだと!!」
本当に、面倒なことこの上ない男だ、まったく。
昔からこの男は俺に当たりが強い。
大学を除いて、部活動の時も俺に必ずと言っていいほど突っかかって来た……何か、コイツに恨みを持たれるようなことをしただろうか。
顔面や成績に意外に、特に覚えがない。
『鋼陽なら、多少の恨みは持たれる行動をした覚えはないのか?』
『ゼロとは言い切れんな。顔面も学校での成績も祓波より悪くない方だと自負している』
『そこ、誇るべきか……?』
『何か問題が?』
「おい、聞いているのか!?」
剣城は俺の胸倉に掴み、大声で怒鳴る。
……本当にしつこい男だ。イラっとして、剣城の手を掴む。
「うるさいぞ、剣城」
「なんだと……!?」
「まぁまぁ、二人ともギスギスしないでにゃー! 仲良くやろー? ね?」
猫本先輩が間に入ってくるのに剣城は俺を睨み怒鳴った。
「処刑人の仕事を副業感覚でやろうとする人間はいますが、コイツは処刑人を金稼ぎ程度だとしか考えてる奴に過ぎません! 処刑人の仕事を穢す男です!!」
「斬志朗君が処刑人を目指していたんだから、その気持ちはわかるよ? わかる。でも、だからって鋼陽君に乱暴するのは、君の掲げる処刑人としては正しくないんじゃない?」
「……だとしても!!」
「俺はどちらだろうと、仕事は仕事でやるつもりだ。それだけのことに何が不満がある?」
「っ、貴様!!」
……だから、なぜそこまで怒る?
仕事を二刀流でやっている人間なんぞ、いないわけではないというに。
「こらこら二人とも、子猫嬢の言う通りだって。戦闘の連携は互いの仲も悪さで死に直結すんだから」
「どんなに仲悪かろうがビジネスパートナー的な感覚でいいじゃない。ここ仕事場なんだよ? 下手な私情で死ぬ気? それこそ無駄死になると思うけど」
「夜部君!! それフォローじゃないからぁ!!」
「っ、ですが!!」
「シャラーップ!!」
「っぐ!?」
「っ!!」
論手司令官は俺と剣城の両方の頭を同時にチョップを下す。
俺まで叩く理由あるか? 何もしてないんだが。
「っ……論手司令官、どうして俺まで」
「喧嘩両成敗じゃボケぇ。鋼陽も剣城は直情馬鹿なんだからそこわかってるとこだろうが。煽んじゃねえ」
「……すみません」
……だが、叩く理由はないのでは? と、物申したい。
「論手司令官、俺が殴られる理由はないと思われます! むしろ、コイツの方が、」
「おいこらぁ剣城! そこお前のダメなとこだって言われたよなぁ!? 候補生だった時にも嘶堂司令官からも注意されてんだろうが!!」
「そ、それは、……しかしっ」
「お前はもう少し物事の捉え方を柔軟にしろ! 難しいなら柔軟に対応する術を自分で探せ。凝り固まった思考は、戦場では自殺行為だぞ」
「うぐ……っ」
……論手司令官の言葉は一理ある。
俺自身も剣城に苛ついて煽ってしまっていなかったかと言われたら嘘になる。剣城に対しては、いつもなぜかこうなってしまうのは学生時代の時もそうだ。
……俺も、凝り固まった態度は改めなくてな。
「はい、返事!」
「「……はい、ごめんなさい」」
お互いを見ずに美器用に謝る二人に、論手は心の中で呆れながらも手を叩く。
「よし、いい子! んじゃ、説明する前にもう一人、紹介すんぞー」
「え!? 誰誰!? 新たなコウハーイ!? 女の子がいいー!」
「あはは、入れー」
会議室の扉が開けられたかと思うと、見慣れた赤髪が目に入る。
軽く手を上げ、歯を見せて笑ってくる。
「よ! 鋼陽っ」
「……祓波?」
「おー、まぁ統烏院は知ってるわな。新人の祓波継一郎君です! 仲良くしてやれなー」
ライングリムの制服を着た祓波は満面の笑みで自分に笑いかけている。
動きやすく、彼の好きなスカジャンを模した制服の上着を見て、ブレないなコイツ、と逆に呆れた。
「ガーン!! 女子じゃなかったぁ! この中じゃアタシ完全に紅一点じゃん!!」
「えー? 子猫嬢ボッチ悲ちー?」
「るっさいバカァ!! イジるなぁタクのバカァ! えーん!!」
「優しくしてやりなよ、タクマ」
「士貴ちゃん……っ」
「ちゃん付けは無しだよ? 猫ちゃん」
夜部先輩は猫本先輩の頬を摘まむ。
猫本先輩の頬が柔らかいのか、少し伸びている。
「あうぅー!
「マナーは大事だよ。ね? そうでしょ」
「あぃい……っ、ごめんなさい」
「わかればいいの。さ、論手司令官の説明を聞こう?」
「あい……」
両頬を摩って、涙目になっている猫本先輩は哀れだ。
何が夜部先輩の気に障ったのかはわからない。
見た感じ……仲いいように見えるが。
「んじゃ、今から彼岸花失踪事件について説明をするぞー席に座りなさーい。祓波くーん」
「はいっ」
剣城がこちらを睨みながらも、別の席に着席する。
俺も剣城とは離れた席に座った。
「んじゃ、ここにいる全員知ってるだろうが彼岸花失踪事件という長期任務にお前らも参加する運びとなった。どれだけ拒否しようがお前らには絶対参加してもらう」
「どうして新人である統烏院鋼陽と祓波継一郎も参加を?」
「アヒナ・ビーガンの標的の一人が統烏院鋼陽だと発覚したからだ、それに祓波もアヒナ・ビーガンの姿を確認している。情報共有するなら、適任だろ?」
「「「「!」」」」
……四人が目を見開くのも当然だろう。
だが、あの女がどうして俺を標的にするのか理由はまだわからん。
新人だからと甘えず、俺も対処すべきことなのは確かなのだから。
「……ちょっと待ってください」
「はい、国木田。質問を許す」
「彼岸花失踪事件は今までほとんど掴めていない状態でした。それがなぜ、新人になったばかりの彼が標的に? 今までの標的は処刑人も含め、普通の一般人も入っていたはずです……彼女がコウ君を狙う理由も判明したわけじゃないんでしょう?」
「アヒナ・ビーガンが直接、俺を狙うと言ってきました。それは確かです」
「え!? そうなの!?」
「……それ、本当?」
「はい」
「嘘じゃないのか?」
「いいや、祓波もいたんだ。間違いないぞ」
「「「「…………」」」」
……沈黙、か。しかたがないだろう。
俺は彼岸花失踪事件について今回が初だし、そのような事件があったことさえもニュースや新聞の記事で載っていなかったから知るよしもない。
この四人も、この事態は異例のはずだ。
先に口元に手を当てていた夜部先輩が論手司令官に質問を投げる。
「……なら、俺たちは彼の護衛でもしろと?」
「そうだ。アヒナ・ビーガンにいつ狙われても問題ないようにな。そしてこれから彼岸花失踪事件でのチームに統烏院鋼陽は必ずいてもらうことになる」
「……チーム?」
前回、一二部隊のリーダーから説明は聞いたが……このメンバーのチーム名は、なんになるのだろう。
「そうだなぁ、統烏院を守るチームだから……サンガードズ! だ! 覚えておけよぉ、他の処刑人たちにも連絡しておくから、それでお願いな」
「ええ!? ダッサ―! ロンちゃんネーミングセンスダサいよぉ!!」
「太陽を守る者たち、的な感じなのー? 安直ですねー」
「安直の方がわかりやすいだろうが! 俺にお洒落を求めんなっ! ちなみに彼岸花失踪事件が解決するまではサンガードズに固定だ!」
「「「えぇえええええええ!?」」」
「……不快だっ」
「いいんじゃない? 名前のセンスは感じないけど、仕事で必要最低限の理解しやすいチーム名だし」
「ちょっと夜部、それ本気で言ってる?」
「どういう意味?」
……みんな、嫌そうにしているな。一人を除いて。
俺も思う。はっきり言って論手司令官のチーム名の命名がダサい。
こそこそと、国木田先輩が猫本先輩に声をかける。
「絶対、論手司令官はゲームの主人公のキャラの名前、ああああとかにしてそうだよねーうん、そんな雰囲気ある絶対」
「あー! だにゃーって思う。親になったら子供に絶対適当な名前つけそう!」
「わからなくはないかもね」
「……反論はできませんね」
「こら、先輩たち! 統烏院鋼陽!! 論手司令官が話しているのだから、聞かなくてどうする!?」
「お前らー聞こえてんぞー? 後で国木田ぁーお前説教な」
「えー……嫌ですぅ」
「拒否権ねえわボケぇ! この空気で茶化そうとしてんじゃねえ!」
「ちぇー」
口をすぼめて面倒だと頬に本音を書いている国木田先輩はムードメイカー的な立ち位置なのかもしれない。
「……というわけでリーダーは夜部、お前がやれ」
「まぁ、そういう流れだろうと思ってたけど……それで? 俺たちはどこへ行けばいいんですか? 論手司令官」
「……情報班の予測演算で、今日の深夜新宿駅にアヒナ・ビーガンが現れるのは確立された」
「……最近、新宿方面で事件がレムレスが出ていますよね? 何か関連が?」
「確証はないが何かしらの縁を感じてやまない……手を抜くなよ? お前ら」
「「「「「「はい」」」」」」
論手司令官は会議室の時計を指さす。
「みんな、任務スタートだ! サンガードズの意地を見せてやれ!!」
「だから、ダサいって」
猫本先輩が突っ込みを入れる中、俺たちは会議室から出る。
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