第6話 レムレスとの初戦闘 前編

「戦い方はわかるか?」

「……どうすればいい」


 聆月に問いながら、レムレスとの距離を測る鋼陽。

 聆月に初めて出会った時の前世ではレムレスなどいなかった。レムレスを認識したのだって、今世で初だ。だからこそ、コイツの対処法などまったく知らん。


「今の私は分身だ。本来の私の力は発揮できないぞ」

「分身なのにあんなことしたんだな、大胆な奴だ」

「は、話を戻すな!! 死にたいのか!?」

「そういうことにしておいてやる」


 聆月がまた顔を赤らめたのを見て、よしとすることにした。力を借りたのならと、レムレスに突撃し、なるべく祖父から切り離そうと刀を振る。


『ガガッ!』


 刃は通り、手ごたえもある。聆月から力を借りたおかげ、なのだろう。

 レムレスは最初の一撃から、一つ一つの俺の攻撃を避け始める。


「くそっ! 埒が明かない!!」

『ガガガ、ガガ』


 レムレスはかまどの方へ飛び込んだ。

 なぜ唐突にレムレスはかまどに飛び込んだのか理解できず、一度刀を降ろした。


「……どういうつもりなんだ?」

『――鋼陽。聞こえるか?』

「! れ、」

『口にするな。目の前のレムレスに知性があるなら直接話しながらは危険だ』


 ……念話、のようなものか。

 隣にいる聆月の顔を視線だけ送ると、竈の中に入ったレムレスを見据える。

 鋼陽は彼女も向ける敵へと視線を定める。つまり、わざと知性があるかもしれないレムレスを油断させるための作戦、という意味か。

 レムレスの生態はわからないが、安堵はいけない、ということでもあるのだろう。


『……わかった。だが戦術なんぞ今世は剣道部での剣技程度しか心得はないぞ』

『ならば僥倖だ。お前の刀には、八咫烏やたがらすの火の力が宿っている……お前にならその刀を扱えるはずだ』


 八咫烏、か……日本神話に出てくる導きの神、太陽の化身だったか。

 胸の中で滾る熱が込み上げてくる。

 ……刀を握っていて、よくわかる。祖父が作り上げた、最高の刀剣だと。

 

『だが、最も必要なのは……力を扱えることじゃない』


 そうだな。それに、俺はあの化け物に一発入れなくては気に食わん。


『体は鈍っていないだろうな? 鋼陽』

『当然だ』

『ならば尚の事……やるぞ! 鋼陽!!』


 ――わかっている!!


 レムレスは、竈から顔を出した。

 霧のごとくぼやけていた体躯が、しっかりと形を成し、鍛え抜かれた刀剣よりも暑苦しく熱を持った人型……火を吹き出す巨体の大男となる。


『グァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

「来るぞ!!」

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