第4話 レムレスとの初戦闘
「戦い方はわかるか?」
「……どうすればいい」
聆月に問いながら、レムレスとの距離を測る鋼陽。
聆月に初めて出会った時の前世ではレムレスなどいなかった。今前世のことで思い出せているのも聆月と一緒に殺された時のことだけしか覚えていない。
コイツの対処法はまるでわからん。
「今の私は分身だ。本来の私の力は発揮できないぞ」
「分身なのにあんなことしたんだな、大胆な奴だ」
「話を戻すな!! 死にたいのか!?」
「そういうことにしておいてやる」
聆月と他愛もないやりとりに満足しつつ、彼女の力を借りたのならレムレスを倒せるかもしれない。
鋼陽はレムレスに突撃し、祖父から切り離そうと刀を振る。
『ガガッ!』
聆月から与えられた力を籠め攻撃の手を止めない。鋼陽の剣戟にレムレスは攻撃を避け続けている。
まるで、爺さんと剣道をしている時と似た感覚さえ覚える。
俺はたった一度も爺さんに一発入れられたことがない。
まさか、爺さんの心臓を食って爺さんの動きを模倣している……?
「くそっ! 埒が明かない!!」
『ガガガ、ガガ』
レムレスは
なぜ唐突に飛び込んだのか理解できず、一度刀を降ろした。
「どういうつもりなんだ?」
『……鋼陽、聞こえるか?』
「! れ、」
『口にするな。目の前のレムレスに知性があるなら直接話しながらは危険だ』
……念話、だな。
隣にいる聆月の顔を視線だけ送ると、竈の中に入ったレムレスを見据える。
鋼陽は敵へと視線を定める。
わざと知性があるかもしれないレムレスを油断させるための作戦か。
レムレスの生態はわからないが、安堵はいけない。
『……わかった。だが剣術は現世の剣道と前世の一部の技しか使えないぞ』
『ならば
八咫烏、か……日本神話に出てくる導きの神、太陽の化身だったな。
胸の中で滾る熱が込み上げてくる。
……刀を握っていて、よくわかる。祖父が作り上げた、最高の刀剣だと。
『だが、最も必要なのは……力を扱えることじゃない』
そうだな。それに、俺はあの化け物に一発入れなくては気に食わん。
『体は鈍っていないだろうな? 鋼陽』
『当然だ』
『ならば尚の事……やるぞ! 鋼陽!!』
「――わかっている!!」
レムレスは竈から顔を出した。
霧のごとくぼやけていた体躯が、しっかりと形を成し、鍛え抜かれた刀剣よりも暑苦しく熱を持った人型……火を吹き出す巨体の大男となる。
『グァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「来るぞ!!」
鋼陽は鋭利な視線でレムレスから祖父の遺体を守護するためにレムレスの前で構える。誰かを守りながら戦うことは慣れていないがやるしかない。
『鋼陽!』
「やってやる!!」
息を整え、目蓋を瞬かせると刀剣に聆月の水が宿る。
鋼陽は鋭く、刀をレムレスの頭へと叩きつける。
「面!!」
『ガガガガぁ!! ガガガガガ!!』
レムレスは悲鳴を上げ額を抑える。
……祓波に無理やり遊ばされたゲームでいうなら、コイツはおそらく火属性。ならば、聆月の水の力は有効な攻撃手段のはずだ。
「……効いているな」
『ああ、そのようだ。続けて叩き込め!』
「ああ!」
再度鋼陽は、レムレスに斬りかかり斬撃を与える。
「面!!」
『ガガガガガァ!!』
レムレスは刀に纏う水を恐れ悲鳴を上げる。
額に叩き込もうとすると手で薙ぎ払われ、まるで怯えるように燃える体で中庭へと出る扉を乱暴に通っていった。
『ガガガガガぁ、ガガガガぁ!!』
『逃げるぞ! 鋼陽っ』
「待て! 聆月っ」
炎を纏ったレムレスが無理やり中庭の扉から出て言ったせいで、扉の周辺が燃えている。中庭への扉に、聆月に付与された水の加護で扉の火を鎮火させる。
屋敷に燃え移らないのを確認して、安堵の息を漏らす。
「……これで問題ないな」
「うわぁあああああああああああ!!」
「っ!!」
永嗣さんの悲鳴が聞こえ、鋼陽は中庭の扉を潜る。
レムレスを追いかけ、且つ急いで叔父の声がする方へと走り出す。
視界には腰が抜けたのか立ち上がれない永嗣さんと襲い掛かるレムレスが見えた。
「ひ、ひぃ、来るなぁっ!!」
『ガガ、ガガガっ』
燃えるレムレスは口を大きく開け永嗣さんを喰おうとしている。
まだ、体が馴染んでないが……やるしかない。
息を整え、鋼陽は刀の使を握る。
静寂と緊張が張り詰めた空気の中で、一人その言葉は発せられる。
「――――
二人の間に割り込み、永嗣に襲い掛かろうとしているレムレスの腕を刀で受け止めた。
「こ、鋼陽君!? どうして、」
『ガガッ!!』
「……動けますか?」
「い、いや、」
「手早く片付けます……!! 聆月!!」
「わかっている!!」
聆月は目を瞑り鋼陽が構えている刀に力を込める。
すぅ、と息を吸いながら鋼陽も目を伏せる。
レムレスは、鋼陽の動きを隙と判断し襲い掛かる。
『ガガガガガ!!』
「鋼陽君っ!!」
「――――させないぜ!」
見知った男の声に、一瞬目を見開いた。
レムレスの影が忍者の影踏みのごとく拘束しているのが目に入る。
「継一郎君!?」
「やれ! 鋼陽!!」
彼の言葉を信じ意識を集中させる。
足に力を込め、息をゆっくりと吐く。
『ガガガガガガッ!!』
「――
口に出した言葉と同時に一気にレムレスの背後に回る。
『ガ!?』
「――――
怪物の驚愕の声を無視し鋼陽は抜刀する。
水飛沫が刀に纏い、流れる刀剣は半月を描きレムレスの首を切り落とした。
レムレスの首を切り落とした刀を軽く横に払う。
水飛沫で落ちた黒い血痕は、白砂の中庭の中へと落ちていった。
流月花……前世では、敵の首を背後から切り落とすための技だったが、レムレス相手にも役に立つとは想像もしていなかった。
倒されたレムレスを見て、祓波は永嗣に駆け寄った。
「大丈夫っすか? 永嗣さん」
「……あ、あはは。立てないや」
「肩貸します」
「ありがとう……鋼陽君は、大丈夫?」
「はい」
「やったな、鋼陽!」
他所に親指を立て、軽快に笑う祓波には一言物申したい鋼陽は静かに睨む。
「……お前、なんでここにいる?」
「うぐっ……いいじゃんか、別にさぁ」
「渋谷で別れただろ、後をつけてきたな」
「ギクッ!! そ、それはぁ……」
「話は後で聞くからな」
痛い所を突かれたのか滝の汗をかき視線を逸らす祓波。
ああいう力が使えるってことは処刑人側の人間と見ておかしくない。
渋谷の時にはしていなかった、木製の数珠が目に入ったからもある。
「鋼陽君! 秀蔵爺さんは!?」
「……心臓を除いては、遺体は守れたかと」
「……そう、か」
永嗣さんは、悲哀も混じった笑みで俯く。
しかし彼はすぐに顔を上げた。
「ありがとう鋼陽君」
「……いえ」
俺にできることはやった。爺さんの遺体も、心臓を除いては守り切ったんだ。
葬儀の時には、ちゃんと別れをすることもできるだろう。
拳を強く握る。涙など、俺には許されていない。
本当の家族の一人である、永嗣さんたちが許される。
俺は爺さんを救えなかった、ただの養子……それでいい、いいんだ。
「鋼陽……」
「僕は、統烏院さんたちに連絡するから、鋼陽君は継一郎君と一緒に待っていてくれるかな」
「わかりました」
「はいっ! んじゃ、鋼陽、ちょっと向こう行こうぜっ」
「は? おいっ」
祓波に無理やり手首を捕まえられ、鍛冶場の方へと入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます