ぶうーん

夜中三時、私はベッドに寝転がっていた。塾帰り、疲弊した体、私は疲れていた。

……ぶうーん……

背後から、虫の羽音が。いや、背後ではなく、天井からだ。

……ぶうーん……

耳障りが悪い、思わず両手で耳をふさいだ。

耳を塞いでいてもなる雑音、鬱陶しかった。羽音は嫌いだ。

ちらと、まぶたを開けて、音がする方を見てみた。そこには、カメムシ。緑色のカメムシがじーっと壁に張り付いていた。

さっさと出て行ってくれないか、そう思いを込めて窓を開けるが、カメムシはびくともしない。

……ぶうーん……

……ぶうーん……

ああもううるさい!我慢の限界、すぐさまあいつを駆逐しなければならない。しかし、私は虫が苦手だ、勇気もない。

こんな時には、現実逃避。私はベッドに潜って、ふて寝を決行した。


起きた。カメムシの羽音はもう聞こえなかった。どこを見ても、忌々しい緑の身体はどこにもない。

拍手喝采!私の作戦は成功したのだ。心が躍る、ルンルン気分、素晴らしい!情緒不安定な私は、ただ虫がいなくなっただけなのにも関わらず、心が躍りに踊っていた。

ルンルン、ルンルン、楽しいな。


夜、風呂に入って、タオルを体に巻いて、服を着ようとしていた私の目の前には、あの忌々しいものが。

暖かい、オレンジ色の光を放つ明かりに照らされて、緑色の身体が、ふんわりと光っている。ふんわりふわふわ、穏やかな気持ちには一切ならない。

やはり、駆逐しなければならない!決心がついた私は早速行動に出た。着替えて、一枚のタオルの上にティッシュを大量に乗せて、準備万端。

戦の始まりだ。私はばっと体を捻り、緑にタオルとティッシュを被せる。そしてそろそろと壁に沿わせながら、その体を包み上げる。作戦成功。

私は家じゅうを跳ねるように動いて、ベランダへと急ぐ、そして、ベランダにあるゴミ箱に、ティッシュごと放り投げた。

「ふへへへ」

思わずそんな声がこぼれる。私の完全勝利、所詮はただの虫だ。私は人間、勝てるに決まっていたのだ。


部屋へと戻る。ベッドへと転がる。今日は頑張った。このまま寝よう。

……ぷ~ん……

取りあえず、聞かなかったことにしよう。頭の上にある窓をそろりと閉めて、私は眠りについた。

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取り留めも無いこと Nekome @Nekome202113

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