第36話 電車
そして、服を買い終わったので、コンサートホールに向かうことにした。とはいえ、まだ電車に乗る必要がある。
「雄太、私に着いて来てね」
「うん」
と、乗り換えの時に、奈由香にしっかりとついて行く。じっさい、この駅にはあまり行ったことないので、迷子になるリスクがある。
しかし、奈由香が手を引っ張ってくれるので、安心だ。
ああ、なんかいいな、こういうの。二人で出かけている感じがして。
そんなことを考えていると、周りの人の肩に当たってしまった。慌てて「すみません」と謝っておく。すると奈由香が、
「ボーとしないでよ」
「ごめん」
そして再び歩き始める。
「ねえ」
「何ですか?」
「雄太がボーとしないように話しよ?」
「俺をどんだけ信用してないんですか……」
「だって、実際ぶつかったじゃない」
「それを言われると弱い……」
「それにただ、歩くんだと面白くないしね」
と、奈由香が話をし始める。
「私ね、なんで雄太に最初話しかけたかって言う話ね」
思ったより真剣な話? だが、俺も気になってた話だ。
「話していい?」
「どうぞ」
「それはね、私雄太の事頬っておけなかったというのもあるけど、少しだけ気になってもいたの。そう言う友達になる敵な意味でね。顔もなかなかいいし、話してたら面白そうな感じがしたの。それはもう見事に会っていたみたいで、友達になったら楽しかった。も私最初は雄太の彼女になるとは思ってなかったけどね。でも、今ね、すっごく楽しい。これは本当に雄太のおかげって思ってる。本当にありがとうね、雄太。とはいえ、緊張して普段の私のテンションじゃないかもしれないけど」
「いえ、こちらも、白状すると最初から奈由香のこと好きだったんですよ。何ならこっちから告白しようと思ってたくらいに。でも、なかなか告白する勇気が出なくて、先延ばしになって、もうどうしようかと思っていた時に奈由香が『友達になる?』って言ってくれたんですよ。あれはもう本当にうれしかった。けど、なんかその、そういう目的で奈由香と一緒にいるなんて思われるのが嫌で言ってなかったんですけど」
「でも、雄太全然卑しい感じとかなかったよ」
「まあ、そう言う感じだしてませんでしたしね」
「別に行為もたれてたから嫌とかなかったけど、それは置いといても雄太なんか嫌な好意じゃないから」
「嫌な好意とかあるんですか?」
「そりゃあ、なんかこうストーカーみたいな?」
「確かにそれは嫌だ」
「だから雄太の好意は良かったよ」
「ありがとう……」
そして、俺たち二人は照れながら歩く。
「なんか会話無くなっちゃったね」
「そうだな」
「電車で何を話そっか」
「うーん。なんかこれからのコンサートの話とか?」
「いいね。覚悟しといてよ。こうなったら私いろいろとうるさいから」
「うん。叩き込んでください!!」
「うん。じゃあ、電車乗ったら説明始めるね」
そして二人で少し歩き、電車に乗った。
「今日聴くのはね。主にヴィヴァルディの曲なの。ヴィヴァルディ知ってる?」
「知らない……」
「たぶんねえ、これなら知ってると思う」
と、奈由香は小声で歌い始めた。
「これなら多分知ってる」
「良かったー。この曲春っていうの。今日流れる曲」
「そうなんだ。いい曲だな」
「うん。結構好き。でもほかにもいい曲いっぱいあるから色々覚悟しといてよ」
「覚悟しといてよって、まるで耐えるみたいじゃん」
「確かに」
そう言って奈由香は笑った。
「それでね、ヴィヴァルディはね一六七八年にイタリアで生まれた作曲家で、最初は司祭だったんだって。赤い髪の毛だったから赤毛の司祭って呼ばれてたらしい。でもぜんそくがひどかったらしいの。それで、司祭だけど、そこまで美沙とかはしてなかったらしい。で、四五歳くらいの時に四季を作曲したみたい。後はオペラもやってたみたいね。あと、あのあんなテレジアの父親のカール六世とも会ってたらしい……」
その後も奈由香はいろいろと教えてくれた。他の曲の魅力とか、他の作曲家とかの話も。正直言って俺の知らないことばっかりだった。でも、聴いてて楽しかった。奈由香の音楽好きも分かったし、ほかにもいろいろとわかった。奈由香が話し終わった後、「私ばっかり話しててごめんね」と手を合わせながら謝ってきたが、俺は普通に楽しかったので、「いや、結構面白かったし良かったよ」と言ったら、「ありがとう」と喜んでた。
そして、駅に着いて少し歩いたらもうコンサートホールだった。そしてそれが目に映った瞬間、
「着いたー!!」
と、奈由香が叫んだ。
「テンション高いですね」
「そりゃあそうよ。楽しみだもん! あ、そうだチケット渡してなかったっけ。はい」
と、奈由香にチケットを渡された。チケットには五五〇〇円と書いてあった。
「え? 五五〇〇円? こんなにするんですか?」
「うん。だってプロが演奏するんだよ」
「これは……しっかりと聴かなくては」
「だね」
「てか、お金払いますよ」
「良いって、一人で聞くの寂しいし」
「まあそうですけど」
「だから、気にしないで」
「うん」
そしてチケットを渡し、コンサートホールに足を踏み入れる。
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