第30話 下村絵里の告白
そして翌日。
「あの、奈由香」
絵里が奈由香に話しかけた。絵里の心音は悲しみ自身にも分かるくらい、激しく動いていた。それを聞いて彼女は自身が緊張してることを再確認する。だが、引くわけにはいかない。
「何?」
奈由香が優しく聞き返す。それを聞いて、絵里は息を軽く吸い、
「私奈由香のことが好きです! 付き合ってください」
意を決して絵里は奈由香に告白をした。もちろん奈由香と付き合うためだ。雄太が奈由香にアタックし続ける以上ここで先に奈由香を手にしないとまずい。
その思いが、絵里を突き動かしたのだ。自信はあるわけではない。元々女同士で付き合うなど、漫画の中だけの話だ。 だが、そんなことはどうでもいい、奈由香のことが好き、その思いは一切変わらないのだから。
「私、女だけど」
奈由香は絵里が想像していた通りの返しをした。絵里にはそう言われるのはわかっている。ここは漫画の世界ではないのだ。でも!
「……それでも! 私は最初このクラスで奈由香を見た時、かわいいなって思った。確かにそれは最初は女の子に対して……友達になりたいっていう思いからだったのかもしれない。でも、今は違うってはっきりと言える、友達どまりじゃダメなんだって。私は恋愛として奈由香が好きなの。気持ち悪いとか思われるかもしれないし、そんなの、だめとか、いろいろ言われるかもしれない。でも、これはきもいって言われることを覚悟でい飛んだ、いわば人生をかけた告白なの。どうか受け入れてほしいです」
と、絵里は麗華に対してすがるような気持ちで手を合わせながら、用意していた告白の言葉を口にした。あとは、運命を信じるだけだ。
「絵里……」
無言の時間が続く。その間にも絵里は心臓がはち切れそうな思いだ。その時間が長く続けば続くほど、不安な気持ちになっていく。
自分じゃあだめなのか、やはり女同士の恋愛なんて夢見るべきじゃなかったのかなんて言う考えが絵里の頭の中をめぐる。
「絵里、気持ちはわかった。でも……やっぱり私はそう言うのは……」
瞬間絵里はその言葉を意味を瞬時に悟り、その目から涙をこぼれ始めた。
「絵里は勇気をもって私に告白してきたのはわかってる。私も絵里が好きよ。でも、それはあくまでも友達として。だから友達からやり直しましょう!」
「私は……そんなことしたくない。私は奈由香を独り占めしたい。一緒に住みたい、毎日一緒に遊びたい。だから……友達とか親友とかじゃダメなの。唯一無二の存在じゃなきゃ」
「ごめん絵里。私は絵里も麗華も雄太も好きだから」
そう言って奈由香は麗華のもとを去って行った、少し暗い顔をしながら。そして奈由香が教室の中に入って行ったあと……。
「うわあああああああんんんんん」
絵里は号泣し始めた、人目もはばからず泣き出した。やはり女同士だと、友達までしか無理なのかと……。
「……雄太……麗華……」
教室に帰ってきた奈由香が暗い顔をして俺たちに話しかけてきた。いったいどうしたんだろう。常に明るい奈由香がここまで落ち込んだ顔をするなんて……。
「絵里になんか……その……告白された」
え? 先を越された? いや、この奈由香の表情を見るに下村さんが失敗してそうだな。ならよかった。
「それって」
麗華が言葉を発する。
「正直、付き合ってほしいなんて言われるとは思ってなかった、だから返し方なんてわかってなかった、でも一つ……独り占めしたいって言ってた、私は……」
「奈由香……」
「……」
「……」
奈由香は口を閉ざした。俺たちは下村さんの件を知っていたが、奈由香にとっては初耳なんだからそんな反応になるのは当然だろう。
それにしてもやはり少しそう言う思考はあったのか。独り占めしたいという気持ちが。そりゃあ奈由香はショックだろう。自分の友達が実は若干メンヘラ気のある性格だったなんて。
「奈由香」
俺は奈由香に一言話しかける。
「俺は……何も言うことは出来ませんが、一つだけ。俺たちは味方ですから。つらいことがあったら何でも言ってください」
「ありがとう雄太」
と、奈由香は俺にハグをしてきた。
「奈由香」
と、奈由香をよしよしする。いつもならドキドキで頭がいっぱいになるし、心の中ではドキドキしているが、今は奈由香を慰めるのが先決だ。
そしてそれは五分くらい続いた。
「私はね、別に今も絵里のことは嫌いじゃないんだけど。でも、今は会えないかな」
「それがいいですよ。お互いのためにも。それに今は麗華が下村さんの聞き取りに行ってますし」
「うん。雄太!」
それに俺自身も恋のライバルは消えていった方がいいし。まあまずは俺が告白しなきゃならないんだけど。
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