第29話 レストラン

「雄太何を頼む?」


 と、奈由香が聞いてきた。このレストランは料理の値段が八〇〇円程度になっていて、学生にも優しい値段設定だ。


「俺は普通にハンバーグですかね」

「ハンバークか。じゃあ私はオムライスかな」

「ああ、オムライス行きますか」

「ええ、オムライスってご飯と、卵の味の触感が合わさっていいんだよね」

「なんかそう言うの聞いたら俺も少しオムライス食べたくなってきました」

「じゃあ、雄太もオムライス食べる?」

「それって……」

「一口交換。しない?」

「いいですね!」


 と、一口交換の約束を取り付けることが出来た。


「麗華と絵里も決まった?」

「決まったわよ」

「私はまだ。迷ってて」


 下村さんはまだ決まっていなかったようで、メニュー表をぺらぺらとめくっていた。


「じゃあ、これとかどう? パスタとか。おいしくない?」

「うん。じゃあパスタにする」

「決まりね。じゃあ呼びましょ」


 と、店員さんを呼び、そのまま注文した。奈由香YESマンかよ。下村さん。


「そっち何か面白いことあった?」


 と、奈由香が聞いた。


「まあ、ずっと絵里がぐずってたわね。奈由香と一緒に回りたかったって」

「ちょっと麗華!?」


 下村さんが麗華の言葉に対して驚きの感情を見せた。奈由香になのか俺になのかは分からないが、知られたくなかったことのようだ。


「言ってたものは言ってたでしょ。それは相も変らぬ事実なんだし」

「うぅ」

「だから、こっちは絵里の我儘に付き合うの大変だったわ」

「それはごめんって」

「ふふ。ごめんね」



 そして、そのままご飯が来た。オムライスとハンバーグとカルボナーラパスタと、麗華の頼んだリゾットが届いた。


「じゃあ、雄太後で一口交換しましょう」

「はい!」


 と、俺たちはまずそれぞれのご飯を食べた。つまり俺の場合このハンバーグをだ。


「おいしい!」


 肉汁がしっかりと出ていて、しっかりと肉の触感がするし、ソースも肉を邪魔するわけでもなく肉味を引き出していて、なんかもう俺の食レポ下手だけど、兎に角めちゃくちゃおいしい。


「ああ、最高」

「いいねここ!」

「奈由香も満足ですか?」

「うん。オムライスちゃんと家で食べるのよりもおいしい」

「逆においしく無かったら困りますけどねそれ」

「まあね……麗華はどう? そのリゾットは」

「うん。普通においしいわよ。チーズの味がいい感じについていて」

「絵里はどう?」

「おいしい! なんかこれ、飽きない」

「じゃあみんなおいしいってことね。良かった。この店にしたの私だし」

「奈由香のチョイスが間違ってるなんてことあるわけないじゃないですか」

「ちょっと、雄太。いいこと言ってくれるじゃん」


 と、奈由香はスプーンでオムライスを救い、口の中に入れる。


「おいしい。あ、そうだ雄太。そろそろ一口交換する?」

「いいですね!」

「じゃあしよっか……」


 と、再び奈由香はスプーンでオムライスをすくって……


「はい、あーん」

「は? え?」


 奈由香が思い切り俺の口にオムライスをぶち込もうとしているような感じなんですけど。え? これは受け取っていいものなのか?


「奈由香……雄太困ってるでしょ」

「え?」

「もう、鈍感なんだから。雄太は男子で奈由香は女子だから。違うのよ」


 それに対して奈由香は「えー、そういうもの?」と言いながら頬を膨らませている。可愛い。


「じゃあお皿に一口分いれよっか」

「それが一番良いです。俺の……精神的に」


 流石にあーんは精神体力持たないからな。奈由香のあーんは。俺は耐えられん。


 そして奈由香のオムライスを一口食べる。


「奈由香のオムライスもおいしいですね」

「でしょ! このオムライス美味しいでしょ」

「うん。おいしすぎます!」

「奈由香……私とも一口交換してくれない?」


 下村さんも一口交換を頼んだようだ。くそ。俺だけの特権だったのになあ。もしこれが麗華だったらもやもやしてないだろうけどなあ。


 そしてなんやかんやでもう一口交換していた。そしてそれを見ながらハンバーグを食べる。おいしい。


「私とも一口交換しない?」


 麗華が俺に対して話してきた。


「まあ、いいですけど」


 と、ハンバーグを一口サイズにして取り出す。


「それで、奈由香とはどこまで行った?」

「どこまでって?」

「告白した?」

「まだですね」

「えー。もう告白しちゃってよ」

「勇気いるんですって……」

「私が言っちゃおっか? 雄太が奈由香を好きなことを」

「それはだめですよ。俺の口からちゃんと言わないと」

「でもこのままだと、雄太延々と言えないでしょ」

「それを言われると弱いですけど」

「じゃあ、一週間告白できなかったらわたっしが言うってことでいい? チャンスは来週の日曜までよ」

「……わかりました」


 一週間後。つまり、奈由香とデートするひだ。うん。俺はやるぞ。


「二人で何の話してたの?」

「いや、大した話じゃないわ。一口交換しましょうって話よ」

「へー。まあ私も麗華とも一口交換したい」

「いいわよ」


 そして俺も麗華からもらったリゾットを口にくわえる。おいしい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る