よくある異世界転生の話

ろくろわ

普通の男の普通の話

「あっやべぇ」

と囁く暇も無く、ジョナサンはバナナで滑り階段を踏み外し階下へとまっしぐらに落ちていった。

 次に目を覚ますと、街中にいたはずのジョナサンは、夜空に大小四つの月が輝く草原の真っ只中にいた。現代っ子のジョナサンは、この状況が飽和しつつある異世界転生であると当たりをつけていた。そうと分かればジョナサンは分かる所から情報収集を行う。

 まず周囲には見たことの無い生物などはいない。そしてお決まりのスキルやステータスバーと言ったものも一切出てこない。

 つねると痛いしお腹だって空く事から、身体強化系の恩恵もない。試しに誰かと声に出したが、まるで反応がない。物理の法則は地球と変わらなそうな事から、四つ見える月以外は魔法や魔物と言った異世界ではなく、現実寄りだか文明が遅れているタイプの転生だと思われた。

 ともあれ先ずは人を探さなければと、ジョナサンは闇雲に歩き出した。宛など無いから結局進まなければならないのだが、余りにも無鉄砲だった。

 結局三日三晩歩き続け、ようやく小さな村を見つけた。しかし異世界転生にお決まりの翻訳スキルがないため、言葉が分からず疎通がとれない。

 村の痩せ細った男たちが束になって一斉にジョナサンに襲いかかるが、それを全てちぎって投げた。勝負は一瞬だった。負けた男達は震えながら命乞いをしているようだったが、ジョナサンにはそんなことが一切伝わらなかった。

 ジョナサンが村をよく見てみると、電気や水道は無く、衣類も質素なもので随分と文明が遅れているようだった。

 これは当初の予想通り遅れた文明を立て直すタイプの異世界転生のようだった。

 だが、そんなことよりもジョナサンは痩せ細った男達の方が気になり、村の食事や運動スタイルを見直して鍛え上げていった。

 ジョナサンが来て一ヶ月もする頃には村には屈強なマッチョどもで溢れ出していた。質素な衣類は黄金の筋肉よろいで覆われ不要となり、電気にも勝る筋肉が村の動力となり、大抵の事は素手で出きるようになった。

 ここまで来て、ようやくジョナサンの頭に直接声が聞こえた。


「あのすみません。聞こえますか?」


 ジョナサンは大きく頷いた。


「あの大変伝えにくいのですが、人選ミスでした。私達の不手際でした」


 ジョナサンもそうだろうと思った。


「本来この世界には、体は弱いが頭脳明晰で文明を発展させていく方を転生させるつもりでした。それが誤って貴方を連れてきてしまいました。そのまま放置すれば、この世界に適応できず役目を終えるかと思っていましたが」


 ジョナサンは静かに頷いていた。


「ところが脳まで筋肉で出来ている貴方は、この世界のことわりを筋肉で解決していき、更には本来頭脳で発展させていく村を、筋肉で全て解決してしまい、退化させてしまった。何故、夜なのに明かりを灯さず見えるようになるんですか。と言うか猛獣相手の狩りに全員、素手で倒しに行くとか馬鹿なんですか?普通死にますよ」


 ジョナサン達にとっては当たり前の事であった為理解できなかった。


「なので誠に勝手ですが、貴方を元の世界に戻します。本来、一度転生した方を元の世界に戻す時は、時空が捻れ身体が引き裂かれるのですが貴方なら大丈夫ですよね?」


 その声と同時にジョナサンの身体が光に包まれた。ジョナサンは問題なく、この後普通に生き残って普通に帰ってきた。




 了

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よくある異世界転生の話 ろくろわ @sakiyomiroku

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