9.ウィリアムside

幼い頃から大陸一広い領土をもつシェリータ王国の王子としての自覚はあった。

自分の欲は出さずに、教師に与えられた教材を頭に叩き込み、それ以外にも国内外ジャンル問わず沢山の本も読んできた。

世界最強と言われるシェリータ王立軍の訓練にも、幼い頃から積極的に参加をし、今では王立陸軍の軍隊長と並べる程の剣の腕前だ。

王子という立場におごらず、積極的に陸軍、海軍の遠征にも先陣切って立ってきた。

王族の勤めとして、物心ついた頃から現在まで国の為に生きてきたウィリアムは、私情を殺し表情は堅く、情けをかけない。夜空色の髪に鋭い目つきの金の瞳も相まって、冷酷非道の王子として他国から恐れられてきた。

国の決定を全て受け入れてきたウィリアムだが、21年生きてきた中で初めて父である国王に反抗した。

「自分の妃となるものは自分で選ぶ。俺にはもう心に決めた女性がいる。それが出来ないのなら王位は捨てる。臣下に降りて弟のユリウスを支えて行くとする。」そう国王両陛下と宰相含む大臣達の前で宣言したのだ。

他国からは冷酷非道などと恐れられているが、

人一倍国思いで、常に正しい判断をするウィリアムを両陛下も大臣達も時期国王に推している。弟のユリウスは優しすぎるのだ。

国王たるもの、時には厳しい判断をしなければならない時もある。その重責にユリウスでは耐えきれないだろうと、周りは感じている。

冷酷な王子を優しく明るい王子が支えていく、兄弟のそんな国づくりを両親である国王両陛下は思い描いているのだ。

18で成人を迎えるこの国で、21にもなって婚約者もいなければ、立太子すらしていない。その為、国の政の中枢を担うもの達に焦りがでるのも必然だ。


ウィリアムが10歳の時、シェリータ王国の南東に位置するカルドラ王国の建国記念のパーティに両親と出席していた。

10歳の子供相手だというのに、大陸一の大国で世界最強といわれる国の王子に、親交を深めていきたいと目論む他国の王侯貴族らから、ゴマをすりまくった会話に嫌気が差していた。誰も自分を見ていない、見ているのは“時期国王”とゆう肩書きだけだ。

タイミングを見計らって、ホールを抜け出した。護衛もまいてたどり着いたのが、中庭だった。

パーティの賑やかな声が遠くの方で聞こえる。

そんな中、こんな所に来る人は居ないのだろう。誰もいない噴水の縁に腰掛けてやっと心地着いた。

少し経った頃、何やら明るい声が近づいてくることに気づいた。

ウィリアムは咄嗟に噴水の影に隠れてしまった。

影から覗いて見てみると、中庭にやってきたのは4、5歳くらいだろうか。可愛いらしい紫の瞳の女の子だった。夕焼けの空が髪に反射してオレンジのようなピンクのような、髪がキラキラとしてみえた。

今思えば純粋な曇りのない笑顔で笑う彼女に一目惚れをしたのだろう。

ただ隠れて眺めるだけで声もかけれなかった。

女の子は白い犬を連れていて、沢山犬に話しかけていた。

「ねぇソル。今日のドレスは走れないから、お花で冠を作ろうよ。」

「え?やだって?じゃあ四葉のクローバーを探そう!誰が先に見つけられるか、みんなで競走よ」

ウィリアムは、犬1匹に対して楽しそうに話しかける少女に釘付けだった。

実際は、人型で手のひらサイズのサラマンダー達精霊がたくさんいたのだが、見えないウィリアムには知る由もない。


しばらく経つと、少女の母親だろうか。同じ色の瞳をした女性が来た。

「お待たせ、帰りましょうか」

迎えに来た女性の所作や、ドレスの生地から、高位貴族だと予想はついた。

こんな人気のない場所に、犬と子供を待たせるなんて、とウィリアムは少しムッとしたが、加護をもつティナーリアにとって精霊は最強の護衛になるのだ。

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