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「いくら貴殿でも、私の婚約者を奪う事は許しませんよ」
入口で固まってしまっているティナーリアの後ろから、鋭く、でも心地よく耳に通る声が聞こえてきた。混乱して内容までは理解出来ていないが、心が落ち着く声だ。
「私の婚約者を奪おうとするとは、我がシェリータ王国に宣戦布告という事でいいですか。」
「ま、待て。ティナーリアと婚約なんてそんな発表されてないではないか」
「正式な発表はまだですが、内々に話は進んでいますので、直に発表となりますよ。
彼女は急な騒動に混乱してるようだ、おいで、少し休憩をしよう。」
手を引かれて会場から遠ざかっていく。
参加者達の混乱した表情が視界に入った。
「待て!勝手に話を進めることは許さんぞ!彼女は我が国の令嬢だ。」
遠くからエリオットの声も聞こえてくる。
(ーーーこの方はどなたかしら。綺麗な夜空色の髪ね。ソルが警戒していないって事は悪い人ではない?)
手を引かれ歩いているその後ろ姿を見ながら、心の中では疑問が止まらない。
(会場から離れるのには我も賛成だからな。無理やり連れ出そうとも思ったが。目立つの嫌だろ。もうすぐルーカス達も来るって。まあ、婚約どうこうは、どうにでもなるだろ。)
足元からそんな声がした。精霊同士で通信でもしてるのかしら。
連れてこられたのは、先程までいた中庭だった。ようやく腕を離されて、初めてしっかりと顔が確認できた。
「あの、・・・」
何か言わなきゃと思い口を開くが言葉が出ない。
「勝手に手を引いてきて申し訳ない。あぁ、自己紹介がまだでしたね。私はシェリータ王国第一王子、ウィリアム・シェリータ。まさかあなたがティナーリア・クロスター公爵令嬢だとは・・・」
第一王子殿下と聞いて、慌てて淑女の礼をする。
「シェリータ王国第一王子殿下とは存じ上げず、申し訳ありませんでした。あの場から離してくださいました事にもお礼申し上げます。でも、あの・・・どうして私の事を・・・」
知っているのですか、と声に出そうとした時、
ルーカスの張り上げた声に遮られた。
「おいウィル!どういう事だよ!なんて事言い出すんだ!」
「あぁ、ルーカスか。お前俺に大事なこと隠してやがったな。ああ、アレックスも久しいな。」
ギロっとルーカスを睨みつけながら、一緒にやって来たアレックスにも声をかけた。
「ご無沙汰しておりますウィリアム様。どういう事なのか伺っても?」
(ーーーお兄様達はお知り合いだったの。全く知らなかったわ。それにしてもルカ兄様はずいぶんと親しいのね。)
ティナーリアが呆気にとられていると、ウィリアムが口を開いた。
「2人が来たなら丁度いい。俺は“さっき言った事”を本当の事にしたいと思っている。」
「「んなっっ、」」
王子が突然言い出した事に3人は言葉が出なかった。
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