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初めて公の場にクロスター家の娘として立ったのは15歳の時。王家主催の社交会デビューのパーティだけだ。それも国王両陛下への挨拶が終われば、すぐに帰宅している。
屋敷の外で親しい人もいなければ、そもそも屋敷の敷地からもほとんど出ないため、ティナーリアの容姿はもちろん、性格など知っている人などいない。
優秀な兄達に比べ、謎に包まれた末娘の存在に人々は様々な噂を立てる。
病気で寝たきりや、人前に出られない醜い容姿、出来損ない故に部屋に引きこもっている、
など人々は口々に噂を立てる。
そのどれもが違っているのだが、噂に対してこれまで本人も家族もあえて触れた事はない。
幼い頃は留守番が嫌で、両親が王宮のパーティやお茶会へ行くのに付いて行った事もあるが、そのどれにも会場には入らずに、中庭でソルや他の精霊達と遊んで待っていたりした事もあった。
15歳で社交会デビューを果たしたら、成人となる18歳までの3年間は、学園に通うことになる。ティナーリアは兄達と同じく、母の故郷であるハインツ王国に留学している。
先代両陛下を祖父母にもち、現国王を叔父にもつティナーリアは留学中は王宮に滞在していた。ハインツの学園は学力主義なので、平民も多く通っている。その為他国のティナーリアの事を知っている者は少ない。それに貴族のやっかみが無いので過ごしやすかった。それでも目立たないよう静かに過ごしているので、お友達と呼べる存在はいなかった。
「ティナ様、旦那様からお手紙が来てますよ」
扉が開いて入ってきたのはエナだ。クロスター家に居る時から侍女として仕えてくれている。
子爵家の三女のエナは、10歳の時に行儀見習いとしてクロスター家にやってきた。
ティナーリアの1つ上の年とゆう事もあって、初めのうちからとても気の合う2人だった。
まだ出会って7年程だが、お互いに親友のような姉妹のような、そんな存在に思っていた。
「あら、風の精霊たちが運んできてくれたのね。ありがとう、クッキーあるから食べっていってね。」
精霊達に合わせて小さく整形されたクッキーはいつも常備してある。ティナとエナの手作りだ。嬉しそうに食べる精霊達を横目に父の手紙に目を通す。
「カルドラのエリオット王子殿下が成人の為、立太子するそうよ。そのパーティがあるから一度帰国するようにって。」
カルドラ王国含め周辺国の成人は18歳とされる。自国の王子が成人したため立太子する今回のパーティは周辺国も招待する大規模な物だ。
そんな大きなパーティに普段、社交から遠い生活をしているティナーリアを参加させようとしているのなら、よっぽど避けられなかったんだろう。
「明後日にはこちらを出発しないといけないから、荷物をまとめないといけないわね。」
「公爵家にも置いてありますし、きっとパーティのドレスはルーカス様が準備なさってると思いますよ。なのでまとめる荷物は移動中の2日分程で良さそうなので私がやっておきますね。」
「ありがとうエナ。ねぇエナ、お願いがあるのだけど・・・」
急にパーティに出席することになったティナーリアは不安だった。
「エナも一緒にパーティに出席してくれないかしら。」
「ふふっ、ティナ様がそう望むのなら、旦那様にお願いしてみます。子爵家の令嬢としてティナ様と共に参りますよ」
「ほんとに!ありがとうエナ!嬉しいわ!」
エナと一緒というだけで不安が和らいでいくようだ。
(我も行くからな)
ソルもそう言ってきた。精霊は気に入った相手に魔力を繋げる事によって会話が出来るようになる。ソルはティナーリアの家族とエナ、それから執事のアントンが会話できる。ちなみにティナーリアは、精霊に好かれる愛し子なので、この世に存在する全ての精霊と会話が出来るだろう。
「旦那様もティナ様のためだったら、ダメとは言わないと思いますよ。ソルもいることですし」
ティナーリアはソルに抱きつきながら頬を緩ませた。
多くの精霊が暮らすハインツ王国にいるティナーリアの周りには、今日もたくさんの精霊が集まっていた。
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