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末娘のティナーリアはと言うと、ハインツ王国内でも、非常に珍しく滅多にお目にかかれないと言われる精霊王に好かれた愛し子であった。
精霊王の愛し子が生まれたのは実に五百年振りと言われている。
普段は精霊王が近くにいない代わりに、精霊王の使いでもある氷の上位精霊とされるフェンリルがティナーリアの守護精霊だ。精霊王の愛し子のティナーリアの周りには、いつも母や兄達の精霊や主人を持たない精霊達もたくさん遊びに来ている。兄達の近くに居なくていいのかしら、とよく思うほど一緒にいる。
呼ばれた〜と明るい声をあげながら、気づいたらいなくなってる事が多いのだ。
本来は馬よりも一回り大きい白狼のようなフェンリルだが、生活しやすいように魔法で大きさを中型犬くらいに変えている。その為、上位精霊で力も強く、精霊王の使いとして恐れられる存在のフェンリルだが、ティナーリアに“ソル”と名ずけられ、屋敷の皆にも可愛がられている。幼い時は一緒に庭を駆け回り、成長していくにつれ、日向ぼっこしながら読書をしたり刺繍をしたり、勉学やマナーの教師が来ている時も、寝るときも隣で一緒に過ごしてきた。
ソルは家族の中で誰よりも一緒に過ごしている。
ただでさえ筆頭公爵家で名が通る兄妹であるのに、精霊の加護付きとだけで、他国含め王族や貴族達からは注目を集めているのだ。
父ドーランはとても家族思いで屋敷に勤める使用人達からも慕われる、兄妹の父としても政の一介を担う公爵家当主としても、とても人望のある人だ。
母が生きている時から亡くなった今でも、子供達への愛情が減ることはなく大切に育ててきた。とくに末娘のティナーリアは父にも、それから兄達にも蝶よ花よと大切に愛情深く育てられた。
過保護気味に安全な屋敷でほとんどを過ごすティナーリアは、母に似て心優しく穏やかな性格に成長した。
精霊王に愛された彼女は、それが生まれながらに持った、性格だったのかもしれない。
屋敷では自由に過ごしているティナーリアだが、娘の可愛さから彼女を狙う不埒な男たちから守るため、父と兄達から社交からは遠ざけられた。だが一流の令嬢教育を受けたティナーリアは、洗練された美しい所作に加え、勉学に長けた才女である。趣味は読書に刺繍にレース編み、精霊達の為のクッキー作りだ。意外かもしれないが、体を動かす事も大好きだ。ソルと一緒に走ったり、ソルの背中に乗って走ったりすることもある。だから乗馬もできる。たぶん。
(ーーー馬には乗った事ないんだけどね)
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