第19話

 合唱コンクールの全ての演目が終わって、結果発表を待っていた時のこと。

 「はぁ……」

 私・ヒカリは、ニコちゃんのため息が自然と増えているのに気づいていた。

 らしくもなく足をブラブラさせてすらいる。

 …………ちょっとかわいい。


 「ニコちゃんやっぱピアノ賞気になる?」

 「……いや、そうじゃないんだけど……今朝さんひょーが話すことがあるみたいな……」


 「えぇー? なんだろ、悩み?」

 いや、というか、さんひょーちゃんがそんなに思い詰めることなんてあるのかなぁ?

 「困惑してるんだよ。今更改まって……」

 そこでピタッとニコちゃんの動きが止まった。

 いつも真面目な顔のニコちゃんだが、この時ばかりは……何か凄みがあった気がする。


 「どしたのー?」

 「いや……うーんとね。もう忘れかけてたことなんだけどね……?」

 今思い出したわ、と独り言のように呟いて、

 「随分前に『近いうちにとんでもないことが起こる』、みたいなことを言われたのを思い出したんだ」


 「それもさんひょーちゃんが?」

 「いや、その他の警告の標識が……見せた方が早いか、これ」

 ニコちゃんが素早くスマホをタップして画像を見せる。

 「ふーん。見たことない形だね……」

 黄色の菱形に、黒のびっくりマークひとつかぁ。

 というか、それの意味って……。


 そう言いかけて気づいた。

 小声で話しているうちに表彰が始まっていて、もうすでに学年賞の発表中。

 ぜんっぜん気づかなかったよ。


 「高校一年生はーー二組!」

 わあぁ、とすぐ近くから歓声が聞こえる。


 二組は私たちのクラスでも、弖城ちゃんのクラスでもなかった。


 椎奈ちゃんの方を見ると、あちゃー、と言っているように見えた。

 私と目が合うと、彼女は肩をすくめて苦笑いした。


 「うぅ……」

 「やっぱニコちゃん表彰緊張してるでしょ!」

 「……だって椎奈が『ニコちゃんは取れるかも』みたいなことを言ってたから」

 「本当に舞台に上がることになったらってことねー」

 私が納得してそう呟いた、瞬間。


 笠島ニコさん!


 ハッとした。

 

 「にっニコちゃん! 前、前!」

 「……え」


 慌てて立ってスカートの裾や髪の毛を気にしているニコちゃん。


 「い、行ってくる」

 「行ってらっしゃぁい」


 ピアノ賞はニコちゃんだったが、指揮者賞は知らない先輩。


 椎奈ちゃんは落胆していたが、ニコちゃんがピアノ賞を取れてとても嬉しかったようで、にっこにこの笑顔で席に戻ってきたニコちゃんを迎えていた。

 ……ダジャレじゃないもん。

 またニコちゃんに抱き付く図が想像できるね。



202X/12/XX

 合唱コンクールも終業式も終わってめっちゃ嬉しい〜休める!えへへ。

 ってことで、私ことヒカリと、ニコちゃんと、椎奈ちゃんと、あとついでに直人クンもということで、そのメンバーでカラオケに行ったよ。

 めっちゃ楽しかったぁぁ!

 ニコちゃんめっちゃ歌うまかったよー。やっぱ、流石ピアノ経験者というべきか。カラオケが初めてらしいのに95点以上を連発。

 おかしいってー。

 椎奈ちゃんもめっちゃ上手いのに私だけへたくそー!

 天は二物を与えずーとか言うじゃーん。

 与えまくってるもん。

 まあ、直人クンはほとんど歌わずにニコちゃんのことばっか見てたけどね!

 こんどの水曜日にニコちゃんちで遊ぶことになったし、冬休みは最高ね!

 宿題早めにやらなくちゃ。

               江川光

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