第9話

 俺ことさんひょーは、朝早くから「特別ゲスト」を待つために、視界を開けた。

 朝焼けってのは眩しいな。

 さて、ニコが来るまでは暇だ。「まだかなー」と、独り言を言ってみる。

 早朝と言っていたから、朝焼けよりは前だと思っていたが、どうやらまだ来ていないようだ。

 と、自転車のちりちりちり、という音が聞こえてきた。


「お、来た」

「おはようさんひょー。まだ例の特別ゲストは来てないのか」


 と、ニコが話しかけてくる。律儀にさんひょーと呼んでくるのがいいところだ。


「そうなんだよ。早朝って言うから、もうちょっと早いと思ってたんだが」


 ゲストを呼んだ身としては少々失礼だが、本音だ。


「でも、態々来てもらってるからな。文句は言えないか」


 こいつにしては素直だな。


「ところで今日はずいぶん早いんだな?いつもは7時過ぎじゃなかったか」

「まぁ、ゲストが来るって言うんで、遅れないように早めに……って、ちょっと待て」

「なんだ?」


 何かあったのか?もしや、ゲストが?


「私らが知り合ったのは数日前なのに……私のいつもを知ってるってことは、随分前から私を認識してたな?」

「…………」


 ニコが怖い顔をしている。

 ふむ。どうやらこれ以上誤魔化すことはできないようだ。


「おい何か言えよ。せめて肯定か否定でも」

「否定はしない」

「うわ変態じゃぁん……」


 明らかに不快だという顔をされた。

 というか、もはや自分で顔に書いている。


「だから言いたく無かったんだよ!?」


 何だ、こいつ本当に。


「っ!?何だこれ!?」

「何だ、どうした?」


 突然ニコが大きい声をあげて、咄嗟にニコの視線を辿った。


「下、下見ろ下」


 俺の足元が明らかに、ぼこっと膨らんでいる。


「おっ、来たみたいだな」

「え、来たって……ゲスト?」


 こんなのありかよ、と言う表情でニコはそこを凝視した。

 すると、下からずぼっとそいつが出てくる。

 こいつの名称は。


「こいつは『その他の警告』っていう標識だ」

「……」


 黙っている。ニコもこいつも。面食らってる……のか?


 余りに沈黙が続くので、「なんか言え」と急かす。

「えーと……なんか見たことない見た目してるね?ええと、黄色の菱形に、黒のエクスクラメーションマーク」


 びっくりマークのことを、自然にエクスクラメーションマークと言う奴は初めて見た。


「ま、そこそこレアだからな」


 と、軽く紹介しようとしてみる。


 そして漸く、そこで「その他の警告」が「……レアって……」と喋った。






 ……沈黙。

 誰か何とかしろ。俺、こう言うの苦手なんだよ。

 そうしてもう一度、何か話せよ、と茶化そうとしたその時。


「あなたは近いうち、酷いことに巻き込まれる」


 何の脈絡も無く、そいつが言った。


「……え?」


 直後、ニコが間抜けたような声を出す。


「直感。その他の警告だから曖昧な事と余計な事しか分からない」

「ちょっと、おい」


 思わず止める。いきなりなんだ。何言ってるんだ。


「……」


 ニコが完全に黙り込む。


「でも……間違い無く、雪の日」


 その声に、ニコが目を見開き青ざめる。顔色が明らかに悪くなった。


 心当たりがあるのか?


「……出会って直ぐにこんな事を言って申し訳ない。今日はこれで帰る。また来る」


 そうして、あいつは去っていった。

 元通り地面に潜って。


「……ニコ」

「いいよ、謝らなくても。もう行く」


 そう言ってニコは、こちらに視線を向けないまま、自転車に跨った。


「なんなんだよ、本当に……」


 新しいやつに会って話せば楽しいだろう、と思ってレアな標識を呼んだのに。


 俺は無い頭を抱えた。

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