第5話
お昼休み。
僕こと筒井直人は、江川さんと笠島さんと一緒に、昼食を食べることになっていた。
僕は大体、昼休みは1人で食べ、1人で本を読むのが定例だった。
しかも男子ならともかく、女子と食べるなど初めてだ。
普段ならば、訝しみと少量の嫌悪感を交えた顔で、
「筒井くん、ちょっと意味わかんない。聞くことって何?」
と、言われるに決まっているのに、朝、江川さんは優しく僕の変な話を聞いて、こうやって時間を設けてくれた。
それに、僕みたいなのに当たりがきつい女子だけじゃなく男子にでさえ、
「お前、バレー部なのにめっちゃコミュ症だよな」
と、言われる始末だ。
そうやって今朝の出来事と経験による被害妄想を思い起こしながら、約束していたテラスに向かう。そしてそこでは、
笠島さんが1人で本を読んでいた。
「…………」
気まずい。
ここですぐに話しかけられるのがコミュ力なんだろうが、残念ながら僕にはそれが全くないみたいだ。
「こんにちは、筒井くん」
笠島さんが飄々とした雰囲気で、極めて普通に挨拶をしてきた。
「こ、こんにちは……」
僕は頭の中がいっぱいで、挨拶をされるとも思っていなかったためたじろぐ。
目を合わせられず、どこにピントを合わせればいいのか数秒戸惑った。
そこでおや、と目をとめた。彼女が持っている本の表紙に見覚えがあったが、思い出せなかった。
視線に気付いたのか、彼女がふふ、と微笑う。
「私、好きな作家さんをとことん読み尽くすのが好きなんだ」
「ふうん」
僕は、最近お気に入りのシリーズをゆっくりと、最初から読み始めている。僕も似たようなものだな。
まあ、それは置いといて。
「ところで、江川さんは?」
「あぁ。光は途中で
三門先生はうちのクラスの担任だ。そして失礼だが、江川さんと頼まれごとというのがうまく結びつかない。
「ヒカリはあんな性格してるけど、お人よしなんだよ」
次の瞬間、江川さんが倒れ込むような勢いでこちらに走ってきた。
「ごめぇぇぇえええん!!」
「お、来た」と笠島さんが手を上げる。
僕はその大声についぎょっとしてしまったが、笠島さんは慣れているのか反応が薄い。
「わ、私が2人を呼んだのに、遅れちゃって、ごめんねっ」
「ま、まぁまあ、先生の頼みごとならしょうがないですよ」
焦って息が切れている江川さんを見るとまた目の行き場がわからず、咄嗟に口走って宥めるた。
あまり効果はなさそうだけど……。
「あ、そーそー、筒井くん。私たちも直人って呼ぶから、私たちのことも、呼び捨てとは行かなくても、タメ口で話していいよっ」
息が切れながら必死に話している。落ち着いてからでいいのに……?
「へ?」
「まぁわざわざ敬称とかつけるのもめんどくさいかもね。そうしよっか」
笠島さんまで……!?ま、まぁ……いいか……??
「それじゃあ早速本題に入ろう。で、聞きたいことがあるんだって?直人」
早々に有言実行していく笠島さん。
ああ、もうどうにでもなれ……。
昼休み。大騒ぎな廊下とは対照的に、日差しが強く当たるそのテラスはひどく静かで、少し異様な雰囲気を纏っていた。
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