守屋刑事の想い
俺はもう一度被害者の写真を見て、他に何か共通点を探す。
殺害方法だけじゃない。遺体が見つかった場所、時期にも統一性がない。
「他にも被害者がいるかもしれない、と守屋さんは考えているんですか?」
「あぁ、そうだな。その可能性は十分にある。殺害頻度を考えると尚更だ。それに、公表されてないが彼女たちには共通点がもう一つ」
「もう一つ?」
「彼女たちは性的暴行を受けた形跡がない。もちろん青木 円香もだ。だから」
「だから、犯人は女性の可能性もあると?」
「まぁ、それも可能性の一つだな。それより、男として何か問題がある人物。精神的疾患を抱えた男だと、俺はにらんでる」
「根拠は?」
俺の問いに守屋刑事は「刑事の勘だ」と、どや顔でふんぞり返る。俺はそれを完全無視し、並べられた写真と死因についてもう一度考えてみる。ここに何か意味があるはずだ。被害者の共通点が。
では薫くんの母親が殺害対象にならなかったのは何故か? 年齢? なぜ、女子大生がターゲットになっているのか?
「彼女たちの共通点。女性であること、髪が長く異性にモテるタイプ。全員が『Hana』のアプリを活用し、パパ活などの行為に及んでいた。でも犯人からの性的暴行を受けた形跡はなし。
俺は薫くんが見せてくれた思い出の映像を再生してみる。何か見落としていることがあるはずだ。他にも被害者を結びつける決定的な何か。
「俺としてはだな。重要参考人として、まずは奴の話を聞きたい。話せば何かがわかるはずなんだ」
守屋刑事がいつになく真剣な顔をしている。彼にとってこの事件は刑事としての職務、それ以上の何か意味があるのかもしれない。俺にはそう思えて仕方がなかった。
* * *
「あの、如月さん。俺たちは今どこへ」
「青木 円香さんのご遺体がある場所です。解剖も終わってご遺族がこられるのを待っていると思うのですが、ご両親の到着が遅れているようですね」
俺たちが二手に別れたのには守屋刑事とのこんなやり取りがあったからだ。
- 15分前 -
『都筑青年はこれから俺と一緒に本部、担当刑事の青柳のところに行く』
『えっ?』
『まずはお前の口から、青木 円香のことを話すんだ。おそらく奴らもお前の話を聞きたいと思っているだろう。大丈夫だ、俺がついてる』
それが一番不安だと言わんばかりに、斗真は不服そうな顔をしていた。可愛そうに…。俺が斗真の立場だったら同じ様に感じていただろう。
「九条さんは、メロンパンお好きですか?」
「え?」
唐突な質問に俺の思考は現実に戻される。それにしてもいきなりすぎるだろう。
「あ、ごめんなさい。守屋さんのこだわりのメロンパンが、この近くのパン屋さんにあるので。あぁ見えて守屋さん、甘いものがお好きなんですよ」
「意外ですね」
あのオヤジがメロンパンをパン屋で選んでいる姿は想像しがたい。何だかシュールで笑える。「これ、内緒ですよ」と如月刑事はコロコロっと心地良く笑う。
重たい車内の空気が、如月刑事のお陰で軽くなった気がした。
「如月さんは、なぜ刑事に?」
「うーん。私の父も警察関係者なんです。その影響かな」
「お父さんが…」
「母には孟反対されたのですが、守屋刑事が母を説得してくれて、私は今こうしてここにいるという感じです」
信号が赤に変わり、車がゆっくりと停車する。如月刑事の照れたような笑顔が俺に向けられた。
『ボクちゃん』
一瞬ドキッとした俺の気持ちを見透かした様に、
「……っ!」
「どうしました?」
「あ、いえ。コホン。守屋さんと如月さんってどんな関係だったのかな? って思って」
我ながら変な質問をしてしまった。
「守屋さんは父の部下で母とも知り合いなんです。私にとっては、もう一人の父みたいな感じですかね」
車は前に進み、如月刑事は「それをいうと怒られますけど」と言いながら、ハンドルを右にきった。
「実は私……守屋さんが九条さんたちを巻き込む事に、反対だったんです」
「で、ですよね。すみません」
「あ、そういう意味じゃなくて、ごめんなさい。ただ…守屋さんがまた辛い思いをするんじゃないかって」
「また?」
「守屋さんにも、今回の被害者たちと同じ年頃の娘さんが…」
「それで、あんなに鼻息を荒くして事件に没頭している、と言うわけですね」
あの守屋刑事が結婚して家族がいることを想像するのは難しかったが、事件を一刻も早く解決したいという彼の気持ちは理解できた。
「守屋さんが暴走したら誰にも止められなさそうだし、心配なんですね」
「えぇ、まぁ。私が心配したからって、何が変わるわけじゃないんですけどね。警察は確固たる証拠がなければ、逮捕状はおりないので」
如月刑事は前方を指差す。「もうすぐ着きます」と言いハンドルを左に切る。だから俺はこれから物的証拠を円香ちゃんから聞き出さなければならない。それを守屋刑事は望んている、と改めて理解する。
「詳しいことは、解剖医の山口先生に話を聞けるよう手配済みです」
「さすがですね」
「いえ…」
俺たちの目の前に、白く大きな建物が迫ってくる。
病院って、寺の次に苦手だ。
同じように黙って病院を眺めている
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