第5話 そなたと一緒ですよ! 

 私はソナタさんにお礼が言いたくて、学校到着後は教室に直行せずにソナタさんを探した。だけど、学校中を探し尽くしても見つけることができなかったので諦めることにした。


 その後、なにも問題もなく学校生活を満喫して放課後を迎えた。トイレに行ってから帰る準備をしていると、聞き覚えのある声に話し掛けられた。


「津賀子さん、快便でしたね」


「いきなりう〇こトークかい」


 ソナタさんのこういうところが嫌いだ。


「津賀子さんの場合はう〇ちした後も臭っていますので、消臭スプレーをシュッてしておくのもエチケットですよ」


「私の場合はう〇ちした後も絶えず体中から臭いを発する特殊な人間だとでも言いたいのか。それとも私が尻を拭いていないとでも言いたいのかお前は」

 

 消臭スプレーをシュッシュッと何度も私にかけてくる……やめてほしいと思う反面、この執拗さは本当に私の体中にう〇ちの臭いが残っているのかもしれないと不安になる。


「それより、今朝はありがとう」


 ソナタさんは人の言葉を聞かずに絶え間なく消臭スプレーをかけ続けるので、私は全身びしょ濡れ状態で風邪を引いてしまいそうだ。


「津賀子さん、あ」


 ソナタさんは不自然に転倒し、近くの机を見事に倒して教科書等を散乱させた。


「だ、大丈夫?」


「ええ、津賀子さん」


「教科書が散乱したね、手伝うよ」


「いいえ、津賀子さん。私一人で片付けます」


「手伝うって」


「津賀子さん、ではお願いします」


 あれ? いつもだったら「いいえ、津賀子さん」とか言って相変わらずの頑固者っぷりを発揮すると思っていただけに今日は素直だ。

 倒れた机を起こし、散乱した教科書を丁寧にしまう……て、お前は片付けんのかい。


「津賀子さんはお優しいですよね。私には無いものをお持ちで何よりです」


「ソナタさんも私には無いものあるよ」


「私は津賀子さんから無償の愛を受け続けたい。だから津賀子さんをお母様と呼びます。優しくしてもらい、なんでもやってもらいながらずっと甘え続けたいです」


 いきなり話がぶっ飛びやがった、本当に嫌だ。


「もう帰るわ」


 私は教室から出て、全力で廊下を走る。

 後ろを振り向けば「お母様」と叫びながらソナタさんが後を追って来た。


 必死に走り体育館倉庫に逃げ込む。ソナタさんの気配は感じなかったけど、しばらく待機した。


 体育館倉庫の中で乱れた髪を整えようと手鏡を出して自らを映す。そこには黒く光沢した大きな目、ツルっと尖がった頭、頬と思われる部分に申し訳なさ程度の青のり。首から下も確認したら肌色タイツを身に纏っていた。どう見ても私ではない生物が映っている。


「津賀子さんは宇宙人になりかけています」


 鏡の中の宇宙人が私に話かけてきた。

 びっくりして手鏡を捨ててその場から逃げ出そうとした瞬間だった。ボールの入ったカゴの中からソナタさんが現れた。


「津賀子さんは私のことが嫌いですよね。でも拒絶するのも今日までです」

 

「?」


「津賀子さん、あなたは七歳の時、夜の公園でカップ焼きそばを食べていました。その時、あなたはUFOに遭遇したんです」


 七歳の私が夜の公園で焼きそば?


「地球侵略中のUFOでしたが、エネルギー不足で不時着陸。偶然その場に居合わせた津賀子さんの焼きそばが気になった宇宙人はあなたを特殊光線で攻撃。その衝撃で私とあなたは分離」


 ぶ?


「私は這いつくばりながら津賀子さんの中に戻ろうとしたけど、有ろう事かあなたは私を拒絶して逃げた。その後、宇宙人は私をエネルギーとして利用するため連れ去ったのです。自転車を漕ぎながら電気を作る最先端の自転車発電装置、隣に居た宇宙人と私は懸命に漕ぎました」


 最先端であっても自転車発電装置はダメよUFO。


「途中、私は宇宙人たちの不意を突き、彼らを始末した後にUFOを奪って帰って来たのです。多くの時間を要しましたが」


 SF映画の話ですか?


「当時からあなたは自分の性格の一部を嫌っていた。その一部が私であることを丁寧に宇宙人が説明してくれたことで、あなたは分離した私を拒絶した。嫌いな性格だからって拒絶しますか普通? 一応自分の性格ですよ? 本当に許せない、その怒りだけで私は帰って来た」


 ソナタさんが私の一部?


「分離した私は他人には見えず、見えるのは私たちと同じように特殊光線を受けた人のみ。問題解決は私自身であなたに訴えるしかなかったのです。このままでは津賀子さんは宇宙人化し、私も溶ろけてしまいます」


 なんで私が宇宙人化するのかも分からないし、ソナタさんが溶ろけるのかも分からない。確かにソナタさんの体からは少しずつう〇こが染み出している。そういう子供じみた発想が私の中に存在したのが本当に嫌だったんだよね。


 でも、それも私なのかもしれない。自分自身を愛する。それを受け入れる。きっとそれが本当の私だ。


 う〇こにまみれながらソナタさんは私に手を差し出し待機している。

 私はそれに応えるようにソナタさん手を握る。瞬きを数回した後には目の前にいたソナタさんさんは消えていた。私は手鏡で自らの姿を確認すると元の姿に戻っていた。


「消えた」


『いいえ、津賀子さん。私はもう一つの人格として形成されている状態、所謂二重人格としてあなたの中に存在しています。いつまでもあなたをお母様と呼び続けますね』


「いやぁぁ」


 こうして私は本来の私である私に戻ることが何年ぶりにできた。

 一応めでたしめでたし。あれ? 分離したソナタさんは他人には見えなくて、見えるのは特殊光線を受けた人のみって言ってたよな……あれ、それって。『完!』

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ほどけそうな結び目なのにほどけないね 調佳 さきぎ @PiastRingDoughnut

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