第五話 眼鏡って、何か秘密があるのかしら?

 あたし、実はずっと気になっていることが一つあるのよね。

 どうして柳都はいつも〝眼鏡〟をかけているのかしら?

 〝眼鏡〟をかけていると、何か良いことでもあるのかなぁ?

 

 あたしは、ふと机の上に〝眼鏡〟が置いてあるのを見つけた。

 それは陽の光を受けて、眩しく輝いている。

 きらきらしていて、とっても綺麗なの!


 何か秘密が隠されているのかもしれない……!


 そう思ったあたしは、前足でその〝眼鏡〟を触ってみた。

 ……何も起こらない。

 また触ってみると、それは突然机の上で、カタンと音をたてて倒れてしまったの。


「みゃあっ!?」


 あ! 倒れちゃった! 大丈夫かなぁ?

 びっくりしちゃったから、つい声が出ちゃったわ!


 すると、あたしの傍に大きな手が現れたの。

 その白くて綺麗な手は右へ左へと、何かを探しているように動いていたかと思ったら、〝眼鏡〟が上へと登っていっちゃった。

 

「危ないですよ、ディアナ」


 上からは、穏やかな声が降ってきた。

 怒られたわけではなさそう。多分。

 でも〝眼鏡〟を取り上げられちゃた。

 あ~あ。何にも分からないまんま。

 ちょっとむくれていると、柳都ったら、あたしの身体を後ろからひょいと抱き上げた。

 顎の下をごろごろと、長くて綺麗な指で優しくなでられちゃうものだから、身体全体がふにゃふにゃしてきちゃった。お目々がとろんとしちゃう。

 ああん。気持ちいい!

 あたし、相変わらずこれに弱いのよねぇ。


「いたずらっ子さん。これはおもちゃではありませんよ。落としたらレンズが割れてしまいます。割れた破片があなたの大事な前足に刺さったら大変です」


 柳都はあいている右手で眼鏡をかけると、白く長い指で眉毛の間を軽く押さえていた。榛色の瞳は穏やかな春のような光をたたえていて、その口元はまあるい弧を描いていたの。


「ほら、ディアナ。ちょっとじっとしていて下さいね」


 そう言いながら、彼ったら急にあたしの顔に何かをつけたの。

 え!? 何これ!?

 前足で触ってみると、銀色の大きな輪っかが二つついてる!

 

「これは、あなただけの眼鏡ですよ。ファッショングラスですから、見える世界は同じです。それに、これならひもが後ろについているから落ちにくいですし、安心です。ほら、鏡をご覧なさい」


 あたしは誘われるがままに鏡へと顔を突っ込んでみた。

 すると、あたしの顔に、柳都と同じような眼鏡がついているのが見えたの。

 しかも、銀縁眼鏡……!

 おそろい……!!

 柳都とおそろいだ!!

 あたしはびっくりしちゃって、つい目を大きく広げちゃった。嬉しくて、しっぽをぶんぶん振り回してみる。そんなあたしの目を、彼は眼鏡越しで優しく見つめてくれた。


「今度出かける時、眼鏡も一緒に連れて行きましょう。まだ寒いですから、もう少し、暖かくなってからですよ」


 あたしは顔を大きく縦に動かした。眼鏡の秘密は分からなかったけど、何だか嬉しいからまぁいいや!


 わぁ! お出かけの日が楽しみ!

 早く暖かくなりますように!

 早く春になりますように……!

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