第四話 骨董屋の休日の朝〜その二〜

 おや? まだちょっと暗いけど、鳥の声が聴こえるなぁ。 もう朝かしら?

 あたしは顔を上げた。

 お家の中はまだ音がしないの。空気がちょっとひんやりしていて、とっても静か。

 柳都はまだ起きてないみたいね。

 あたしはひょいと彼のベッドの上に飛び乗った。

 そう言えば、今日はお店がお休みの日だったかしら?


 あ、彼はやっぱりまだ寝ているみたいね。

 銀縁眼鏡は傍に置いてあるテーブルの上に置いてある。

 このゆっくり上下に動く〝場所〟。実は、あたしの指定席なの。だって、柳都の胸や首元って、とっても温かいんだもの。すりすりしたくなる……もうしてるけど。

 こうやって、眠っている彼の胸の上にあたしが乗るといつもすぐ起きるのに、その気配が全くないの。きっと、疲れてるのね。

 それもそうか。毎日お店の仕事もあるけど、お家のこともあるし……あたしの世話もある。

 疲れててもおかしくないわ。

 彼、眼鏡をしててもカッコいいけど、眼鏡を外すと更に素敵になるのよ。ついつい見惚れちゃう。今のうちに眺めておこうかな……いつも見てるけど、全然飽きないの。どうしてかなぁ?

 その滑らかそうな顔を前足で触ってみたけど、びくともしないわね。

 あ、これはおひげかな? ちょっとちくちくする。朝の彼はいつもより少しワイルドに見えるから、不思議。

 

 何だか心地良すぎてふわぁと大きなあくびが出てしまった。

 まだちょっと眠たいなぁ。

 あたしも、もう少し寝ようかしら。

 ねぇ、柳都。

 もうちょっとだけ、このままでいさせてほしい。

 だめかしら?


 その形が良く整っている唇をぺろりと舐めてみた。

 すると、「ん〜……」とちょっとかすれ気味の声がもれてきたの。

 あらやだ、あたしったら起こしちゃったかしら?

 寝てるふりしなきゃ。

 いやぁん。柳都お願い、まだ起きないで。


 あ、背中に暖かい感触がきた。地肌から毛先へと大きな手の感触が通り過ぎてゆく。

 ああん、ぞくぞくくるぅ。

 とっても気持ちが良いから、つい背伸びしたくなるけど、がまんがまん。しっぽをゆらゆらさせたいけど、がまんがまん。

 だってあたし、まだここで眠っていたいんだもの。

 ちょっとだけで良いから。

 ねぇ、お願い。もう少しだけ、あなたの傍で眠らせて。


 むにゃむにゃ……それではもう少しだけ、おやすみなさい。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る