第5話 王女の真実


「ク、クソ。こんなところで死ぬはずじゃ……」


 ボルはそう言いながら黒い灰になって消え去っていった。それを見ていると、シェルがこちらへ近寄ってきた。


「た、倒せましたね」

「はい」


 シェルの言葉を聞いた瞬間、力が一気に抜け落ちて地面に座り込んでしまう。


「大丈夫ですか!?」

「緊張が無くなったからですね……」


 その時、やっと自分がとてつもない集中をしていたことに理解する。すると、シェルさんが軽くしゃがんで頭を下げてきた。


「本当にありがとうございます。ダイラルさんが居なければ、殺されていました」

「それは俺もですよ。シェルさんが居なければ生きていることが出来なかった」


 ボルの攻撃を受けた後、シェルさんの援護がなければ死んでいた。


「そういっていただけると助かります。では、遺跡から出ましょうか」

「あ、ちょっと待ってください」


 俺の言葉にシェルさんは首を傾げた。


「遺跡の調査でここにきているで、できれば少し調べていきたいです」

「わかりました」


 その後、俺たちは休憩を挟んだ。その際、少し暗い表情をしたシェルさんが俺に言う。


「ボルと戦う前に、王女である私がなぜここにいるのか尋ねましたよね?」

「はい」

「あれは、半分真実で半分が嘘です」


 シェルさんのことを見ながら首をかしげる。


(半分真実で半分が嘘?)


「遺跡の調査なのに王女が来るのはおかしい。そう思いましたよね」

「はい」


 当然だ。王女であるシェルさんが来るような場所ではないのだから。


「私は、忌み子なのです」

「??」

「エルフとは、魔法を使うことが得意です」

「シェルさんだってそうじゃないですか」


 ボルと戦っていた時、魔法を多用していた。それはまさしく魔法が得意という証明である。


「魔法を得意としていますが、それが問題でもあります。エルフ族の中で、私は神に選ばれた存在といわれています」

「は?」


(神に選ばれた存在?)


「この話をするには、前提として魔素のことをお話ししなければいけません。ダイラルさんは御存じですか?」

「はい」


 魔素とは空気中に漂っているものであり、魔法を使うために使用する。魔素は草や木などの自然から現れることが多く、魔素の濃度が高い場所に行くと、魔導師は死に至る場合もある。


 前世で言う一酸化炭素中毒とかだと思う。


「なら話は早いですね。私は魔素を取り込むことが出来ません」

「え!?」


 魔素を取り込めないのに、魔法を使っているとはどういうことなんだ……。


「私自身から魔素が発生するということです」

「そ、それって」

「ダイラルさんの言う通りです。私は事実上、魔法を無限に使うことが出来るということです」

「!!」


 それってすごいことだよな。魔法を無理に使い続けると、最悪の場合死に至る。それがないということなのだから。


「そんな存在が王族に居たらどう思いますか?」

「すごいと思いますけど……」

「そうですね。最初は誰もがそう思うでしょう。ですが、次第に【すごい】から【怖い】に変わっていくものです」


 そうか。誰もがこの世に存在しないものを見たら、すごいと思うのと同時に怖いとも思ってしまう。それと同じということか。


「最初は神童と呼ばれていたのも、次第に忌み子と呼ばれるようになりました」


 その言葉を聞いた瞬間、少しだけ自身と重ねてしまった。俺も最初は神童と呼ばれていたのが、今では落ちこぼれと呼ばれて追放された。


「多分ですが、エルフ族の上層部は私を殺そうと考えたのでしょう」

「そ、それって両親も?」

「いえ、両親などは必死に抗議しておりましたが、国の方針を覆すことはできなかったのです」


 シェルさんは事実上、国外追放されたってことか……。


「これが私の現状です」

「……」


 何も言葉が出てこなかった。もし言葉が出てきたとしても、どう声をかけていいかわからない。


「そうしんみりとしないでください。これで私も国から解放されたのですから」

「そ、そうですね」


 すると、シェルさんは両手を合わせて言う。


「この話は終わりです。では先へ進みましょうか」

「はい」


 そして、俺たちはボルがいたであろう場所へ歩いて行った。


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