第30話裁判

マコトは池袋駅前の大きな交差点の真ん中で煙を放つ車体を遠目から確認する。しばらくすると警察がやってきた。

「桐生…すまない…」

マコトは目をつぶり涙が出るのを堪えつつ、声を絞り出す。

「七瀬は証拠を回収しただろうか…」

マコトはカラオケ店の方へと目を向ける。

パトカーと消防車が到着する。警察の中には川崎の姿があった。

川崎がマコトに気がつくとマコトに近づき話しかける。

「相澤か。現場はどうなってる?」

「桐生が爆発物を持っていた容疑者を捕まえ、車に乗って人のいない場所に移動してる最中に爆発しました。」

と若干脚色し、状況を説明する。

桐生の死を聞き、川崎はそうか…と下を向く。

「事件の調査の方は順調か?」

「もうほとんど終わりました。後は裁判を待つだけってところです。」

「そうか。なら良かった。」

「とにかくもうここからは警察の仕事だ。学生は早く離れろ」

と川崎にしっしっとていう手招きで追い払われる。

「わかりました…」

とこの場を離れようとしたとき、カラオケ店から七瀬が出てくる姿が見える。マコトは七瀬と合流しに、カラオケ店の前まで走っていく。

「七瀬!無事にSDカードは取れたか?」

「えぇ。」

と七瀬は頷く。

「ひとまずこの場から離れましょう。また敵が来るかもしれないし。」

「確かにそうだな。」

2人とも現場から離れ事件が起こった池袋駅東口ではなく西口から駅内に入り電車で自分達の家に帰る。

30分後場面は変わり日比谷ハルの方へと移る

「…連絡が遅いな。まさかなえが敗れたのか?」

日比谷ハルは顎に手を当て考える。

「近くで爆発事件が起きたんだ。カラオケ店の人間は皆避難しているはず。となると店内にいるのは証拠を取りに来た相澤か七瀬又はその両方。いや仲間が死んだんだ。どちらかは爆発事件が起きた方に向かうはず…となればカラオケ店に来た方の人間になえは敗れたことになる。一体誰に…」

そんな考えを巡らせていると日比谷ハルの通信機から連絡が来る。

日比谷ハルはそれに出るとそれはなえだった。

「なえ無事だったか。」

「えぇ。なんとか。」

「監視カメラの証拠は破壊できたか?」

「いえ、七瀬栞と対峙し、、……私が敗れ今目を覚ましたところです。」

「七瀬が?」

「はい。」

「わかった。すぐにその場から離れろ。また連絡する。」

そう言い、日比谷ハルは通信を切る。

「七瀬栞…確か運動神経は良かったはずだが…いやいくら運動神経が良いとはいえ、あのなえに勝ったのか?七瀬栞お前は何者なんだ…」

数日後裁判が始まる日がやってくる。

相澤マコトは黒のスーツを着て、傍聴人として出席する為、裁判所のエントランスに到着した。

そしたら、ある男に話しかけられる。

「君が相澤マコトくんだよね?」

「はい。貴方は?」

「私は七瀬栞の弁護人だ。」

「そうですか。今日はよろしくお願いします。」

「その事なんだが、七瀬さん本人は君に弁護人を任せたいと。」

「え?俺が?てかそもそも弁護士バッジ持ってないのにできるの?」

マコトが驚きの顔をする。

「名目上は私が弁護することになってるが実際は君が出席するこれで君が弁護することができる。」

「わかりました。全力を尽くします。」

マコトは弁護人を務めることを了承する。

そして、数時間後いよいよ裁判が始まった。

「ではこれより裁判を始める。検察は事件の概要を説明するように。」

「はい。」と若い男が立ち上がる。

「まず今回の事件は被告人七瀬栞がPQ組というヤクザにとある人物の殺害を依頼するところから始まる。それは同じ学校に通う日比谷と羽村の殺害。

事実11月13日金曜日の夕方18時頃、新宿駅西口の監視カメラに七瀬栞と思われる人物がPQ組の人間と交渉してる姿が確認されている。」

と検察はモニターにその映像を映す

「更に、その次の日に七瀬は自宅に日比谷と相澤をおびき寄せ、PQ組の容疑者4名に襲撃させている。と同時刻に羽村は自身の自宅から出てきたところ、遠距離の山からスナイパーライフルで撃ち抜かれている。このスナイパーライフルからは七瀬栞の指紋が検出されている。この事から七瀬栞は羽村殺害の張本人であり、更に自宅に招かれた2人は予め読んでおいたPQ組の容疑者4名に襲撃させたということだ。」

検察が一通り説明した。

(間違いだらけだな。)

「では弁護人反論をどうぞ。」

マコトはそう言われ立ち上がる。

「はい。まず七瀬の自宅のマンションですがその階に住んでいるものの鍵がないとその階つまり七瀬の住んでいる8階にエレベーターが止まることは無い設計になっています。つまり、七瀬が相澤と日比谷をおびき寄せと言っていましたが、七瀬本人がいなければ自宅に呼ぶことは不可能なんです。つまり七瀬はこの時自宅にいたとすいそくできます。また、2週間前802号室に湯木という男が引っ越してきました。この湯木はPQ組の者であり、容疑者4名が何故8階に上がってこれたのかというと湯木が鍵を渡したからであり、つまり、七瀬は今回の事件はおびき寄せたのではなく襲撃されたということになります。」

検察の男が立ち上がり反論する。

「異議あり!鍵を予め日比谷か相澤に渡しておけば済む話ではないか。」

それを聞き裁判長は

「ふむ。ちなみに相澤と日比谷というのは証人としていないのかね?」

検察が説明する。

「いえ。その2人は今回の裁判に出席しておりません。」

マコトはこれを聞き反論する。

「七瀬の自宅のベランダが空いており、そこにはロープが吊るされていました。そして、斜め下の702号室にもロープとそれに繋がった石が柵に引っかかっていました。この事から容疑者4名の襲撃から逃れるためにロープに石をくくりつけ702号室の柵に石を引っ掛け逃げたものだとい推測できます。そして、このロープは3人分ありました。これは七瀬もこの場にいて容疑者4名から逃げる時に使った為3人分あったのでは無いでしょうか?」

マコトが疑問を投げかけると検察がふたたび反論する。

「異議あり!容疑者4名が工作したんだ!」

「異議あり。容疑者4名は元々日比谷と相澤を殺すつもりだったところをロープで逃げられるという想定外のことが起こった。容疑者が持ってたのはチェンソーなどの凶器と指紋がつかないための黒の革手袋のみ。つまり、工作するためのロープとガムテープを用意することは出来ない。それに、すぐ警察が来たため、わざわざ工作する時間が無い。」

「いいや!部屋の荒れ具合を見たか?あれはガムテープとロープを七瀬の部屋から探してた痕跡に違いない!」

「なら工作に使ったガムテープとロープのあまりが容疑者4名の持ち物から見つかるはずだ。裁判長!容疑者4名の持ち物はどうでしたか?」

マコトは裁判の方へと目を向ける。

裁判長は回答する。

「いや4名の容疑者からロープとガムテープのあまりは見つかってないな。それに近場に捨てられた形跡もなかった。」

「ぐっ!なら指紋についてはどう説明をするんだ?」

検察にそう問われ、マコトは説明する。

「現場の702号室に残ったロープの持ち手のガムテープが1個無くなっていた。残ったふたつのガムテープから相澤と日比谷のガムテープの指紋が検出されたが残りの1本のロープにはガムテープがついていなかった。これは誰かが、ガムテープを指紋がつかないように剥がし、下に落とした。その下というのは隣にあった小学校の校庭の端だ。この日は土曜ともあり学校内にいる人間は限られてくる。そして、これを回収し運んだのが和島ゆかりという女性。七瀬と同じマンションの202号室に住む女性だ。警察が容疑者を捕まえる為に包囲網を作った際、包囲網で止められたのは通報からの証言通り男性と黒い革手袋をした者またはその両方。つまり女性の和島ならこの包囲網から抜け出すことが出来る。そして包囲網から抜け出した和島は七瀬の指紋が付着したガムテープから今回羽村殺害に使われた凶器つまり、スナイパーライフルへ指紋を移すことに成功した。これであたかも七瀬が犯人かのように見せかけることに成功した。」

「確かに筋は通っているな。」

裁判長が納得する。

「和島という女はこの数日後行方不明になっているが、恐らくこの数日後に起こった小学校の校長を殺害事件の犯人なのでは無いかと思います。何故なら校庭の監視カメラを見れば和島がガムテープを回収してる監視カメラに映っているためその証拠を消しに来たんじゃないかと推測します。」

マコトがそうせつめいすると検察は何か証拠はあるのか?と聞いてきた。

マコトはもちろんと返事をし、モニターにとある映像を流す。そこには和島がガムテープを回収し、学校を出ていく姿が映っていた。

「?!まさかほんとうに…」

検察がうろたえている。

(ここでもう終わらせるか…)

マコトは立て続けにもう1つの証拠を見せる。

「先程、11月13日の18時に新宿駅でPQ組と交渉してる姿が写っていると言っていましたが、七瀬にはこの時間アリバイがあります。こちらの映像です。」

モニターにはカラオケ店で七瀬と相澤と羽村が映っているそして、それぞれ身分証明書を提示している姿が確認された。身分証明書が映っているためこちらが本人だと説明する。

「あれ?おいこれお前がうつってるじゃないか?弁護人は相澤マコトなのか?」

検察に聞かれ、渋々答える。

「はい。実は先程七瀬の弁護人から代わりに弁護して欲しいと頼まれ名目上は別の人間として出ていましたが、僕が相澤マコト本人です。」

「弁護人。それは許されない行為だ。今この場ではあえて目を瞑るが今後は控えるように。」

マコトは注意され気をつけますと答える。

「ですが、この映像そして、高島さん。覚えていますよね?」

証人として高島が証人台に立つ。

「はい。あの日貴方と七瀬さんそして、羽村さんが来ていたのは事実です。身分証確認もきっちりしています。」

「このことからこの事件七瀬の無罪を主張します。」

マコトがそう宣言すると、検察は黙った。

「結論が出たようじゃな。では被告人前へ」

七瀬が被告人台へ上がる。

「被告人七瀬栞は無罪とする。」

そう言い渡され、七瀬はほっと肩を撫でおろした。

「ありがとうマコトくん。」

七瀬はマコトに感謝を伝える。

「あぁ。」

と返事をするマコト。

傍聴人達からは拍手が送られた。

マコトが傍聴人たちのほうを見ると1人その中から退室しようとする者がいた。それは日比谷ハルだった。

マコトはすぐさま日比谷ハルを追いかけ、退室した。

裁判所の廊下で去る日比谷ハルに「待て!」という。

「おめでとう。素晴らしい裁判だったよ。」

日比谷ハルは背中を向けたままマコトに顔だけ向けそう言う。

「…お前の思い通りにはさせない。」

「さてなんのことかな?」

「必ずお前を裁いてみせる。」

日比谷ハルはそのまま背中を向け廊下を歩いて去っていった。

マコトはその背中を見送りながら拳に力を込めた。

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