第29話激闘

マコトは桐生が死んだ目の前の状況が信じられなかった。

呆然と立ち尽くしているマコトと違い、七瀬はすぐさま冷静にカラオケ店の方へとかけつける。

カラオケ店に入り、すぐさま店員に高島がいるか確認する

「はい私が高島ですけど…てか今の爆音何だったかわかります?」

「急いでここから避難して。近くで車が爆発する事件が起きた。他の店員や客達にもそれを伝えなさい」

「は、はい!」

すぐさまそれを聞いた店員たちは客に避難するようにアナウンスした。

「あの貴方は?」

高島が監視カメラのある部屋に入ろうとする七瀬を止める。

「私は監視カメラで事件の犯人が写ってないか確認してくるわ。」

「は、はぁ」

「近い将来貴方には証人として裁判に出席してもらうわ。死なないように」

そう言い残し、七瀬は監視カメラの映像が見れるモニター室に入る

「11月13日金曜日18時頃この辺かしら」

目的の映像を見つける。それは七瀬が羽村やマコトと共にカラオケ店に入店し、カラオケ室を利用している姿が確認されていた。

身分証明書を提示してあるのもしっかりとカメラに写っていた。この映像のSDカードを回収し、七瀬も撤収する。

モニター室を出るとすっかり無人になっていたカラオケ店の廊下に出る。

「あ、やっぱりいた」

七瀬を指さす1人の女子を除いて

その女子はなえだった。

なえはすぐさま高速で七瀬の前までステップし、ジャブを繰り出す

七瀬はギリギリのところでリーンバックでかわした。

しかし、2発目の右ストレートを被弾する。

七瀬は大きく下がりなえと距離を作る。

場所は長い廊下のため蹴りを出すと壁にひっかかってしまう為、お互いパンチで攻める

七瀬はサウスポーに構える

なえもオーソドックスに構える。

なえは再びジャブをはなつ。七瀬はその左ジャブを右手でパーリングする。なえはそのジャブを打ったあと引かずにそのまま七瀬のパーリングした手を押す。

これはなえの作戦であり、人間は押されたら押し返すという本能を利用する作戦だった。七瀬がパーリングした右手でなえの左手を押し返す抵抗を感じた瞬間なえはすぐさまその手を引き、七瀬自身からガードを下げさせる。

なえはここで更に罠をしかける。

なえは右ストレートを打ち、七瀬はすぐさま左手で右ストレートをパーリングする対応を見せる。しかし、

なえはこれを狙っていた。

なえは右ストレートを打った手でなえのパーリングした左手を引っ掛け下に下げる。

七瀬の左手と右手の両手が完全に下がった状態を作り出す。

更に七瀬の背中には廊下の壁があるためこれ以上下がることが出来ず、なえはスイッチしながら前進し、サウスポーから左ストレートを七瀬の頭にクリーンヒットさせる。七瀬はなえがサウスポーの為、なえの左足の外側に回るため、左にステップし、なえの後ろまでステップして、壁に追い詰められている状況から抜け出す。

(物凄いボクシングの技術…)

七瀬はそう心の中でなえを賞賛する。

場面は日比谷ハルのいる高層マンションの一室へと移る。

「なえは過去にWBA世界チャンピオンをKOする程の実力者だ。しかも相手は男だ。なえにボクシングで勝てる者などそうそういない…」

再び場面はカラオケ店の廊下へと戻る。

なえはジャブを打って七瀬に右手でパーリングさせ、その後以前と同じ右ストレートを打つ振りをする。今回はフェイントとして利用する。七瀬は右ストレートのフェイントに反応し、パーリングをすると、なえは両足で飛びオーソドックスのまま、外側に移動し、左フックを七瀬に当てる。

しかし、七瀬はここから驚異的なディフェンス技術を発揮する。

なえは再び以前と同じ左ジャブ右ストレートのフェイントで近づき、左フックを当てるコンビネーションで攻めるが、左を狙ってることに気づいた七瀬は頭を左フックと同じ方向へずらし更にバックステップでなえの射程圏内から外れる。

(何?かわされた?)

なえは七瀬が適応し始めてきていることに薄々気づく。

しかし、バックステップで下がったことで七瀬は再び背後に廊下の壁につまる。

七瀬はなえの接近を止める為に右手を伸ばす。七瀬の右手を伸ばしてきたことで空いたスペースになえは左フックをうつ。右手を伸ばしたことでガードが空いてる為これは本来クリーンヒットするパンチだったが、七瀬はフックと同じ方向にステップしながら頭を落として、パンチの威力を完全に流した。

七瀬は左フックを流した後、なえが左フックを打ったことで空いたなえの左側の顔に右フックのカウンターを打ちなえにヒットさせる。なえも同時に右ストレートを打っていたがしっかり七瀬は左手でガードしていた為、七瀬はノーダメージでカウンターを当てることに成功させた。

再び距離を取る七瀬に対して、なえは左のフェイントで小さなステップをかくし、更に深く前足で踏み込み、右ボディを打つ。なえはフェイントを上手く使い距離を取ろうとする七瀬との距離を詰めるが、七瀬はバックステップを取りながら、右ボディの威力を最小限に抑えられるところで着地し、カウンターの左ストレートをなえの顔面にヒットさせる。

なえは段々と当たらなくなっていくパンチと合わされるカウンターに焦りを感じ始めていた。

なえは再び序盤で当てていた同じコンビネーションで攻める。左ジャブを打ち、右ストレートのフェイントで詰めつつ、左フックを打つ。しかし、これをジャブをパーリング左フックはリーンバックでかわされる。しかし、なえはこれに加えて今回は後ろの足から前に蹴って踏み込みながら右ストレートを打つ。

相手の攻撃に慣れ油断している人間ならこれは当たるパンチだが、七瀬は一瞬たりとも油断しておらず壁につまらぬようにサイドにバックステップしながら、頭をリーンバックでパンチをかわし、その後なえの右側を回ることで壁に詰めるプレスを流すことに成功する。

なえは今度は左フックで距離を詰め、七瀬はそれを下にダッキングしかわす。しかし、これはなえの作戦であり、この左フックは腕は動いてるものの力が入っておらずフェイントの左フックだった。七瀬が上がってきたところに2発目の本命の左フックを当てるつもりだったが…七瀬はリーンバックでパンチを外し、今度は左フックを打ったことで空いた左側のボディに七瀬は右フックを打ち込んだ。

「くっ!?」

なえの顔が若干歪む。

(そろそろ攻めの手札が尽きる頃ね…)

七瀬は余裕の表情を見せる。

実際、もうほとんどなえのパンチは当たらず七瀬のカウンターだけがヒットする状況が続いていた。

なえは攻めの手札を全て使い切ってしまった為、唯一序盤で成功したコンビネーションをもう一度仕掛ける。しかし、これは裏目に出てしまう。

なえが何度も繰り返し攻めいく中で七瀬はこのパターンに完全に見慣れていた。

なえは左ジャブを打ち、続けて右ストレートを打つ。それから、前に踏み込んだ左フックを放つ。七瀬はバックステップしながら左ジャブを右手でガードし、右ストレートはバックステップで威力を殺しつつ、その左フックを頭を右に倒し避けながら完璧なタイミングで左ストレートのカウンターをなえの顎にヒットさせる。

なえはこの左ストレートのカウンターによりダウンし、失神した。また七瀬はその後のなえのカウンターも考慮ししっかりと、サイドに回っていた。

「ずっとそれを打ってくるのを待っていたわ。」

七瀬はなえをこのまま警察につき出そうか迷うが逆に自分が加害者になる可能性も考慮し、すぐさま現場を立ち去った。

監視カメラはSDカードを抜いてる為、機能していないのでそれが証拠になる可能性もなかった。

七瀬はマコトが向かった桐生が死んだ現場へと向かう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る