第24話グル

川崎と別れてから、マコトは先程の702号室のベランダの真下の場所に来ていた。その場所は細い通路だった。更にその細い通路を挟んで七瀬のマンションの向かい側には小学校があった。

「ちょくちょく人が通るな。先程ガムテープが無くなっていて、仮に部屋の住民がガムテープを下に落としていたとしたら誰かに踏まれる危険性があるな。大事な物をそんな危険性があるギャンブルをする訳にはいかない。となれば、」

マコトは小学校の方を見る。

小学校はちょうど校庭のトイレの裏側がある。

「柵があるため、学校に関係の無い人は入らない。それに、日曜日だから当然小学生達も休みで学校に来てない。となればここにガムテープを落とせば、学校関係者例えばトイレの清掃員なんかはここで入手することが出来るな。そこから証拠品の契約書の指紋が出てきたのは11月15日日曜日の昼の11時。時間にして2時間半もあれば間に合うな。」

現在の時刻は17時

流石にもう清掃員はいなくなってるか。

「どうやらちょうど力を借りたいと思っていたところだったらしいな」

マコトがどうしようか迷っている時に七瀬と桐生がやってきた

「七瀬!それとそっちの人は?」

「桐生さん。私たちに協力してくれることになったわ。」

「どうもはじめまして」

「は、はじめまして…」

お互い挨拶をする。

「相澤マコト…やはりここに目をつけるってことはお前も有能な奴だな。」

「え?」

マコトが聞き返すと、七瀬が説明する。

「実は私と桐生さんも既に現場を見ていてそれでここが怪しいって気になったの。」

「ちょうど俺たちと入れ替えで相澤君と川崎のやつが現場を見た感じだな。」

「マコトくん。ここにいるということは、恐らく私たちと同じ推理よね?」

七瀬に聞かれマコトは返答する。

「僕の推理だと恐らく日比谷ハルが用意したロープの持ち手のガムテープ。あそこから七瀬の指紋を取ったんじゃないかって思ってるんだけどそっちはどう?」

「えぇ。私達も同じ考えよ。」

「詳しいやり方は言えないが指紋を物から物へ移す方法がある。そいつを知っているのは大抵ヤクザ絡みだ。恐らく七瀬栞の指紋をガムテープから移した。つまり、702号室の住民もグルって訳だ。」

「えぇ。それに飛び移る場所を指定したのも日比谷ハル本人だった。」

(良かった。やっぱり僕と同じ考えの人がいたんだ。)

マコトは少し安堵する。

「俺はここの学校関係者に最近入ってきた教師や清掃員がいないか?聞く。お前らは住民の方を当たれ」

わかったと返事をして、桐生は1人で学校に向かい、マコトと七瀬は他のマンションの住民に調査することになった。

マンションに向かっている最中に今後の事を話し合う。

「近いうちに、私の裁判がある。」

「分かってる。僕は明日カラオケ店に向かい、僕たちのアリバイの証拠を取る予定だよ。」

「そうそれなら安心ね…」

「七瀬の弁護士は誰がつくのか?」

「今のところ、桐生さんがすることになっているけど…」

「それなら安心だ。」

そんな会話をしているとマンションに着き早速第1住民に出会う。

「すいません。少しお話を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」

七瀬が女性に話しかける。年齢は30代ぐらいの方だ。

「はい。なんでしょうか?」

女性が応答すると今回の事情を説明する。

「702号室の住民についてですが、何か知っていますか?」七瀬が質問をする。

「確か瀬田さんって方ですよね?」

「具体的にいつ頃引っ越して来たか分かりますか?」

「いえ、そこまでは…」

「そうですか」

マコトも続けて質問をする。

「あの、8階にも引っ越してきた方が居ますよね?」

女性は少しびっくり顔をしてからこういう。

「はい。あのどうして…」

「詳しくは言えないんですけど、この前の事件に関係してある可能性があるんです。」

「そういうことでしたか。確かこの前大変でしたもんね…」

そう言うと女性は話し始める。

「8階に住んでいた方は湯木さんという方で2週間前に引っ越してきた方ですね…」

僕は七瀬にアイコンタクトを送り、この情報が正しいか確認する。七瀬は大丈夫といったアイコンタクトを送ってきた。どうやらこの情報は正しいようだ。

重要なのは702号室の瀬田さんがいつ引っ越してきたかということだ。

女性は続けて話す。

「702号室の瀬田さんは、もう1年以上前から住んでいますよ。」

七瀬に再びアイコンタクトを送るも、七瀬は階が違うから分からないというようなアイコンタクトを送ってきた。

(どういうことだ?702号室に引っ越してきたのは1年以上前という話だったが、それだと、この計画は1年以上前から計画していたのか?それとも…)

「あの、湯木さんと瀬田さんは面識はあったのですか?」

「いえ、2人はあったことも無いですよ。」

「貴方は2人とも面識があるということですか?」

七瀬がマコトと女性との会話に割り込んできた。

「えぇ。一応会話程度ならしたことがあります。」

「あの失礼ですが貴方は何階の方ですか?名前は?」

七瀬がグイグイと質問をする。

「私は202号室の和島ゆかりです。」

「和島さんは2階に住んでいるのに7階や8階の2人と面識があるのですね。」

「はい。あの何かおかしなところでも?」

七瀬に攻撃的に質問攻めされ、女性も若干苛立ちを見せ始める。

「いえ、ただ私はここに住んでいて同じ階の人以外の人とは会いもしないので…」

マコトは心の中で女性に対して疑いを深める。

(確かに七瀬の言う通り、ここのマンションは自分の階にしか止まらないからほぼすれ違うとしたらマンションのエントランスぐらい。仮に女性の話が本当だとして、1年以上前からここに住んでいる702号室の瀬田さんと面識があるのはわかるとして、引っ越して2週間の805号室の湯木さんと面識があるのは可能性としてかなり低い。よりにもよって事件に関係しているであろうこの2人と面識があるのは怪しいな。)

「もう私はこれで失礼します…」

和島ゆかりはエレベーターに乗り自分の部屋へと戻った。

「おそらくあの女性はグル。」

七瀬が断言する。

「うん。僕もそう思う。」

七瀬は顎に手を当て、

「でも、まさかもう1人マンション内にグルが潜んでいたとは。もしかして私の指紋を持ち出したのは彼女?」

マコトは

「確かに女というので包囲網を抜けられる。となると、学校にガムテープを落として、それを働いている清掃員なんかがそれを回収して、それをさっきの女性が受け取って、包囲網を抜ければ筋が通るな」

と答える。

「学校関係者の方は桐生さんに調べてもらっているから…」

そんな話をしていると七瀬に電話がかかってくる。

「桐生さんからね。」

七瀬は電話に出る。



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