第2話現状把握

「ん…ここは」

 目を覚ますとアニメでしか見たことがないような石でできた天井が見えた。

「お、やっと目を覚ましたか」

 声のする方に目を向けると頭から角の生えた女性が椅子に座っていた。

「う、うわ!!だ、誰ですか」

「うわ、とは失礼な。仮にも森の手前で倒れているお前をここまで連れてきて3日も甲斐甲斐しく介抱してやったというのに」

「み、3日も!?そ、それはどうもありがとうございます」

 3日も眠っていたのか。確かに体が思うように動かない。

「落ち着いたら話がある。まずはそこに置いてある服を着ろ。」

 言われた通りに僕は出された服に着替えた。それから僕は名前も知らない女性に連れられ広間のようなところに来ていた。

「あ、あの~ここは?」

「お静かに。もう少しもすれば分かることですので」

そうタキシード姿のご老人が言った。すると後ろにある大扉が勢いよく開いた。

「魔王様の御なりです」

 そう大扉の門番が言うと僕以外の人たちが一斉に片膝をつき頭を下げた。それからすぐに顎髭の整った魔王?らしき人物が広間に入ってきた…瞬間僕は地べたに這いつくばっていた。

「皆、顔を上げよ」

 そう魔王が言うと顔を下げていた者たちが一斉に顔を上げ立ち上がった。それでも僕は地べたに這いつくばったままだった。

「何をやっている早く立ち上がれ異世界の子よ」

そんなこと言われても立てないんだよ!!僕はそう心の中で返答した。

「そういうことか。吾輩の魔力に威圧されているのか。すまないこれで大丈夫だろう。小僧名は?」

 僕は急に体が軽くなった。

「はぁはぁ藤三優輝です。あの森と言いこの世界はどうなってるんですか!?」

少し語気が強くなってしまった。それぐらい僕は気が動転していた。

「そうだな少し説明をしてやろう。スルカ」

「はい。お父様」

先ほど僕と一緒に居た女性が前に出てきた。ん?娘と言ったか?もしかしてこの子魔王の娘か?滅茶苦茶大物に介抱されてたんだな、僕。

「君はこの世界に魔界の勇者として召喚したんだ」

「魔界の、勇者?僕が?」

 意味が分からない。僕なんかが勇者になんてなれるわけないのに。喧嘩だってしたことがないのに…

「まぁ君のいた世界の人ならだれでもこの世界の勇者になれる。努力次第だがな。君のいた世界は枷が多すぎる」

「じゃぁなぜ僕なんですか?僕のいた世界なら誰でもよかったんじゃないですか?」

「確かに誰でもよかった。…人界の側の勇者ならば」

「人界の勇者?魔界の勇者とはどう違うんですか?」

 そう僕が言うとその場にいた人たちが考え出した。

「どう違うと言われれば難しいが一つ言えることは君たちの世界には重力というものがあるらしいがこの世界にはそれがなく変わりに魔力が充満している」

「何故僕のいた世界に重力があることを知っているですか?」

「それは他にも君の世界から来た者たちがいるからだ」

 他にもいるのか。夕たちのことか?でもここにはいない。僕が目覚める前に合っているのか?まぁ僕以外の勇者?から聞いたということか。

「あ、あの~他にも僕と同じように召喚された人がいたと思うですけどその人たちは今どこに?」

「他の異世界人?吾輩らが召喚したのは優輝一人だけだが?」

 と今まで黙っていた魔王様が言った。

「え?」

 他に人はいない?確かに僕と同じように召喚された人たちはいたはずだ。

「いやいたんですよ。僕と同じようにこの世界に召喚された人たちが」

 僕がそう喚いていると広間で最初に僕に声を掛けた老人が魔王様に耳打ちをしていた。

「小僧分かったぞ。貴様が一緒に来たという異世界人たちが人界の方に召喚されたらしい」

「なるほど?では何故僕だけが魔界に召喚されたんだ?僕はその人たちと同じ場所にいたんです」

「我ら魔族は異世界人を召喚する時に強さは二の次なんだ一番重視しているのは”優しさ”だ」

「優しさ?」

「そうだ意外か?」

「そうですね」

 意外だった。僕のいた世界では魔族というのは傲慢で狡猾で純粋悪のようなものだと思っていた。

「もし我ら魔族が君のように人界で眠っていたらまず殺される。人類は我ら魔族を嫌っているからな」

「そ、そうなんですか。少し話を整理させてください」

 まず僕はこの世界に魔界の勇者として召喚された。僕のいた世界の人間はいこの世界では誰でも勇者になれる可能性がある。僕よりも前に召喚された人がいる。夕たちは人界に召喚された。魔族と人類は仲が悪い。

「先ほど僕のいた世界の人間は皆この世界ではそれなりに強いと言っていましたが、具体的にはどれくらい強いんですか?」

魔力が充満していると言っていたし、大方魔法の類も使えるのだろう。自分がどれくらいのことができどれくらいのことができないのか知っておかないと、命がいくつあっても足りない。

「そうだな貴様が最初にいた森を覚えているか?」

「はい」

「あの森は、魔力の濃度が高すぎるあまり魔力で肉体ができている我ら魔族ですら長時間いたら魔力コントロールができなくなり死に至る。人類の場合森に近づくだけでも失神し最悪の場合死に至る」

「そ、そんな危ない場所だったんですか」

「そうだ。ちなみに優輝あの森にどれくらいいたんだ?」

「体感ですけど4,5時間ぐらいですかね」

「「「「はぁー-----」」」

「え!?」

 広間にいたもの全員が驚愕していた。

「そんなにか…魔王の吾輩ですら3時間が限界だというのに」

「ま、まぁ体感ですから本当かどうかは分かりませんが」

まだ広間はざわざわとしている。そんなにあの森は危険なのか。それよりも僕の強さはこの世界では異質すぎるということは分かった。

「ん゛ん゛ま、まぁ優輝の強さはよく理解した。でもまだこの世界のことを知らないだろうしスルカと一緒に困っている者たちを助けつつこの世界のことを学んで行けこの世界には魔法もあるし頑張ればこの世界で一番強くなれるかもな」

「分かりました魔界を回りつつ魔法習得も頑張ります。」

「よし今日の集会はこれにて閉会とする皆下がってよいぞ」

そう魔王様が言うと一瞬にして広間には魔王様とその娘のスルカさんと僕だけになってしまった。

「ではスルカ後は頼んだぞ」

「分かりましたお父様」


広間には魔王が一人玉座に座って頭を抱えていた。

「はぁ何ということだ。あの森に体感でも4,5時間もいたなんて前代未聞だ。今までも優輝たちの世界から召喚したものはいたがあの森の中では失神まではいかずとも体調不良にはなっていた。なにものなんだ?」

 敵ではなくて心底ほっとする。異世界人の成長速度には目を見張るものがある。魔王といえどのんびりしているとあっという間に追い越されてしまう。我も鍛錬を怠ってはダメだな。


 広間を後にした僕はスルカさんにこの世界のことを詳しく教えてもらうことになった。はぁこれからどうなるんだ。先が思いやられる。でもまだ僕はやらないといけないことがあるんだ。夕は人界にいるかもしれないし僕も魔界で修行してこの世界で一人でも生きていけるぐらい強くなろう。

 そう僕は心の中で固い決意をした。

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集団異世界召喚に巻き込まれた俺は、一人だけ魔界に召喚されたので、魔王の娘の世話係として働きます。  あらいや @araiya

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