第5話 脱皮した卵
放たれた光の粒がコバルト・ブルーのお水へ吸い込まれていくと、アズライトたちはようやく大きなふたつ穴を開くことがでしました。
「え……?」
アズライトは思わず声をこぼしました。――そこにら、花開いたラピスラズリがいたのです。
手や足やお顔をつないでいたラピスラズリの宝石は姿をなくし、かわりに、お顔の大きなふたつ穴に大きなラピスラズリを魅せています。ぺらぺらの平らな胴もなめらかになり――空いていた穴は大きく豊かなふたつのお乳に、短い棒きれだった腕は衣のような長いひれで彩られた長い「脚」に、壁のようにつるりとしていたお尻やひょろひょろの「脚」はゆるかなカーブをえがいた
やにわに、蛍クジラがきゅーいきゅーいと高らかに歌いました。
「まあ、とてもめでたい!ラピスラズリの子は
「核……?」
サファイアとタンザナイトが言葉をこぼします。ラリマーとベニトアイトはすっかりラピスラズリにみとれています。蛍クジラさんはなおも声を明るくして歌います。
「あなたたちもきっといずれは……。ああ、春の終わりが待ちどおしい」
「ぼくたちも、ラピスラズリみたくきれいになれるの?」
とラリマー。大きなふたつ穴を見開いて、ラピスラズリからそらせないでいます。
ラピスラズリはほんやりとくもったラピスラズリの宝石で子どもたちを見つめ返し――ようやくその輝きが戻されていきました。それはまるでコバルト・ブルーのお水のように向かうまで見とおせそうなほどに澄んだラピスラズリです。ラピスラズリは一度二度とまばたくと、ちいさく口元を震わせました。
「みんな、そんなに見て、どうしたの?」
その音は、アズライトたちとちがう、甘さと深さのある音です。ラピスラズリはふああ、と大きくあくびをすると、のびのびと胴を反らしました。大きなお乳が揺れて、まるでアズライトたちの知るラピスラズリではありません。それでもアズライトはラピスラズリの元へ寄って、脚をつかみます。あのひんやりとして冷たかった腕は、あたたかさとやわらかさのある脚になっておりました。
「どこか痛いところはない、ラピスラズリ?」
「痛いところ?そんなところはないよ。むしろ、とても心地よくて満ち足りた気分たよ」
「でも、さっきはあんなに苦しそうだったよ?」
「そうだったの?覚えていないなあ」
ラピスラズリの目元はなごやかで、口元にはほんのりと笑みがたたえられています。きっと本当に覚えていないのでしょう。ラピスラズリはにっこりとお顔をほころばせて言いました。
「そんな暗いお顔をしないで。僕は自由に泳ぎたい気分だな。アズライト、一緒に泳ぎましょう?」
コバルト・ブルーの中を舞うペール・ブルーの布だったものは、まるでラピスラズリ色の絹糸のように細くすべらかになってゆらゆらとお水の中を波打っています。その絹糸はきらきらと蛍クジラさんの光をはじいて、前よりもずっとまばゆく、羽ごろも魚さんたちもうっとりです。
「いいなあ、僕もああなりたい」
ベニトアイトか小さく言葉をこぼすと、他の子どもたちも頷き合いました。ラピスラズリは前よりもずっと早くなめらかにお水の中を泳ぎました。すいすいと、羽ごろも魚さんたちや糸あめクラゲさんたちとありません。今の彼に追いつけるのは、アズライトだけです。アズライトは細いペール・ブルーの腕で大きく水をかいて、ラピスラズリの後に続きます。
蛍クジラさんがきゅーいきゅーい、と高らかに歌いました。そしてそのまま悠々と大きくお水をかいて、離れていきます。いそいで子どもたちは木の枝やお花の花びらなんかにつかまりましたが、ラピスラズリだけはすいすいと泳いでやりすごしました。そのことがさらに、子どもたちの羨望をあつめました。
「ああ、僕たちも早く、ラピスラズリみたいになりたいね!」
サファイアとベニトアイトがきゃらきゃらと音立てます。ラリマーもフローライトも大はしゃぎをして、ラピスラズリに見とれます。アズライトは蛍クジラさんで揺らぐお水が落ち着くや、大きく手足を動かしてラピスラズリのもとへかけ寄りました。
「僕はどっちでもいいや。みんなと楽しければ。でも、痛そうなのを見るのはいやだなあ」
「そんなに僕、痛そうだった?」
ラピスラズリが小首をかしいぐと、こくこくとアズライトはうなずきます。
「うん。それに、どろどろに溶けてて、びっくりした。みんなもああなると思うと、いやだなあ」
「でもラピスラズリみたいになったら、痛いの忘れられるんでしょう?きれいになれるんなら、僕ははやく、ラピスラズリみたいになりたい!」
フローライトが明るい声で言うと、他の子どもたちも手を上げて「僕も」「僕も」と叫びます。あまりに騒ぐものだから、お顔や胴に空いた穴がいつもよりひゅうひゅうと音を立ててにぎやかです。ラピスラズリはアズライトの手を引くと、まるで蛍クジラさんのようにゆったりと旋回しました。アズライトは驚いた様子で大きなふたつ穴をもっと見開きましたが、すぐに
「まあ、みんながいいなら、いっか」
と言葉を小さくこぼしました。
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