第10話(最終話)
10話
《また何処かで私たちは出会うといいね》
私たちはそのあと、街を抜けて林の中に入っていった。哲也が私に言ったのだ。
「星がきれいに見えるところに行こうよ」
と。私もうなずいて答えた。
「うん、行こう」
私はそう言って彼の手を握ったまま歩き続けた。でも私たちの行く先には星空もなければ、林さえもなかった。真っ暗な道が続いていただけだったので、私は不安になって哲也に訊ねた。
「ねえ、どこに向かっているの?」
彼は少し間をおいてから答えた。
「うん、どこだろうね」
哲也は笑った。
私もつられて笑ってみたが、そのときに自分が笑っていることに気が付いて驚いた。笑うなんて何ヶ月ぶりだろう? そんなことを考えていたが、すぐにどうでも良くなった。哲也と一緒に死ねるならもう何でもいいと思った。
それから私たちは手をつなぎながら歩き続けた。林を抜けると田んぼの畦道に出たり、畑の中を通り抜けたりした。そのうちに哲也は私に訊ねてきた。
「疲れた?」
私は首を振った。
「ううん」
「そう、良かった」
哲也は私の手をぎゅっと握ってくれた。その手から哲也の温もりを感じたので私は安心した。それから哲也はまた口を開いた。
「星が綺麗だね」
私も空を見上げてうなずいた。でも、そのときに見た星空よりもやっぱり哲也が私に向けて言ってくれた言葉の方が何倍も綺麗だと思った。
だから私はこう言ったのだ。
「うん、星よりもあなたの方がずっと綺麗ね」
「…………じゃあね?」
とんっと押された。
「え?」
私は後ろに数歩よろけて、振り返った。哲也は悪戯っぽく微笑んでいた。
「ばいばい」
そう言って哲也は私に背を向けて歩き出した。
私は驚いて哲也の名前を呼んだ。
「哲也?」
哲也は振り返らずにどんどん歩いていった。
私は訳が分からなかったけれど、とにかく走った。走っても走っても哲也の背中が遠くなっていくだけだったので、私は怖くなって叫んだ。
「待って!」
けれど哲也はどんどん遠ざかっていくばかりだった。
「待ってよ!!!」
私は目が覚める。
そこは自宅だった。
哲也に連絡すると
《この番号は現在使われておりません》
と言った。
私は驚き
彼の母親に電話する。
「あの子は……死にましたよ……昨日息を引き取りました
ありがとうね……心配してくれて
ずっと貴女と天体観測したいって言ってたから『病弱』でいつ死ぬか分からなかったから」
そうだ
彼は哲也は《難病》を抱えてずっと《病院》で入院していたんだった。
《彼》はこれで《解放》されたんだと思うと安心するが
《切なさ》も覚える。
だけど
私は
心の中で
《今までありがとう》と言った。
[完]
恋愛はプラネタリウムのような幻想 みなと劉 @minatoryu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます