第2話 魔国に堕ちた一人の勇者。

「僕は」


輝かしい光が僕に当たっている。

背中には芝生の感覚がある。

手には、何かの金属製の冷たい棒がある気がする。


僕は目を開けながら、太陽を手で隠した。

目を開けると、空には鳥が飛んでおり、美しい青色が溢れている。


顔を棒の感覚がある方に向けた。

薄黒い肌の上にある一つの棒。

それは、朽ち果て、鯖が黒くなり、刃も脆く、

紅色の宝石が嵌め込まれた剣だった。


僕はそれを握り立ち始める。

体を起き上がらせると、芝生に何かが落ちた感覚がある。

芝生を見るとそこには、黒く紅い紋様が描かれたローブがあった。


僕はそれを羽織った。


周りを見るとそこには美しい木々と小鳥の囀り。

それらが合わさることで感じる事が出来る自然を感じた。


僕は今、体の異変に気付いた。

剣を握っているだけで体の力が吸い取られている気がする。

僕は怖くなって、剣を遠く離れた木に投げた。

剣は木に刺さり腐り果てる。

だが、体の異変は変わっていない。

そう思った時に剣は僕の手へと一瞬で飛んできた。


「おお、すごいっすね!」


僕が後ろを向くと、そこには髪が緑色の青年がいた。

僕が困惑状態に至ると、彼は話し始めた。


「すいません。すごい技術だなって思って。

今の崩壊しかけている魔国じゃ、貴方みたいな者は

存在しないからっすね。」


そう何処か儚い笑顔を見せる彼に僕は尋ねた。


「どうしてそういう技術のある者が魔国には存在しないんだ?」


「そんなことも知らないっすか? 

魔国は神聖国と戦争をして負けてしまったんですよ。

しかも、神聖国の戦士はたったの四人。

その四人は勇者パーティって言って神から何かを授かった者らしいっす。

だから、魔国は崩壊し、内部崩壊しかけているということです。」


勇者、、、?

誰,だ。

あ、、あああああ。




そこから意識がなくなった。








「目が覚めましたか?」


あの青年の声がした。僕は体を起き上がらせる。


「僕は、、、」


「貴方はあの後意識を失っちゃったんすよ。」


「そうだったのか。」


僕はその話を聞いて周りを見回す。剣は相変わらず手に接していて、外すこともできない。


周りには木製の家具。

ちょっと古臭い天井からは雨水が垂れている。

だが、それよりも木になる事があった。


「青年。他に家族はいないのか?」


聞いてはいけない事が直感的に今わかる。


「殺されました。」


その言葉がこの小さな部屋中に響く。

聞こえるのは外からの雨音と、自分の息。


「神聖国の勇者パーティ、ダイアに妹も集落の人間も、母も父も。全員殺されました。私は逃がされ、今ここにいます。」


「そうだったのか、ごめんな。

青年。名前は?」


話題を変えて僕はこの空気を変えたい。

そう思った。


「僕はゴブリンのイミーっす。

貴方も名前は?」


名前。

僕の名前は、何だ。

記憶が流れ込んでくる。

気持ち悪い。

ああ、

その時一つの名前が並んだ。


イヴ。


「僕の名前はイヴだよ。」


「イヴさんっすか。いい名前っすね。」


「イミー、ここはどこだ?」


「魔国の第一戦争拠点と神聖国との国境の中間っす」


「じゃあ、僕はその第一戦争拠点に行きたい。」


「あそこは混乱に紛れていますよ。

どうして?」


「僕は今、情報が欲しいんだ。」

 

そういうと、イミーは、奥の引き出しから布袋を取り出した。


「少しですけど、これだけあったら食べ物は買えると思います。」


「ありがと。戻ってくるから。」


「拠点は扉から右に直進すればあるっす。」


「いってきます。」


「いってらっしゃい」


そうイミーはまた儚げな表情で僕を送った。


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