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そこにアノ人の姿はあった。

みんなマスクをしていてどこか少し距離を取っていて、短時間の談笑の後、集合写真を撮って解散となる。


あんなに長い間思い焦がれていたのに、いざ直接会ったらなにか言いたいことがあるわけでもなく、でもなんとなく勝手に気まずくて妙に恥ずかしくてその間言葉をかわすこともなかった。

駅で電車を待っていると

「お疲れ様!」

アノ人が声をかけてくる


「まだあの辺住んでるの?」

「うん、ワタシもう結婚してて…でも実家の近くに住んでるよ」

「そっか。オレまだ実家だよー」

「そうなんだ、ずっと近くに住んでるのに会わないもんだね」

「そうだね、でもオレ何回か見かけたことあるよ?」

「…え?」

「家族でいるのも見たことあるよ」

「そうなんだ!声かけてくれれば良かったのに…」


縁が無いから偶然会うことさえないと自分に言い聞かせていたのに、複雑な心境に思わず声が震えた。


「あれ?ピアス開けてたっけ?」

「え?」

「昔開いてなかったよね、ピアス。かわいいね。」



正直なところ自分でもいつ開けたか思い出せないけれど、確かに付き合っていた頃は開いていなかった。こんなに月日がたってもそんな些細な変化を思い返してくれる。


たった10分程の帰路の会話で別れてからの時間を埋め合わせるような、でもそれは気持ちを再燃させるわけではなく、最期に言葉をかわすことさえできずに別れのときを迎えた死者と夢の中で会話ができたような、そんな感覚に近かった。


そしてワタシの中のアノ人の亡霊が成仏していくような、温かい瞬間だった。



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