私だった……
遠藤みりん
第1話 私だった……
彼女を見る様になったのはいつからだろう?
街灯さえ無い暗い帰り道。手入れされていない近所の空き地に彼女は居た。
長い髪を垂らし、土を素手で一心不乱に掘っている。
始めは土地の手入れを所有者が行なっていると思っていた。しかし毎晩見かける彼女の様子を見て違うと確信する。
恐怖よりも好奇心が勝り、ある夜に空き地の近くで彼女の様子を覗いてみた。
「見つからない……」
「見つからない……」
「見つからない……」
彼女はそう繰り返し、土を素手で掘り続けていた。私はその姿に恐怖し音を立てずその場から去った。
その夜以降彼女の事が頭から離れなくなってしまう。
彼女は一体何を探しているのだろう?
その事ばかりが気になり私は頭がおかしくなりそうだった。
ある夜の帰り道、いつもの様に彼女は長い髪を垂らし土を掘っていた。
「見つからない」
「見つからない」
「見つからない」
私は意を決して彼女に声を掛けた。
「ねぇ何を探しているの?」
手を止めて彼女は振り返った。
“私だった……”
私は驚きの余り声その場を走り去った。
彼女は私だった……
私は思い出した……婚約した彼から貰った指輪をあそこに埋めた事を。婚約までしたのに彼は私を捨てた。私は記憶に蓋をしていたのだ。
指輪を見つけないと……
私がいつまでもあの場所で指輪を探し続ける事になる……
その夜を境に私はあの場所で指輪を探し続けた。
「見つからない」
「見つからない」
「見つからない」
爪の間に硬く冷たい土は入り込む。
「見つからない」
「見つからない」
「見つからない」
遂には爪は剥がれ、指先は血に染まる。
「見つからない」
「見つからない」
「見つからない」
ある夜、背後に気配を感じた。
「ねぇ何を探しているの?」
女性は話しかけてくる。
私は振り返った。
“私だった……”
私だった…… 遠藤みりん @endomirin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます