第14話 頭痛の種とぱふぱふ
ワイズマンさんから課題を貰ってから、一度自宅に戻った俺達は今、晩御飯の準備をしていた。
一応、3日間は過ごす事になったので、コンビニなどで日用品を購入し、それからの帰宅。
そして、一緒に夜ご飯を作る事になったのだが……。
「は、ハルト、ちゃんと見ててね!!」
「見てるよ、ほら。左手はちゃんと猫の手にして」
「してるよ!!」
何処か緊張した面持ちで包丁を握り、食材達と向き合うクレア。
提案はクレアからだった。是非とも、お世話になるのだから、手伝いをしたいと。
俺はそれを承諾し、いざ料理を作ろうとなると、これがまた大変な事。
クレアの家は超お金持ち。つまる所、身の回りの事はある程度ワイズマンさんのような執事やメイドがやっていたらしい。
その為、クレアは包丁すら握った事が無かったのだ。
そこでクレアはこの機会に、と包丁の扱い方を学んでいた。
俺はそれを隣で目を離さないようにする。
クレアの手は白くとても美しい。そんな手に傷を付けるわけにはいかない。
クレアが一つ一つ慎重かつ、おそるおそるといった手付きで進めて行く中、俺は考える。
それは先ほどの封書の中身。
『クラーラ家を救え』という文字しかなく、それ以外のヒントは何一つ見られなかった。
この内容に関してはクレアに聞いてみた所、彼女にも分からないとの事だった。
そもそも、クラーラ家が何かしらの問題を抱えているんだとして、それは一体何なのか。
それをノーヒントで探すというのも難しいんじゃないか。
「は、ハルト、出来た!!」
「お? 怪我してないか?」
「してないよ。これを鍋に入れれば良いの?」
「ああ、全部ぶち込め」
俺の指示どおりにクレアが鍋の中に食材を投入していく。
封書に関しては後ほど、クレアと話し合う事は決めている。
クレアは食材を入れてから、オタマで鍋の中身を混ぜながら、口を開いた。
「これで後は煮込む……」
「そうそう。味とかは後で調えればいいからな」
「分かった」
クレアはゆっくりと鍋に蓋をしてから、やり遂げたかのように一つ息を吐いた。
「ふぅ、お料理って大変だね」
「だろう? 良い経験になったんじゃないか?」
「うん。皆、これを毎日やってるんだね。すごいな」
「クレアも慣れるさ」
俺がそう言いながらクレアの頭を優しく撫でると、身を寄せ、スリスリと身体を擦り付けてくる。
さながら、犬のようだ。
「んふふ……まだハルトと一緒に居られるなんて。ありがとう、ハルト」
「喜ぶのは良いけど、あの封書の問題だって残ってるんだぞ?」
「分かってるって。でも、大丈夫、大丈夫。私とハルトだもん」
ニコっと自信満々といった様子で笑うクレア。
「私とハルトが力を合わせれば出来ない事なんて無いよ!!」
「手がかりもないのに?」
「そ、それはこれから探せば良いの!!」
まぁ、それはその通りなんだが。
それから俺とクレアは鍋の様子を見つめながら時間が過ぎるのを待つ。
数十分後。鍋が完成し、俺がそれをリビングへと運んでいく。
さて、夜ご飯でも食べながらゆっくりと話すとしよう。
「いただきます」
「いただきます」
俺とクレアは手を合わせ、共に同じ鍋を突き合う。
クレアは美味しそうに具材を頬張り、笑顔を浮かべる。
「んふふ、あったかくておいしい……」
「それは良かった」
俺も鍋の具材を頬張る。熱々で少し火傷しそうになるが、しっかりと食材の旨味が染みついていて美味しい。
納得の出来だ。そんな事を考えていたとき、クレアが口を開いた。
「ん~、クラーラ家を救えか。何か問題ってあったっけ?」
「クレアは何か思い出した事ある?」
「んぅ~……あんまり問題になってる事って無いんだよね。あ、私が問題を起こしてるくらい?」
「それは流石に無関係じゃないか?」
ここでクラーラ家を救え、でお前がクレアを誑かしてるから、クラーラ家の危機なんだよ、と言われたとしても、まぁ、そうですね。と納得してしまうが、それとは話が違うだろう。
あの場、あのタイミングで渡してきたという事はそれだけの理由があるはずだ。
「……だとすると、やっぱり、プロジェクトの話なのかなぁ?」
「ああ、新エネルギー開発、だっけ?」
「そうそう。あれ、割とパパの独断みたいな所があるんだよね」
「そうなのか?」
空になったクレアの取り皿を手に取り、俺は鍋の中をよそおいながら口を開く。
「それは初耳だな。はい、どうぞ」
「ありがと!! パパはね、凄く頭が良くて、良く沢山の人達が想像も付かないような事を心配してたりするんだよ。こう何ていうか、未来を見すぎっていうか……」
「向こう見ずなクレアとは正反対なんだな」
「むっ!? ち、違う!! 私だってやろうと思えば、先の事も考えられるし!!」
ぷんぷん、といった様子で怒りを露にするクレア。
でも、そんな怒り方をしたって可愛いだけだ。
俺は思わず笑顔がこぼれてしまう。
「ははっ、そうだな」
「むぅ……その顔は信じてないね。ふふ、いつか見せてあげるよ。いかに私が先を見通せるか」
「期待しとく。それで?」
「それでね、まぁ、エネルギー問題ってすごい長期的な問題でしょ? 普通の人間なら聞いた事はあるけど、こう身近な問題ではない、みたいな感じ?」
確かに。
昨今、エネルギー不足なんて事は叫ばれてはいるが、それが日常的な影響があるかないかと言えば、そこまで強くは感じられない。
それ故にそういう問題がある、というのは分かっているが、今考えるべき事ではないとも思える。
「確かに。でも、クレアのお父さんはそれを解決したい」
「そういう事。……今、思うと、良くママとも喧嘩してたっけ? あんなに仲の良い二人が喧嘩するの凄く珍しいって思ったけど……アレ、今思うと異常だったのかな?」
思い返すように言うクレア。
家の事に興味が無い、というよりも、失望し過ぎて細かな所に気付かなかったのか。
俺は箸を進め、口の中の物を飲み込んでから、口を開いた。
「けど、その反対というか、喧嘩をしても尚、それを推進したって事か。それでクレアが婚約した」
「そうそう。そんな感じ……。婚約事態が絶対条件だったみたいだし。パパもママもそれを了承してた。元々、クラーラ家に生まれた段階で、そういう結婚しか出来ない雰囲気だったから」
まぁ、大きな家になればなる程、政略結婚のようなモノが蔓延る。
自由恋愛の末に結婚なんてのは、許される事ではないんだろう。
だから、こうして苦労をしている訳なんだが。
「だとすると、問題は一つだな」
「やっぱり、プロジェクト?」
「うん。だと思う。それが最初から新エネルギーの開発なんてのが無謀すぎるもので、多大なる損失を出すものなのか、それとも、そもそも、クレアの『婚約』自体に裏があるかみたいな感じ?」
俺の貧相な考えはこうだ。
クラーラ家が衰退する要因となるのが、安定している今までの事ではなく、これから始める新しい事。そうだとするのなら、やはり、新エネルギーというそのプロジェクトの他ない。
そもそも、新エネルギー開発というのは世界中から待ちに待たれているモノもであり、悲願だ。
しかし、それがそもそも『夢物語』で。
実現不可能な事を推進しようとしているのなら、それは大きな損失しか生み出さない。それはつまり、クラーラ家が衰退していく事になる。
クラーラ家からすればこれを避けたくなるが、この新エネルギー開発が当主の悲願。
だとすると、それを無理にでも強行する可能性が出てくる。そもそも、娘をその繋がりに利用するくらいなのだから、強く進めて行きたい事なんだろう。
ワイズマンさんは言っていた。
相手方である、ハリス家の事は調べていた、と。だとしても、隠している事はあるだろう。
やっぱり、怪しいのはクラーラ家との共同開発に名乗り出た、この名家の存在だ。
「……個人的な話をしてもいい?」
「良いよ。どうした?」
「私、やっぱり、ハリス家が怪しいと思うんだ。あの男、ロジャーっていうんだけど、あいつ、性格も終わってるし、何かよからぬ事を企んでそうなんだよね」
クレアが訝しげな表情で言う。
そこまで言うのなら、きっと何かある、という事か。
だったら、調べてみる価値はあるか。だとしても、どうやって?
俺は一つ思い出す。ハリス家の事を調べたいのなら、あそこしか無いんじゃないか?
「なぁ、クレア」
「何?」
「……婚約パーティの場所にさ、行ってみないか?」
「ぶっ!! ごほっごほっ!! なな、何言ってるの!?」
俺の唐突過ぎる提案に驚いたのか、クレアが口の中にあったものを吐き出す。
それを何とか取り皿でかくし、クレアは口元をティッシュで拭く。
「い、行く意味無いじゃん!!」
「いや、こっそり行って、関係者に話とか聞けないかなって。ハリス家の黒い噂とか知ってますかって」
「えぇ……無茶苦茶だし。絶対に私が連れ戻されて終わる気がするんだけど」
「……やっぱり?」
「うん」
クレアの真っ直ぐ過ぎる頷きに俺は思わず天を仰ぐ。
やはり、そうだよな。そんな所に行けば、間違いなくクレアが婚約パーティに参加する事になる。
……ん? 待てよ。
婚約パーティ?
あれ? まさか、俺、ずっと勘違いしてた?
「なぁ、クレア。俺さ、ずっと勘違いしてたんだけど、婚約パーティってパーティ? 正式な結婚式じゃない感じ?」
「え? そうだよ? 結婚式は一応、私の国で行うから……」
「……あ、そうなの? 俺、ずっと勘違いしてたわ。クレアが脱走したから、てっきり、もう後戻り出来ないんじゃないかって……」
俺の言葉にクレアは曖昧に笑う。
「あー、でも、実質そうかも」
「そうなの?」
「うん……他の名家の人とかも来てるから、実質結婚宣言、みたいな所はあるかも」
「じゃあ、行くのも無理か……」
婚約パーティに参加して、その間に情報入手なんて事も考えたが、それも無理らしい。
じゃあ、やっぱり地道に探していくしか無いか。
すると、クレアは箸を机の上に置き、手を合わせる。
「御馳走様でした。ハルト、そっちに行っても良い?」
「どうぞ」
スタスタ、と足を進め、クレアは俺の隣に腰を落ち着かせてから、ぎゅーっと腕に抱きつく。
クレアの豊かな双丘の感触と暖かな温もりを感じる。
「んふふ、今度はハルト成分を補給しないと」
「そうですか」
「ハルト」
「何?」
「あんまり悩んだらダメ」
そう言いながら、クレアは俺の頬に手を添える。
「ずっとずっと分からない事を考えてもしょうがないよ。そりゃ、考える事も大事だし、私とハルトが一緒に居るためには大事かもしれないけど。私は『今』も大事にしたいな」
「そうだな。ちょっと考えすぎてたかもな。じゃあ」
俺は少しばかり身を屈めてから、クレアの豊かな胸に顔を埋める。
「きゃっ!? ちょ、ちょっと、ハルト!! 何処に顔を埋めて……」
「ぱふぱふしてください」
「……ふふ、頭使いすぎて疲れちゃった? 良いよ、はい、ぱふぱふ」
ぱふぱふ、ぱふぱふ。
ああ、ここは天国か。顔の両側から感じるおっぱいの柔らかさ……。
あぁ~……最高じゃぁ~……。
考えても分からないなら、しょうがないかぁ~。今はこの柔らかマシュマロおっぱいに包まれて、幸せになろう。
しばらく、俺はクレアのおっぱいでぱふぱふしてもらった――。
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