第67話 決着!?
三輪バギー程の大きさとなった真神に乗って駆け回るサザナミの横に、白く小さなウサギの白雪を肩に乗せ【
「真神ってばこんなに大きくなれるんだ。凄いわね」
「ミサさんの方こそ凄いですよ。それ【八艘跳び】の足場みたいですけど、もしかして新技ですか?」
その二人の間を
「ひぃーーーやぁぁぁぁーー……」
【
「ええっ!? ちょっマキ落ち着いて! 白雪、あーもんの補助を!」
急いで追い掛けるマキを見送りながら、サザナミは真神の首筋をトントンと軽く平手で叩く。
「真神、私達も暴走には気を付けようね」
真神はやれやれといった表情を浮かべ頷き、そしてライアスに鋭い視線を向ける。
「さあ、行くよ!」
ライアスの背後――魔力に包まれてぼんやりとしか見えないが多分背後っぽい――に回り込んだサザナミは、そのままライアスに突撃を仕掛ける。
「ここだっ!」
「ふん、甘いわ」
渦の中でライアスは背後に手を伸ばし、その掌の先に魔力を集中した。その魔力が甲虫の形をとり盾のように硬化するのを見た真神は己の魔力を鼻先に集中し、槍の穂先のように鋭くライアスに突き刺さってゆく。そして二人の間で濃密な魔力同士のぶつかり合いが始まった。
「白雪っ」
この一瞬の硬直をチャンスと見たミサは相棒の白雪に鋭く声をかける。
舵を取る白雪もまたこの状況への対応を既に開始しており、『分かっている』と言わんばかりに鋭角なターンを決めライアスに舳先を向けた。
「行っけぇーーー!」
背後を取られた状態で真神の突進を止めたものの、その姿勢には無理がある。
両手で一気に弾き飛ばそうと身体を反転させたその瞬間、ライアスの目の前に魔力の舟が猛烈な勢いで迫ってきた。
「ぬおっ!」
反転の途中だったライアスは、気合いを込めた低い声を放ち、真神を押さえているのと反対側の手を白雪の突進を止めるべく突き出した。
その手はギリギリで間に合い、白雪の突進を甲虫の盾で受け止める。
だがそれによりライアスの手は左右とも塞がり、120度の角度で迫る二つの力に同時に対処する事になってしまった。
「ぐぐっ……だがこの程度!」
瞬間的な全力により真神と白雪を両方同時に弾き飛ばすため、ライアスが全身を覆う魔力の渦を強めようとした――まさにその瞬間!
「どぉいぃてぇーーーーっ!!」
背後から楽しげに目を爛々と輝かせたあーもんと悲鳴が止まらないマキが乗る魔力の舟が突っ込んできた。
ライアスの魔力の渦を突き破り、その勢いのままライアスの後頭部へと。
「どぐぶぅわっ!?」
突然の衝撃に左右の手への魔力供給も止まってしまい、マキに続いてサザナミとミサもライアスに激突、これによりライアスは激しい錐揉み状態で上空へと打ち上げられた。
その下では奇跡的な角度とタイミングにより互いに衝突する事無く突き抜けた三人が、そのまま三方向へと飛び去って行く。
錐揉みを続けるライアスは鋭い放物線の頂点に達し、空中で一瞬停止した後に落下を開始する。
その激しい錐揉みは低い音を立てて地面に激突してからも暫く続き、やがて回転が止まるとそこには、魔力の渦が飛び散った事でその姿が剥き出しとなり、古典ギャグ漫画の如く尻を上げた姿勢で倒れるライアスの姿があった。
「おおーーーっ、倒した!?」
突然の勝利に目を丸くするノア。
そして、
「ちょっ!?」
「アルティメイドの見せ場はっ!?」
カッコいい変身ポーズから一転、あまりの結末に呆然とするアイコとアズサ。
嘘、変身しただけで終わっちゃった!?
「「「「「おおぉぉぉぉーーーっ!!」」」」」
場内に沸き上がる歓声の中、ライアスを注視していた彼女は呟く。
「仮にも神を名乗っていた者がこの程度である筈はないだろう。まだだ、すぐに次がある」
『静岡チームがやってくれました! よく分からない謎の乱入者を見事撃退しましたぁっ!!』
『凄いですね。まさかこんな隠し球があったなんて。私感動しました』
「「「「「わああぁぁーーーっ」」」」」
甦った実況中継に当てられて大興奮の試合会場。
だがその時、試合場の中央ではアカリの言葉通りの事態が進行していた。
再びライアスを魔力の渦が包み、そしてその渦の中でライアスがゆっくりと立ち上がったのだ。
「ふふふふふふふふふ……許さん……もう許さんからな貴様等!!」
激しい怒りと共に再び周囲に圧を撒き散らすライアス。
突然のし掛かった重圧に観客席では歓声が呻き声へと変わり、実況席では過多味と奈留橋の二人がテーブルに突っ伏す。
ライアスの他に立っているのはノア、アカリ、アイコ、アズミの四人だけとなった。
ライアスは勝ち誇った顔でノア達を睥睨する。
「ふん、我の放つ圧の中で立つか。だがどうやら我と戦う事が出来るのは貴様達だけとなったようだな」
だがしかし――
この一連の流れに於いて、ついにアカリの中で推測が確信に変わった。
「やはりか……」
そしてアカリは共に戦う三人を呼び寄せ、小声でその事を伝える。
「アクアルナ、アズサ、アイコ。あのライアスだが――――」
「へぇ、そうだったのか。しかしよく気付けたなアカリ」
「うんうん、流石アカリちゃんだよー。それでさ、つまり短期決戦?」
「ええその通りね、一気に畳み掛けましょう。アズサ」
「おう、アイコ!」
純白のメイド服のアイコと漆黒のメイド服のアズサがライアスに向かって走り出した。
「せっかく変身したんだからブラック、ホワイトって呼び合って欲しいよー」
「アルブム、ニグルムも捨て難い」
どことなく緊張感の欠けた、だが同意する者が多そうな感想を述べるノアとアカリを残して。
「「メイド魔法【特売奪取アルティメット】」」
二人は殺気立つ人混みをすり抜けるような独特のステップを踏みながらライアスに近づいて行く。
甲虫を弾丸のように飛ばし迎撃するライアスだが、その動きに翻弄されて狙いが定まらず二人の接近を許してしまう。
「「メイド魔法【剛力アルティメット】」」
ついにライアスを捉えた二人は声を揃えて身体強化を発動、そして左右からライアスに連激を撃ち放つ!
上上下下左右左右BA!
上上下下左右左右BA!
その激しい連続攻撃をライアスは魔力を纏った両手両足を高速で動かして何とか払い除け続ける。
「ぬおおぉぉぉぉっ」
その様子を後ろから見ていたノアはポツリと呟いた。
「アカリちゃんの言った通りだ。さっきの渦みたいな魔力を使ってないよ」
その呟きにアカリが応える。
「ああ。何故かまでは分からないが、あいつは一度に使える魔力に制限があるようだな」
そう、それこそが彼女の気付いたライアスの特徴だったのだ。
さっきは重圧を掛けたまま戦えば楽に勝利出来る筈なのにそれをしなかった。
そして今度は重圧を掛けたまま戦い、自分を守る魔力の渦を展開出来ずにいる。
そう、先ほど痛い目を見たサザナミ達の体当たりを警戒して重圧を解かずにいる今こそが最大のチャンス。
故に一気に畳み掛けるのだ。
「さあ我々も攻撃を開始するぞ、アクアルナ」
「了解だよー」
ライアスは怒りの素振りを見せながら、内心非常に焦っていた。
敵の攻撃が思いの外重く、僅かずつではあるがダメージとなって蓄積されているのだ。
(てっ手が足りぬ! こうなれば圧を弱めて魔力を纏い……だが先程の体当たりは我の防御を突破してきた。再びアレを食らう訳にはいかぬ!)
そんなライアスを更なる攻撃が襲う。
ノアとアカリによる障壁弾と爆裂水弾だ。
徐々に固さと速さを増す障壁弾、そして水なのに何故か炎を上げて爆発する爆裂水弾。
白と黒のメイドの攻撃の狭間に次々着弾し、ギリギリだったライアスの防御がいよいよ崩壊を始める。
(こうなれば……もう後先など考えている場合ではない。元より今しかチャンスはないのだ。身を削ってでも今こ奴等を倒さねば、我が望みを叶える機会はもう二度と来ないのだ!!)
そしてライアスは爆発した。
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