第66話 沸き上がる力!
「まったく、酷い目にあったでありますよ」
「蜘蛛の糸消え、いとをかし」
「もうっツイいてない。私ラッキーハンマーなのに」
「えと、そのラッキーを皆に分けちゃったからじゃないかな?」
だが戦線に復帰はしても当然ライアスの重圧の影響は受けている。今この会場の中で影響を受けていないのはノア達四人だけなのだ。
「でもそんな泣き言言ってられないわね。あんな邪悪そうなモノを放置出来ないし、何より向こうが私達を狙ってるんだから……よし!」
気合いを入れ直した真名アイリは再び動き出す。
「来るわよ、皆気を付けて。バフ組は全員にバフをかけ直してから後ろに下がってて。ノア、アカリ、アイコ、アズミ! あなた達がこの戦いの要よ。他の皆は四人をサポートして!」
「「「「「はいっ!」」」」」
「さて、貴様等は神である我を怒らせたのだ。神罰を受ける覚悟は出来ておろうな?」
「何が神よ、力を得ただけのストーカーの癖に」
「まだ言うかっ!」
ライアスの怒りと連動するかのように、瞬間的に魔力の渦が大きく速くなり、のし掛かる荷重は大きくなる。
「ぐっ……アイリ、あいつを無闇に怒らせるな」
「ごっごめん、つい……」
「ふん、まあよい。人間の戯れ言に付き合うのはここまでだ。さあ、じっくりと蹂躙してやろう」
ライアスが圧を弱めた事で何とか動けるようになり、静岡チームの全員が再びライアスを迎え撃つ体制を整え始めた。
だがこの一連の動きに違和感を感じる者が約一名。
(何故わざわざ……これはもしかして……)
我らがイグネア・アニュラスさん――アカリである。
(この推測が正しいとすれば、今はまだその事にこちらが気付いたとライアスに悟られぬ方がいい。それにそもそも確信も確証も無いただの推測。故に今はまだ口にすべき時ではない)
アカリはその違和感を口にするのをやめ、違和感への確信を得るためライアスの動きに注視し始めた。
「メイド魔法【元気苺】全力全開っ! これが私に出来る最大強化ですわっ」
これまでの戦闘でライアスの強さは十分身に染みているので、今回は後先考えない全力の【元気苺】である。
かけ直されたリアの【元気苺】により、チーム全員そしてその契約精霊の力は大きく底上げされる事となった。
「皆さん、くれぐれも自爆とか暴走とかには気を付けていただきたいですわっ」
リアの不吉な言葉を耳にしながらノア達は前へと向き直り、それを見据えた。
ゆっくりとこちらに歩を進める、魔力の渦に包まれたライアスの姿を。
「さあ、掛かってくるがよい。それとも我を待つか? 結果はどちらも変わらぬがな」
「攻撃開始。こちらを侮ってくれているうちに最大火力をぶつけるわよ」
アイリの号令で全員ライアスに攻撃を開始する!
まず最初に攻撃を放ったのはモモカ。バフによって向上した自身の能力を把握すべく、普段は絶対に届かない距離から【狙撃】を行った。
「狙い撃つであります!!」
発射された魔力の弾丸は途中で減衰も消滅もせず真っ直ぐライアスに向かって突き進み、ライアスを取り囲む魔力の渦へと突き刺さる。
だがそこで弾丸は力尽きたように消滅、ライアスまでは届かなかった。
「これはかなりのものでありますな。しかも――」
そう言いながら次々と【狙撃】を繰り返し、その弾丸の軌跡を感じ取ってゆく。その結果分かったのは、一度の【狙撃】で三発の魔力弾が連続発射されているという事。
「ほほう、三点バーストでありますか。これは使い勝手がよいであります」
モモカはライアスの意識の外から弾丸を撃ち込むべく、気配を消しつつ移動を開始する……
「
リアのバフを受けて一旦姿を消していた真神を呼び出したサザナミだったが、現れた真神の姿を見て驚いた。
「でっか……」
姿形はそのままに非常に大きくなっていたのである。そう、サザナミ一人くらい余裕でその背に乗せられるくらいに。
その真神はサザナミの傍らに立ち、そして前肢を屈めて前側だけ軽い『伏せ』の姿勢をとる。
「乗れって事?」
真神がサザナミの問いに目で答えると、サザナミはそっと頷きそして真神に騎乗した。
「さあ、行こう!」
背に少女を乗せて場内を駆ける白銀の獣。
一枚の絵画となりそうなその神秘的な光景に観客達は思わず息を飲む。そして――
「いいなーー」
指を咥えてそれを眺める馬術部メイド、
そんな彼女達の視線を一身に浴びながら、真神とサザナミは一体となってライアスへと襲い掛かった。
「マキ、私やあなたはどちらかというと精霊の力を借りて自分自身が戦うタイプじゃない。暴走って点じゃ私達が一番危ない気がしない?」
「しますー、色々ぐしゃっとヤっちゃいそうなんですー。ミサさんはどうですー?」
「うん、私も跳んだり蹴ったりの加減が分からないかも。だからさ、フォローしあいながら一緒に戦おうか」
「ぜひぜひー」
「ねえ白雪、もしかして今のあなただったら以前諦めたあの技が使えたりする?」
ミサの言葉に白雪は一瞬考える素振りを見せ、そして試してみた。
白雪は想像する。
それは船。
いや違う、それは小舟。
ただ一つの条件に沿って自動で動く【八艘跳び包囲陣】とは違い、その動きを自在に操作できる船。
操作できるのは誰?
白雪自身や契約しているミサ、そして白雪が許可した者なら――誰だって!
白雪の全身をうっすらと魔力の光が包み――やがてその光が消えると、ミサとマキそれぞれの足元に【八艘跳び包囲陣】の一つと同じ小舟の形をした魔力の塊が現れた。
「凄いわ白雪、これが……【
二艘の【因幡自在鰐】はミサと白雪そしてマキとあーもんをそれぞれを乗せて、地面から十センチほど浮き上がる。
「白雪、向こうの舟はあーもんに操作を渡して。こちらのはあなたに任せた!」
「アズミ、メイリンからの頼まれ事はここで全部片付けるわよ」
「当然っ! ならメイリンに教わったアレをやるって事だな!?」
「ええ、前に試した時はあっという間に魔力が切れちゃったけど、今のこの沸き上がる力があれば……」
アイコとアズミは横並びに立ち、視線を合わせ片手を合わせ魔力を合わせタイミングを合わせ、そして声を合わせる。
「「メイド魔法【アルティメイド】!」」
そしてここに究極のメイド少女二人が誕生した。
「アカリちゃん見た!? 今の見た!?」
「うむ、まさか目の前で魔法少女の変身シーンを拝めるとはな」
すぐそばで二人のメイドが光に包まれ、そしてその光の中から純白と漆黒のメイド服に身を包んで現れたのだ。小さな頃からテレビで慣れ親しんだ『魔法少女』という感想を持つのは仕方がないだろう。
「キュアっキュアだぁ!!」
だがいつまでも感激している訳にはいかない。
今は戦いの最中なのだ。
「さあアクアルナ、次は我々の番だ。共に戦おう」
「うんっ、私達も変身だよー!」
「いや変身は出来ないだろ? ……出来ないよな?」
当然変身とか出来る訳がない。だからノアとアカリは考える。自分達二人は何をするのが最善かを。そしてその答えはすぐに出た。
「まずは遠距離からアカリ達の援護射撃、その後状況次第で接近戦に参加だな」
「うん、分かったよー。でもまずはどれくらい力が上がってるか確認しなきゃだね」
「うむ、では始めるぞアクアルナ」
そしてアカリは沸き上がる魔力を押さえつけながら水と炎を操り始める。
ライアスを取り巻く魔力の流れに神経を注ぎながら。
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