第61話 決戦直前!
二試合終わって両チーム共に一勝同士、この場合はポイント差に関係なく三試合目を行うのが全国大会の公式ルールである。
その三試合目とは甲チーム六名と乙チーム六名が合流した十二名のチーム戦、つまり敵味方合わせて二十四名による
休息と治療、そしてこれまでの二試合から得た情報から最終決戦に向けた作戦を練るための時間として、三試合目の前には少し長めのインターバルが設けられているのだ。
「さて、初めて三試合目までもつれ込んだわね」
アイリの言葉に耳を傾ける一同。初めて受けた『格闘』競技での敗北によって、その表情には緊張の色が浮かんでいる。
「とは言え二試合目では相手が全滅判定だったからこの二試合でのポイントはほぼイーブンだったはず。という事は、『総合』のポイント差が大きかった分だけこちらがまだかなり有利って言えるしょうね。だから次の試合はガチガチに守りを固めてれば時間切れで私達の勝利となるんだけど――」
ここでアイリが一度言葉を止めてメンバー全員を見回すと、皆分かっているとばかりにアイリに頷き返す。
それを見たアイリはふっと表情を緩め、
「やっぱりそれじゃあつまらないわよね。やるからには全力で勝ちに行かないと」
「「「「「おおーーーーっ!!」」」」」
「うん、それじゃあ作戦だけど――――」
一方こちらは東京チームの控え室。メイド達は相変わらず一言も口を開かない為、話し合っているのは執事達だけだ。だが相変わらずその事を誰も不審とは思わない。
「二戦目の全滅は痛かった。一戦目で縮めたポイント差は元に戻ってしまったと見てまず間違いないだろうな」
「……だね。じゃあ三戦目で逆転するにはどうしたらいい?」
「分からん。唯ひとつ言える事は、『相手を全滅させる』『こちらの損耗はゼロ』『美しく勝つ』『強さで圧倒する』これらを全て実行して尚、我々の逆転は大会本部の採点次第だという事だ」
一同は小さく溜息を吐いた。
目の前にそそり建つ壁の余りの高さと大きさに、もう強がりすら誰からも出てこない。
「こうなればもう、華々しく散ってやるくらいの覚悟を持って全力で臨むしか無かろう。諦めず最期まで力を尽くす事であるいは奇跡も――」
『奇跡ならばもう起きているであろう?』
「「「「「っ!?」」」」」
気が付けば……彼女らは先程と同じ真っ白な空間にいた。
そして響く重厚な声もまた先程と同じで、つまりこれは――
「ライアス様!?」
作戦会議に『神』が乱入するという二度目の奇跡が起きた、のである。
「ライアス様、せっかくお力添えいただきましたのに不甲斐ない結果となってしまい、申し訳ありません」
神妙な言葉でライアスにそう応えたのは三年生執事の
『ああ。我にとっても非常に残念な結果ではあった。が、その方達が気にする事はない。今回の件、協力を要請したのは我の方なのだからな』
「「「「「嗚呼、ライアス様っ」」」」」
神の期待に応えられなかった事に意気消沈していた彼女達にとって、その慈悲のように聞こえるライアスの言葉はまさに救いだった。
『だが、それでも最期まで諦めないその方らの姿に我は感銘を覚えたぞ。その方らの覚悟の言葉、確かにこのライアスが聞き届けた』
「――ライアス様?」
『ならば我も更なる力を持ってその方らに応えねばならぬ。さあ受け取るがよい、我が大いなる力を。我の――――』
その直後、彼女達の頭上から凄まじい光の奔流が降り注ぐ。その光はやがて力となり圧となり、荒れ狂う流れの中で彼女達の自我はその身の奥底へと押しやられてゆく。
「っきゃあ!?」
「あ……ぁ……」
「消え……わた……し……」
「い……や……」
それは彼女達にとっては一瞬のような永劫のような時間だった。
その光は徐々に弱くなってゆき、やがて元の真っ白な空間がその姿を現した。
唯一先程までと違っているのは、そこにいる二十四人の少女達がまるで感情も魂も抜け落ちたかのように力なく立ち尽くしているという点。
そこに次の変化が起きる。その彼女達の頭上から二十四の光の珠が降りてきたのだ。
その光の珠はそのまま彼女達の頭に入ってゆき、半球だけ外に残った状態で停止した。
その外の半球が徐々に姿を変えてゆき、やがてヘアブローチのような形となる。
と同時に彼女達はビクンと大きく一度全身を震わせ、そして――
「「「「「我の
ライアスの分霊の器となった。
『間もなく開始される静岡と東京の最終試合、
『そうですね。一試合目は東京が、次の二試合目は静岡がそれぞれ圧勝という結果でした。そんな両チームがこの試合に臨むにあたり、その情報から練った綿密な作戦で勝利を掴もうとするのか、それともシンプルに地力の差で相手を圧倒しようとするのか。その辺りが非常に興味深いところです』
インターバル中であっても、試合会場では実況と解説が止まる事は無い。
それは、例えお茶の間がCM中であったとしても観客席の熱を冷ましてはならない! という
『ちなみに奈留橋さんはどちらのタイプがお好みですか?』
『うーん、私はどちらも極端なのはちょっと……やっぱりバランスが大事だと思いますね』
『なるほどー、そうしますと次の……』
やがてインターバルの時間は終わり、静岡チームと東京チームの選手達が雌雄を決すべく戦いの場へと戻ってきた。
その両チームを過多味と奈留橋によって十分に温まっていた観客達が大きな声援で迎え入れると、その声にちょっとビックリした表情で会場を見回してから気合いを入れ直す仕草を見せた。静岡チームの選手達が。
東京チームは歓声を気に留めるでもなく、平然と観客席に目をやる。位置的には彼女達が観客を見上げる形となるのだが、彼女達と目が合った観客席の者達は、まるで自分達が見下ろされているかのような感覚に陥った。
そしてその威圧されたかのような感覚は、実況席の二人もまた感じ取ったようだ。
『さあ両チームが戻って参りました。いよいよ勝負の三試合目、どちらも気合いが入っているようです』
『特に東京チームは何か迫力のようなものを感じますね。何かさっきまでとは別人のようです』
そして奈留橋は彼女達の頭付近に、先程までと違う部分がある事に気付いた。
『ところで、東京チームは今度はメイドだけでなく執事も大きなヘアブローチを着けていますね。これは何か願掛けのようなものなのでしょうか』
先程の試合までは、確かメイドだけが頭にお揃いのトンボのヘアブローチが着いていたと思うが、今は違うようだ。
ブローチを付けているのはメイドだけではなくチームの全員。
そしてその揃いのブローチは、先程までのトンボとは明らかに別のものだ。
でも一体何がモチーフとなっているのだろう。
『そうかもしれませんね。それにしてもあの形はなんでしょう。まるで……えっと羽の生えた金色のカマドウマ?』
『そうですね。単なるデザインなのか実在の生物なのか、それとも彼女達の信じる何かのシンボルなのか……試合開始までもう間もなくです!』
そして過多味はあっさりと流した。このあたりが男女の感性の差なのだろうか……
静岡チームの
だが今回のブローチから感じる気配はその比ではなく、先程からその濃密な気配にブローチから目が離せない。
気配の濃さはまるで実家に祀られている御神体を見ているかのよう。
だがそこから立ち上る気配は御神体とは全くの別物だ。御神体に感じるのは清廉な神気とも呼べる気配である。東京チームのブローチから感じる気配もまた神気のようではあるが、澱んだようなくすんだような、清廉とは呼べないそんな気配なのだ。
更に東京チームのメンバー達の只ならぬ様子。もう嫌な予感しかしない。
「彼女達に一体何が……そしてこれから一体何が起きると……」
いよいよ決勝進出を賭けた最期の戦いが始まる。
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