第59話 東京チームの変化

『さぁいよいよ東京対静岡の『格闘』競技が開始されます。『総合』でポイントを大量リードした静岡が逃げ切るか、それとも東京が逆転するのか! この試合も目が離せませんね、奈留橋なるはしさん』

『ええ。静岡チームはメンバーを変えてくるのか、そして東京チームはどのような作戦を立ててくるのか、非常に楽しみです』


『おおっと、ここで両チームが入場してきました。奈留橋さん注目の静岡チームは――どうやら『総合』の時とは顔ぶれが――キターーーー、全員いつものメンバーで登場っ!』

『このメンバーが『格闘』特化なのか、それとも実は『総合』こそが最強メンバーで、決勝まで温存する作戦なのか。まだまだ静岡の真意が測りかねます』

『そうですね。ですがちょっと待って下さい、どうやら甲乙チーム内に若干の組み換えがあったようです。三年生の真名まなアイリが乙チームに移動、代わりに二年生の甲野こうのサザナミが甲チームに参入だ。これは乙チームでチームリーダーが勝負を締める作戦かぁ!?』


『そして対する東京チームで――おや? 何か先程までとは様子が違うような?』

『そうですね、不思議な静けさといいますか何か身に纏う雰囲気が……え? ちょっと待って下さい、あの精霊って何!?』


入場の時点で東京チームは既に執事の精霊が姿を現していた。

まあそれだけならば前例が無い訳ではないのだが――


『蜂にカブトムシにクモ? 他の選手達の精霊も……あれ? だって前の試合までは別の精霊だった筈、これは一体……どういう事なの?』

『審判が東京チームに近寄ります。どうやら事情を訊きに行ったようだ』


審判は東京チームと話をし、首を捻りながらトランシーバーに何か話し掛けている。恐らく本部に報告し指示を仰ごうとしているのだろう。


『おおっと、審判が戻っていくぞ。これはどうやらこのまま続行となりそ――ちょっと待って下さい、大会本部より説明があるそうです。そちらに音声を切り替えます』


そして『プツッ』という小さな音が聞こえ、過多味かたみとは別の声が会場に響いた。


『こちらは大会本部です。精霊が前回から替わっている件につきまして東京チームに確認いたしました。彼女らの話によると、『勝利を祈願したところ、精霊を強化しようというセバスティ様の声が聞こえ、気がついたら精霊の姿が変化していた』との事です』


その話の内容に会場全体がどよめく。

そしてもちろんテレビ中継を見ている全国の視聴者も。


『前代未聞の事で真偽の判別はつきませんが、セバスティ様の眷属である精霊に対し人の手によって何か出来るとは考えられません。したがいまして、この場では東京チームの言い分を認め、このまま準決勝戦の『格闘』を開始いたします』


「「「「「おおおおーーーーーっ!!」」」」」




場内の爆発的熱狂のなか、斯くして東京と静岡の『格闘』が開始された。


「どうしよう、ムシタイプ?精霊なんて見た事も聞いた事も無いよー」

「ええ、どう戦えばいいのかしらね」

「ふっ、結局は普段通りに力を出し切るのみ」

「アカリ? それ単なる無策なんじゃ?」

「そっ、そんなんじゃないもんっ!」

「うわ一瞬でキャラが……」


結局作戦らしい作戦も立てられないまま時間となり、甲チームは配置についた。


ビーーーーーッ

試合開始のブザーと共に突撃してくる東京チームは――

一年生、名澤なさわサナ(メイド)

一年生、波多はたウタハ(メイド)

二年生、堀北ほりきたキリホ(メイド)

二年生、鳩木庭はとこばコトハ(執事)

三年生、浪那なみなミナ(執事)

三年生、小岩こいわイコ(執事)


執事を上級生で固めた超攻撃型メンバー、そしてその執事が率いる精霊は、ハチ、アリ、カブトムシ。表情の無いメイド達は、その頭につけたトンボの形をしたお揃いの大きなヘアブローチが目につく。

「さあ、殲滅の時間だ。上位神ライアス様の名のもとに、今こそ奴らに正義の鉄槌を下すぞ」

「「おぅっ!!」」


掛け声と共に地を蹴る東京チーム。その背中に半透明の羽が現れ、まるで振動するかのように高速で羽ばたき始めた。

ビィィィィィーーーーン

周囲に高周波の音が響き、彼女らは宙を飛び回り始める。それも、急な方向転換やホバリングも可能な昆虫特有の飛び方でだ。


『何と何と何とぉ! 東京チーム全員一斉に飛び始めたぁ! 執事もメイドも全員だぁ!!』

『執事でも飛べる者は非常に稀有ですが、メイドも……空を飛ぶ事の出来るメイド魔法は存在していないと記憶しておりますが……』

『ほほう、そうすると彼女達はそれ以外の何らかの力によって空を飛んでいると考えた方が良さそうですね』


「どうしよう、動きが複雑すぎて狙いが定まらないよー」

「遠距離は無理だ。奴らが近づいた瞬間にカウンターで――」

飛び回る相手チームを見上げながらノア達がそんな会話を交わす中、東京チームの動きが変化する。


一瞬で近づき攻撃してすぐに離脱する、所謂ヒットアンドアウェイ。

「きゃっ」

「うわっ」

その不規則な動きに翻弄され、徐々にダメージを蓄積させていく静岡チームだったが、それでもここまで大会を勝ち上がってきたのは伊達ではない。


徐々にその不規則な動きにも順応出来るようになってゆき、躱しざまの一撃も入れられるようになってきた。

「これならっ!」


ようやく反撃の時がやってきたと士気が上がる静岡チームだったが――


東京チームの三人の執事、鳩木庭はとこばコトハ、浪那なみなミナ、小岩こいわイコが空中でホバリングし、声を揃えて右手を上げる。

「「「軍隊召喚」」」


すると、静岡チームを取り囲むように大量のハチとカブトムシ、そしてアリが出現し、宙を飛び地を這い始めた。

「うきゃぁーーー」

「たくさん・・・たくさんだよーー」

「ままままま真神っ!」

パニックとなる静岡チーム、そして真神は部下を呼び出し地上の敵の殲滅を開始した。


「大丈夫落ち着いて! 一匹一匹はそんな強くないみたい」

「でも、あんなにうぞうぞしてるし……触りたくないし!」

「イチゴ出したら集られそう」


そんな中、

「ひうぅぅ……落ちろ落ちろ落ちろ……落ちろよーー」

ノアはただひたすら【障壁】の拳を密集するムシ目掛けて飛ばし続ける。


「よおーし、やれやれー」

「ノア頑張って!」


チームメイトもそんなノアに希望を見出だし、敵をノアに近づけないようノアのサポートに回る。

だがノアに注目するのは味方だけではない。

敵もまた、自分達に効果的な攻撃を仕掛けてくるノアへの対処を考える。そして――


飛び回る三人のメイドがノア目掛けて空中から突撃、ノアを守ろうと動き出したアイコ、ミヤ、リアの三人の眼前で進行方向をマキとアイリのいる方向に変えた。

ノア以外の全員の目がそのメイドに集中したその時――


ぷすっ

「・・・え?」

一匹のハチがノアの首筋を刺した。


「!? いっ――」

ぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷす・・・

慌てて振り払おうとしたその次の瞬間、数十匹のハチ達がノアに飛来し、その全身を次々と刺し始める。


「「「「「ノアっ!?」」」」」


やがてノアの身体からハチが飛び去り、残されたノアは――

「いっ痛……くない? あれ?」

「えっと……大丈夫?」


心配そうに見つめるアイコに不思議そうな表情で答える。

「うん、何だか痛くない……いいいいぃぃ!?」

「どっどうしたの!?」

かゆいぃぃぃぃぃぃっ!!!!」


全身を襲う激しい痒みにノアは悶え、地面を転がり回る。

「「「「「ノア!!」」」」」

そんなノアに駆け寄るチームメイト達。だが今は試合中、そんな大きな隙を見せれば当然――――


ぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷす・・・

「「「「「いぃやぁーーーーっ」」」」」


全身ハチに集られ刺されて地面を転がり回る静岡チーム、そこに空から近づいたコトハがノアの頭からそっとちょんまげを獲る。


ビーーーーーッ


こうして甲チームの戦いは終わっ……いや、まだ終わっていないようだ。

アイリが駆け寄り、地面を転げまわるノア達に急いで【万薬樹】で痒みの元となる毒を消す薬を投与。

薬が効いてようやく全身から痒みが消え、そして今度こそ甲チームの戦いは終わったのである。

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