第54話 『総合』の結果発表

『まずは『利き茶』『利き珈琲』『目利き』問題の結果から参りましょう。全十問でしたが不正解だった場合マイナス1ポイントというのが大きかったようですね。中にはマイナスとなったペアもありました。そんな両校の合計ですが、静岡十ポイントに対し愛知十二ポイント、まずは愛知のリードで幕を開けました』


うわあああああぁっ!!

愛知の応援団から大きな歓声が上がる。


『続きましては『陶芸』の結果です。こちらは六個の作品に対して一つづつ勝敗を付け、勝利につき一ポイントが加算されます。こちらは鑑定士の先生から発表していただきましょう。では先生、よろしくお願いします!』


『はい、まずは選手の皆さんお疲れさまでした。魂を込めて作品と向き合う、若い芸術家達の非常に素晴らしい姿を拝見する事が出来ました。そしてその結果ですが、静岡が二ポイントで愛知が三ポイントと付けさせていただきました』


わああぁっ!!

愛知の応援団から再び大きな歓声。


『まずは愛知ですが、こちらは瀬戸焼・常滑焼と日本有数の焼物の産地だけあって、皆さんそちらの技術をよく習得されていますね。素晴らしいと思います』


ここまで話した鑑定士はゆっくりと頷き、そして続きを話し始める。


『次に静岡ですが、皆さん中々ユニークな作品に仕上げられていましたね。非常に微笑ましく拝見いたしました。その中に二点ほど素晴らしい作品があり、そちらに二ポイント入れさせて頂きました。この二点の作品は小さな頃から『本物』に触れてきた者だからこそ作り上げる事が出来た逸品でしょう』


そう言って微笑み、ここで表情を改める。


『さて、皆さんお気づきの通りここまでの合計は五ポイントですから、六作品に対して一ポイント足りてませんね。実はこの中で我々鑑定士が評価を付けられなかった作品が一つありました。その作品は良いとか悪いとかそういう次元で語る事が出来ず、それ故に評価する事が出来なかったのです。我々もまだまだ修行が足りないと痛感いたしました』


解説を終えて口を閉じる鑑定士に対し、会場に渦巻く観客達のモヤモヤを代表して過多味かたみが問いかける。


『あの先生、もしよければその作品がどれかを教えていただけないでしょうか』

『ああそうでした。その作品というのはですね……ええー、水月ノアさんが作られた『平皿?』です』


ここで大いに沸き立った静岡側応援団。

この競技もまたポイント差で負けてはいるが、今そんな事は関係ない!


「ノアがまたやった!」

「アクアルナヤバイ! 『スタジオへ』を斜め上に越えてった!!」

「ってか鑑定士が敗けを認めたって事!?」

「凄いっアクアルナぁ!」

「「「「「アクアルナぁーーー!!」」」」」


その会場の大声援に、


『水月選手、いやアクアルナ選手凄い! 鑑定士の先生にして鑑定不能と言わしめるという快挙、いや怪挙を成し遂げました。皆さんアクアルナ選手に盛大な拍手をお送り下さい!!』

『アクアルナ選手おめでとう!』


過多味かたみ奈留橋なるはしは乗った。ウケるための最善手を見逃さない、まさにプロの鏡である。

――当事者のノアにとっては悪魔の所業だが。

「へぅー、解説のおねーさんまで……」



『さあそれでは次に行きましょう。次は『書道』ですね。引き続き鑑定士の先生に解説いただきましょう』

『はい、それでは今回は私が解説を務めさせて頂きます。まずは得点ですが、愛知が二ポイントで静岡が四ポイントでした』


わああああぁつ!!

ようやくの静岡がポイントを上回った競技に、静岡応援団が歓声を上げた。


『繊細な作品ありダイナミックな作品ありと、皆さん工夫を凝らした作品ばかりでした。中にはお題を拡大解釈して『函館札幌』などと書かれた作品もありましたね』


鑑定士の解説に、観客の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。


『ええーと説明しますと、お題は『富士山麓鸚鵡啼く』でしたね。これは皆さんご存じの通り、数学の『ルート5』の覚え方です。で、この『ルート5』から『国道五号線』をイメージし、その両端の都市である『函館』と『札幌』を表現したのでしょう。面白か――っ発想が素晴らしかったので、ついついポイント入れてしまいました』


ざわつく観客席。

「まさかこれも?」

「アクアルナの?」

「そうなの?」

「アクアルナならやりかねない――のか?」


そんな声に実況席から訂正が入る。

『ええー、この作品についてはアクアルナ選手ではありません。こちらは――火輪ひのわアカリ選手の作品でしたー』


「おおー!」

「宿命のライバル、キターーー!!」

「イグネア・アニュラス!」

「「「「「イグネア・アニュラスぅーー!!」」」」」


『ええーと、つまり火輪選手がイグネア・アニュラス選手で、アクアルナ選手の宿命のライバル、という事なのでしょうか?』

『静岡の応援団の皆さん、後でお話聞かせてもらっていいですか?』

「「「「「はーーーい!」」」」」

静岡の応援団のうち、特にメイド達からいい反応が返ってくる。

彼女達にとってあの二人の関係は大好物なのだから……


「ちょっとアカリちゃん、これどうするの?」

「ふっ……安心するがいい、我にとっても想定外だ」

「うう、ちゃんと安心させてよー」



『さあポイントは愛知が僅かにリードしたまま、いよいよ『総合』最終種目の『目利き』となりました。それでは鑑定師の先生、解説をお願いします』

『はい、この競技は私が解説させていただきます。はい、まずは獲得ポイントの発表からですね。はい、愛知四ポイント、静岡二ポイントです。はい、それでは競技結果について解説します』


『はい、まず一千万円を超える品を二品入れていましたが、なんとこちらは二品とも静岡のチームが指定しました』


おおーーーー!!


『はい、残る高額商品としては数十万円から数百万円の品を五品入れていましたが、ここから選ばれた商品はありませんでした。どうやら今回の問題は少し難しかったようですね。はい、とはいえ勝負は金額差によるものですから、それぞれ比較した結果、愛知が四ポイント獲得となりました。はい、ちなみにアクアルナ選手が指定したのは百均の一輪挿しでしたー』


「ちょっ、あれ選んだのアイちゃんだよねー?」

「あはははは、ごめーーん」

「ていうか何故わざわざ私の情報を……」

「ふふ、すっかり人気者ねノア」

「全然うれしくないよー」


『はい、そして一千万円を超える二品を指定したのは、火輪ひのわアカリ選手と揮雅ふらがリア選手でした』

『おお、またまたイグネア・アニュラス選手ですか』

『静岡は宿命のライバルコンビが大活躍ですね』

『ええ、後で話を聞くのが楽しみです――と、ここで『総合』合計得点の発表です。本日の得点は、愛知二十一ポイント、静岡十八ポイントです。そこに初日のレースでの獲得ポイントを加算します。レースのポイントは一位十ポイント、二位七ポイント、三位五ポイント、四位から十位までが二ポイントですから、三位だった愛知に五ポイント、一位だった静岡に十ポイントを加算すると――』


ここで一拍溜めて――


『愛知二十六ポイント、そして静岡二十八ポイントとなりました。その差僅か二ポイント、勝敗の行方は『格闘』競技の結果次第です。さあ、準決勝進出を掛けたこの戦い、運命の『格闘』はこの後すぐ!!』




『あ、それとは別に静岡の応援団の皆さんには後でお話を訊きに行きますからね』

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