第52話 準々決勝開始
第三回戦は全国大会準々決勝戦である。
全国から集まってきた各学校から勝ち残った八校が、最後の激闘を繰り広げる!
その準々決勝の対戦相手は静岡のお隣、愛知チーム。
初日のレースで三位に入った
その愛知チームと争う今日の『総合競技』は――
利き茶
利き珈琲
目利き
陶芸
書道
地味、地味である。
ここまでテレビ放映に適さない競技ばかりで準々決勝は大丈夫か? 誰もがそう思っていた。
だがこれこそが大会本部の狙いであった。
関係各所と事前に契約を結び、ふたつの番組フォーマットの利用権を入手していたのである。
まず「利き茶」「利き珈琲」「目利き」の3競技については、ひとつめのフォーマットにて実施する。
・二人一組でチームとなり、出された問題についてABどちらが正解かを選択する。
・正解すれば得点、不正解の場合は減点となる。
即ち、格付け。
そしてふたつめのフォーマットにて「陶芸」「書道」、そしてこちらでも「目利き」の競技を実施する。
・二人一組でチームとなり、「陶芸」「書道」の作品を制作し、提出する。
・鑑定士が鑑定によりその作品に値段を付け、勝利した作品が得点となる。
・大会本部が用意した美術品・骨董品から六点選択し、提出する。
・鑑定士が鑑定を行い一点ずつ値段を発表し、一番目から六番目までそれぞれ高額だった方にポイントが入る。
即ち、鑑定団。
試合場は両番組のセットを思わせる作りに
『さあ始まりました全国大会準々決勝、愛知チーム対静岡チーム! 実況と解説は、お馴染みとなっていてくれたら嬉しい
『よろしくお願いします』
『今日の試合は某番組形式でお送りすると言う事で、私少々緊張しております。何しろどちらの番組も大好きなものですから。奈留橋さんは如何ですか?』
『私もあの番組は大好きです。特に何百万円とかで購入した骨董品が千円とか言われた時とか、その逆にタダ同然で手に入れたものが数百万円だった時とか……何と言うかドキドキします』
『あー分かります! 他人事の筈なのに何故か感情移入しちゃうんですよねー』
『そしてもうひとつの方の番組ですが、流石にこの大会においては減点が続いても画面から消えてしまう事はありませんのでご安心下さい』
『とはいえ、参加している皆さんには『あの方』のように連勝街道を突き進んでもらいたいものです』
『そうですね、『学徒』だけに』
『…………』
『奈留橋さん?』
『…………』
「さあてと、じゃあまずはチーム分けを考えなきゃね」
「あの番組だとチーム間で遠慮とかして失敗するパターンとかよく見るぞ。同学年同士で組むのが良いんじゃないのか?」
「でしたら、各学年の執事とメイドで組むのが良いんじゃないかしら? そうすれば得意分野を補い合えそうですわ」
「うん、じゃあそれで行きましょう。そうするとこんな感じかしら?」
「妥当な線じゃないか?」
「同意であります」
チームは決まった。
そして対戦相手である愛知は以下のチームで競技に臨むことになった。
一年生
一年生
二年生
一年生
二年生
一年生
『さあどちらもチーム分けが完了し、『格付け』シートへの移動を始めました。これは……チームの分け方が対照的ですね』
『そうですね。静岡は同学年の執事とメイドによるチーム、愛知は執事同士・メイド同士による先輩後輩チームです』
『どのような意図によるチーム分けと思われますか、奈留橋さん?』
『そうですね、静岡は同学年で執事とメイドでフォローし合う組み合わせ、愛知は上級生が下級生をフォローする組み合わせ、と言えるでしょうか』
『成程ありがとうございます。さあこのチーム分けが戦いにどのような影響をお呼びすのでしょうか。それでは早速始めていきましょう。第一問は『利き茶』から緑茶です。全員アイマスクを着けて下さい……それでは問題、高千穂のお茶はABどっち? まずはAから』
全員の元へと一口分のお茶が入った湯呑が運ばれ、手渡された。
全員がそれを飲み干す。ある者は少しずつ、またある者は一息に。
『はい、それでは引き続きBのお茶です』
飲み終わったAの湯呑をテーブルに置くと、それを回収すると同時にBの湯呑が手渡され、先程と同様にそれを飲み干す。
そしてその湯呑も回収された。
『さあ、それではアイマスクを外して回答をお願いします。テーブルに設置されたAかBのボタンを押して下さい』
各回答席で一斉に声を潜めた相談が始まった。
「うーん、よく似た感じだけどどっちだろう。ノアは分かった?」
自信無さげなアイコの問いに、ノアは大きく頷いた。
「任せてよー。これでも私、夏休みにお茶屋さんでバイトしてたから」
その様子を見ていた過多味の目がキラリと光る。
『さあ、回答が出そろいました。それでは一斉に表示しましょう。皆さんの回答はこちら!』
各テーブルの前に赤いAと青いBが表示された。回答は分かれたが、ややAの方が多いようだ。
『そして正解は……Bです!』
「やったー!」
「ノアありがとう!」
『さあそれではここで感想を聞いてみましょう。ええと、先程自信満々でBを回答していた水月ノア選手』
「うえぇえ!?」
ノアの元へとアシスタントが移動し、口の前へとマイクを掲げた。
突然の事に緊張で強張るノアだったが、隣のアイコがテーブルの下でノアの手をギュッと握ってくれたおかげで何とか持ち直す。
「ええと、高千穂のお茶は釜炒り茶なので普通の緑茶と比べて炒った香りが高いんですけど、ふたつめに出てきたお茶は焙じ茶で焙煎してたんですね。私学校の近くのお茶屋さんでバイトしてたんですけど、そこのフタバ店長にその違いを教えてもらってたので。ホントは色さえ見れれば一発なんですけど」
「ノア、よくやったよ!」
遠く静岡の地、テレビの前でフタバは照れながらもしっかりと受け答えたノアの姿に歓声を上げた。
早速新しいのぼりを発注せねば。
『全国大会水月ノア、バイト先の店』と。
『成程、お茶どころだけあってバイト先もお茶関連だったりするんですね、奈留橋さん』
『ええ、それにしてもよく味と香りだけで判別しましたね。水月選手素晴らしいです』
そして応援団もここぞとばかりに声を張り上げる。
「ノアーー!!」
「アクアルナぁ!!」
「「「「「アクアルナぁ!!」」」」」
その声は実況席にも当然届き――
『……アクアルナ?』
そして全国放送で流れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます