第50話 モノ造り対決

翌日。

宿泊棟を出た選手一同が目にしたのは、

「二回戦進出おめでとー!」

「ガンバレー!」

「今日も頑張ってねー!」

総勢五百人以上となる大応援団。

聖バスティアーナ、ロゼメアリーそれぞれの学園の生徒達である。


立ち並ぶ執事とメイドの集団に驚きながらも、友人の顔を見つけては手を振り声を返し、会場に向けて歩を進めて行く。


「ノアーー!」

聞き慣れた声に顔を向けると、弾ける笑顔のライムがブンブンと音が鳴りそうな勢いで手を振っていた。

左右の生徒に手がぶつからないか心配になる。


「ライムー!」

「頑張れノア。一生懸命応援するからね!」

「うん、ありがとー」

「私もいるんだからね」

「マイカ!」

ライムの横からマイカも顔を出す。


「カナカナも頑張って。あとついでにアカリとエイヴァも」

「ふっ、我は『ついで』か」

「私は知っているのです。アレは有名な『ツンデレ』ってのです。参考資料に赤文字で書いてありましたのです」

「誰がツンデレかっ!」


「みんなありがとー。私がんばるね」

「応援席で応援してるから」

「私の分まで頑張っておくれよー」

「何その謎キャラ!?」


ライム達と別れ小走りで選手団に追い付くと、

「頑張るのは『総合』だけよ?」

「くれぐれも『格闘』では頑張らないようお願いしますわ」

先輩達からノアとアカリへの念押しが待っていた。今日の第二回戦ではまだ二人の能力は解禁されていないのだ。

「あははー」

「我は真打ちとしての責務を果たすのみ」

「頼むわよ……ホントに」




『さあ、本日の二回戦第二試合は、静岡県代表聖バスティアーナ学園・ロゼメアリー学園対青森県代表テンスハーモニー執事学校・ポンムアメリ萌徒学校の戦いです。本日の試合も実況はわたくし過多味かたみキミタカ、解説は奈留橋なるはしハルナさんでお送りいたします。奈留橋さん、よろしくお願いします』

『よろしくお願いします』


今日の試合もまずは『総合』から。

『総合』と『格闘』で試合場が分かれる為、人数的に移動する事が難しい応援団はそれぞれの試合場に半分ずつ詰め掛けている。

そんな応援団の声援を浴びながら、キャプテンのアイリがチームに気合いを入れた。


「さあ、皆気合いを入れて頑張りましょう」

「「「「「はいっ!」」」」」

早起きしてここまで応援に来てくれた友人達にカッコ悪いところは見せられない!

声援を前に昨日とは違う気合いが入った選手達は、各競技に素晴らしい技術を見せる。


『第二回戦最初の競技は『ガーデニング』です。五メートル四方の台の上にミニチュアの植物や石、レンガ、噴水などのストラクチャーを配置して庭を造り上げて下さい。様式は問いません』

『私、この種目を見るのがすごく楽しみだったんです。実は私、各地の有名な庭を見るのが趣味なんですよ』


『さあ、奈留橋さんの可愛らしい趣味が判明するなか、両チーム事前に考えていた庭を造り始めたぞ。果たして奈留橋さんのお眼鏡に適うのはどちらのチームとなるか』

『あの、審査するのは大会の審査員ですから。私じゃないですからね?』


そして――


『さあ、制限時間が終了し、大会本部による両チームの審査が始まりました。奈留橋さんの目から見て両チームの庭はいかがですか?』

『ええ、どちらの庭も素晴らしいですね。まずは青森ですが、素晴らしく緑豊かな庭園ですね。起伏に富んだこの地形はまさに白神山地。その中に配置された青く輝く池、ああそうかこれは青池ですね。白神山地の手前に広がるのはリンゴ園でしょうか。赤い林檎の実を湛えた小さな木が可愛らしいですね。そして一番手前、言わば庭園の玄関ともいえるこの場所に配置されている緑と砂利で表現した特徴的なこの形は津軽半島と下北半島。そう、ここは小さな青森。青森そのものを表現した庭園なんです』

『なんと青森チームは地元青森をまるごと庭園で表現してきたあ!!』


奈留橋の愛ある解説に場内は大盛り上がり。解説に出てきた場所をスマホで検索して、庭園を指さしながら見比べる観客も多くいる。

青森チームの計算通りといったところだろう。


『対する静岡は……これは薔薇の庭園ですか。静岡と薔薇、何やら意外な組み合わせに感じますが』

『ところがそうじゃないんですよ過多味かたみさん』

『と言いますと?』

『実は静岡県は日本有数の薔薇の産地で、長年全国二位の生産量を誇っているんです』

『ほほう、恥ずかしながらわたくしお茶とみかんのイメージでした』

『庭園好きの間では有名なんですけどね。他にも県内あちこちに幾つもの薔薇園があったり、富士市では市民の花に薔薇が制定されていたりと、実は薔薇というのはかなり静岡と関わりが深い花なんです』

『……勉強になります』


先程までとは打って変わって静まり返る観客席。

だがその静けさと反比例するようにテンションは高い。

目の前に『へぇボタン』があったら連打しそうな方向に……


『おおっと、大会本部によるポイント集計が完了したようです。ガーデニング対決、勝者は……僅差で静岡だあ!』

「「「「「おおおーーー」」」」」

『ええー、大会本部からのコメントを読み上げます。どちらも県の特徴を生かした素晴らしい出来栄えでした。ですが庭園としてみた場合、青森の作品は起伏が大き過ぎて落ち着けない点がマイナス要因でした。一方の静岡の作品は、一見するとありきたりな薔薇の庭園ですが、日常を穏やかに過ごすには最適で、しかも手入れがし易いように配置が工夫されている点がプラス要因でした、との事です。奈留橋さん、この大会本部のコメント、いかがでしょうか?』


『そうですね、実に分かり易く納得のいく着眼点かと思います。青森の作品は、言わば観光地そのもの。足を運んで鑑賞する庭園としては非常に素晴らしい出来栄えです。一方静岡の作品は毎日を過ごす為の庭。シンプルで落ち着きがありメンテナンス性に優れている、そんな『我が家の庭』といったコンセプトが感じられます』

『成程ありがとうございます。という訳でまずは静岡チームが一歩リード、これからの展開が非常に楽しみです』



続く『DIY』では、見事な囲炉裏の間を作り上げた青森が勝利した。

次なる競技『果物の飾り切り』は静岡が勝利し、その次の『雪像』では青森が勝利する。どちらも地域性による優位が働いたのだろうか。

そして最終5競技目は1回戦でもあった『クイズ』。今回の出題傾向は、それまでの競技と同様モノづくりに関するものがメインとなっていた。

結果は両チーム五ポイントずつと互角で、それにより『今日獲得したポイント』もほぼ互角となった。


――そう、今日獲得したポイントは、である。


『総合』ポイントには、今日獲得したポイントに初日のバイクレースの順位ポイントが加算されるのだ。

その為バイクレースの結果が芳しくなかった青森チームは『総合』競技で巻き返しを図るつもりで勝負に臨んだのだが、それが叶わなかった結果、背水の陣で『格闘』を迎える事となった。


果たしてその事が彼女達にとって吉と出るか凶と出るか。

いよいよ三回戦進出を掛けた『格闘』競技が幕を上げる。

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