第49話 一回戦突破!
「さてと、次は私達の番だよっ」
「予定どおりアズミとアカリは温存、警戒しながら後ろ控えてて。マレットは全員に【福引@買物】、私とサザナミで敵を撹乱しつつ倒し、モモカは隙を見つけて敵の主を狙う。次に相手の特徴だけど――」
作戦の再確認ののち相手メンバーの知る限りの情報を共有し、戦いの開始を待つ。
そして――
ビーーーーーッ
『さあ、乙チームの試合開始です。静岡が一気に二勝として決着を付けるか、それとも福岡が巻き返しなるか。勝負の行方が気になります。奈留橋さんはこの試合、どう見ますか?』
『そうですね、静岡は昨年も出場していました
流石の解説者。
『福引というと、あの商店街などで行われる?』
『はい。福引前に掛けると普通に引くよりも少し当たりが出やすくなるという、ゲーム風に言うと『幸運値が上昇する』魔法で、彼女の称号『ラッキーハンマー』の由来となった彼女の得意魔法です』
『なるほど、勝負は時の運なんて言いますからね。対する福岡はどうですか?』
『おそらく
『成程、試合場をチェス盤のように見渡す訳ですね。確かにそれは司令塔として最適と言える能力でしょう』
静岡側のチーム全員がその見下ろす視界を共有しているなどとは誰も思わない。
他者にも共有できる視界共有などこれまで確認されていないし、直接攻撃する能力ではない視界共有は補助能力に分類されている。
試合中にサブメンバーから補助能力を使用する事はルールで認められており、福岡チームも試合場脇のベンチのサブメンバーがメイド魔法【応援@保育】や植物タイプの回復をいつでも使用できるようスタンバっている。
そんな解説が行われている中、試合が動いた。
「マイナさんとシヅカさんはコウメさんば守って。ハルさんは正面、私とフツカさんは左右から突貫!」
福岡チームが攻撃を仕掛ける。
「サザナミ、迎え撃つよ。白雪、【八艘跳び包囲陣】であの三人を囲んで」
「真神、走るわよ。周りの足場も利用して」
突然周囲を囲むように現れた半透明の板に驚き、福岡チームの足が止まりかける。
「囲まれる前に脱出!」
左に飛び
だがその脱出は失敗した。
彼女達が飛び出そうとしたその先に包囲陣の足場が回り込んできたからだ。
そして動きを止めた三人にミサたちが襲い掛かる。
「しっ!」
強靭なウサギの脚力をもってハルに襲い掛かるミサ。だがハルの契約精霊はクマタイプ、その溢れるパワーでその蹴りを受け止める。
「しゃあしい!」
受け止めたその腕をそのまま薙ぎ払い、ハルは軽々とミサを吹き飛ばした。
ミサは空中で姿勢を整え、中の者を逃さないよう回り込んだ包囲陣の足場に着地する。
「ふぅ……流石にそう簡単にはいかないか」
目の前のアオノに真神は跳び掛かった。
「ちょ」
慌てて避けるアオノ、そして――
「トビトビ!」
精霊を呼ぶ。
トビトビはアオノが契約するトリタイプ精霊で、その姿形は鳶である。
上空で姿を消していたトビトビはアオノの呼び声に反応し、真神目掛けて急降下で襲い掛かった。
上空からの攻撃をギリギリ躱した真神に今度はアオノからの追撃、身を伏せて避けるとその背中にトビトビの爪を受けてしまった。
(ウォォォォォーーン!)
この場に留まったまま二人の連携を避けきる事は不可能、そう判断した真神は素早く起き上がると走り出した。
そして真神の遠吠えを聞いた部下達が精霊界から駆け付ける。
真神の回りに現れた五つの光の玉が白狼に変化し、真神の周囲を縦横無尽に駆け巡る。
そして集団でアオノとトビトビに跳び掛かり、押さえつけた。
「ばりこすかぁ」
「別にズルじゃないわよ」
アオノのぼやきに答えたのは、真神を引き連れたサザナミであった。
「え?」
この場を部下達に任せた真神はサザナミの元に向かい、サザナミと連携してフツカを倒していた。
「これで陣の中はあと一人、そのあとは主と護衛二人ね」
ぐるりと当たりを見回したサザナミがそう呟いた瞬間――
ビーーーーーッ
試合終了のブザーが鳴り響いた。
『いやあ驚きました。中央での激しい戦いに目を奪われている隙に、まさかまさかの
『モモカ選手の【狙撃】は、戦国時代にご先祖の萌徒が残した秘伝の書に書かれていた門外不出のメイド魔法と聞いています。といっても威力も射程もそれ程ではなく、相手を驚かせたり不意打ちで体勢を崩せる程度らしいですよ』
『それをあそこまで上手に使いこなせるというのは、鴨百選手はそれ以外の技術も優れているという事なのでしょう』
『だと思います。あとはチームとしての連携ですね。司令塔であるアノオ選手の目を潰したと同時に動き出した事で、誰にも気付かれずに福岡チームの喉元に迫る事が出来たんです』
『おおー、成程』
この格闘への解説が行われている中、両チームはお互いの健闘を称え合い、ベンチで待つチームメイトの元へと帰っていった。
そして間もなく大会本部から両チームの獲得ポイントが発表される。
『…………おおっと、ここで両チームのポイント集計が完了したようです。二回戦進出を果たしたのは……おめでとう、静岡だあ!』
上級生達は静かに拳を握り勝利を噛み締め、ノア達は無邪気に喜びを爆発させる。
「やったー!」
「センパイ達が強かったのでーす」
「ふ、我を温存し勝利か」
「まあ私らの出番はまだ先って事だな」
それから暫く歓喜の時間を満喫し、係員の誘導に従い試合場を後にした。
――観客席からの拍手と歓声に応えながら。
「次の対戦相手は青森かぁ」
ノア達の次に行われた第四試合は青森対愛媛の戦いであった。
総合でリードを奪ったのは愛媛だったが、三試合目までもつれ込んだ格闘のポイントで青森が逆転勝利を収めた。
出来れば観客席で見たかったところだが超満席のためそれは叶わず、代わりに近くの施設で部屋を借りて大会のネット配信を見ていたのだ。
ちなみにメインの選手十二名は、姿を消して試合場に飛ばしたカナタのルークの視界も見ている。
合宿で急成長を遂げたカナタは、見事目標であった自分プラス十二名への視覚共有を果たしていたのである。
「最後まで諦めないチーム、といった感じかしら」
「だな。それと飛び抜けた選手がいない代わりに団結力が強い印象だった」
「メイド魔法は全体的にパワフルだったように見えたな」
「驚いたのは精霊だ」
「まさか全員がクマタイプとは……」
「パワーこそが力、な感じ?」
「でも脳筋っていうよりは、ちゃんと理屈があっての選択って感じかも」
「そうすると、明日の方針としては――」
そのまま作戦会議に突入、各自が今の試合で感じた事や自分達の試合で気付いた事などを述べ、作戦に落とし込んでいった。
それが終われば自由行動。
売店で大会公式グッズを見て回ったり、喫茶店で他のチームの試合を眺めたりと、それぞれリラックスした時間を過ごすのだった。
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