第26話 決戦!ノアvsアカリ
ついにこの時が訪れた。
思えば入学式のあの日あの出会い、あの時からいつか訪れるこの戦いを予感していた。
理由など無い。理屈など無い。
ただその運命を感じ取ったのだ。
決して名前に『火』が付く自分に対しノアには『水』が付いていたから、なんて安直な理由では無いのだ!!
……無いのだ!!
どうしよう、決勝まで来ちゃったよー。
たくさんの人に見られてるのにはまだちょっと緊張するけど、始まればきっと忘れちゃう。
それよりも今からアカリちゃんと戦って、それで勝った方がバスチアンになるとか、そっちのが大変だよ!
バスチアンになったらどんな称号を付けようかな。カッコイイのとかかわいいのとかがいいけど……って私何考えてんだろ。そもそもすっごく強いアカリちゃんに勝てる訳なんて……
「アクアルナ! 我が宿命のライバルよ、我はこの時を待っていた!」
「アカリちゃん……」
「ふっ、宿命のライバル同士の最初の戦いが観客の前での決勝戦とはな。だがこれこそ我らの戦いに相応しい!!」
「声が大きいよぉ……」
喜びのあまりテンションが大気圏を突破したアカリ。香ばしいポーズと共にノアに語り掛けるその声は、会場の隅々まで響き渡った。
(((((ああ、あの子患者ちゃんだったんだ)))))
そしてアカリは気付かれてしまった。
(((((って事はあっちの子も?)))))
そしてノアは風評被害を受けてしまった。
「…………始めっ!!」
そしていつもと変わらぬ開始の合図にノアは優しさを感じた……
「
アカリは正面からノアに突っ込んだ。
この戦いに必要なのは駆け引きではない。正面からのぶつかり合いだ!!
「っ!!」
ノアは受けて立つ構え。
というか一瞬で距離を詰めたアカリに、こちらから攻撃を仕掛ける程の時間を与えてもらえなかった。
上上下下とリズムよく攻撃するアカリ。当然その攻撃は青い炎を纏い、炎はヒットの瞬間に爆発を起こす。
その攻撃をある時は【障壁】を纏った己の手足で、またある時は空中に出現させた【障壁】で処理するノアの反射神経も素晴らしい。
開始前のアレはともかく、始まってしまえば決勝戦に相応しい名勝負となった。
(っとぉ!? もう防御だけで精一杯だよー。このままじゃ……どうにかしてこっちのペースに――)
早いうちに巻き返しを図りたいノアだが、アカリの攻撃は止まらない。
むしろノアの防御に攻撃のリズムが噛み合うのか、その連打はどんどん切れを増してゆくのだ。
「楽しいぞっ、アクアルナよ!!」
アカリの叫びに観客席も応える。
「いいぞぉ!!」
「頑張れアクアルナぁ!!」
「うおおおっ、アクアルナぁーーっ!!」
……どうやら観客達の間で『アクアルナ』が定着したようだ。
そして悶える友人達。
「ノア……ツヨクイキロ」
「が、がんばれあくあるな……ぷっくく」
「ちょっと二人とも、笑ったら可哀想だよ……ぷふっ」
幸いな事に観客の声はノアの耳に入っていなかった。
アカリの猛攻を防ぐのに全ての神経を注いでいる為である。
そのノアは、観客の声援とは無関係に少しずつアカリの攻撃を先回りして対応できるようになってきていた。
(よし、次の次の攻撃をいなしたら反撃だよっ)
一方こちらはアカリサイド。
(勝ち筋見えたっ!)
次に選んだ攻撃は左ストレート、からの防がれた反動を利用した上半身を巻きながらの右フック。
だがこれも防がれる筈。そして本命はその次の左ショートアッパーだ。
捻った身体から反動を利用して最高の破壊力を生み出す、この右フックはその為の布石っ!!
(よし、いける!)
予定通り左ストレートを防御させた。
その反動で囮の右フックを放てっ!
右フックを防ぎに来ていた筈のノアの左腕は、だがアカリの想定と違い拳ではなくその手首を下から叩いた。
この突然の行動によりアカリの右手に反動は発生せず、右腕の回転に引き摺られてノアの前で上半身を泳がせてしまう。
(まずっ)
「しっ!!」
その瞬間をノアは見逃さない。
肘から直角に延びたその右拳が素早く【障壁】を纏うと、アカリのボディを激しく突き上げ――
「がふっ――」
その一発でアカリの両足は地面から引き剥がされた。
「にょらああああああっ!」
微妙な雄叫びを上げながらノアは浮いたアカリ目掛け怒涛の連撃を繰り出した。
待ちに待ったこの瞬間、この機を逃してはならない!
ノアの攻撃を三発四発と身に受けながらも、アカリは体勢を整えチャンスを窺う。
(一瞬でいい、隙があれば!)
やがてノアの攻撃の繋ぎに一瞬のタイムラグが発生。
(今っ!!)
それを見逃さず、アカリは突き出すノアの拳の前に水の盾を出現させた。
ボシュッ
ベクトルをゼロにするその盾に拳を絡め捕られ、ノアの動きが停止する。
その間に地に足を付けたアカリは強烈な蹴りを繰り出しノアを吹き飛ばした。
開始線まで飛ばされたノアは右手で胸を押さえながらゆっくりと立ち上がる。それを見つめるアカリもまた、ノアの連撃により自らの開始線まで押し戻されていた。
まるで運命が二人にここからの仕切り直しを命じたかのように。
「アクアルナ、次を最後としよう」
ノアに右拳を突き出しながらそう宣言するアカリ。
「分かったよ、アカリちゃん」
そしてノアもそれを受けて立つ。
二人ともここまでの攻防による消耗とダメージが大きく、次での決着を覚悟したのだ。
そして二人はゆっくりと歩き出す。
「ルアアアアアアっ」
「とぃやああああっ」
試合場の中央で激しく拳を突き出し蹴りを放つノアとアカリ。
双方譲らぬ互角の攻防は果てる事無く続く。
いつしか観客は声を上げる事も忘れ二人に魅入り、会場はぶつかり合う二人の打撃音だけが響き続けた。
(もっと速く、もっと強く!)
我に相手を上回るスピードとパワーを!
アカリの回転が徐々に増し、ノアを上回り始める。
だがそれと同時にノアにもある変化が訪れた。
(もっと硬く、もっと遠くまで!)
アカリちゃんまで届けーーーっ!
ノアの拳に纏っていた【障壁】が、打撃後の延びきった拳から前方に延び始めたのだ。
その現象は拳を重ねる毎に顕著となり、やがて拳から離れアカリを襲うようになった。
「なっ!?」
拳に纏った【障壁】がその拳を発射台として飛び出し、その勢いそのままにアカリに襲いかかる。
その勢いにアカリの身体は後方に押されてゆき、そうなれば当然アカリの拳はノアに届かない。
止むなく出した水の盾でもその勢いは殺し切れず、立て続けの着弾に削られ抉られ穿たれる。
そしてノアの回転は更に上がり、防御するアカリは増える着弾に身を固めるもその身体は徐々に後方へと押し下げられ、そしてついに――
「場外、それまでっ! 勝者1A水月ノアっ!!」
決着の時を迎えたのである。
しんと静まり返った場内。観客席にいる誰も彼も、まるで呼吸すら忘れてしまったかのように身じろぎ一つしない。
だが夢から覚めたかのような表情の観客から
観客席の全員が総立ちとなり、真っ赤に興奮した顔で怒号のような歓声を上げ、激しく両手を打ち鳴らし続ける。
そんな興奮の中、場外へと押し出されたアカリはノアへと歩み寄り、
「流石は我が宿命のライバル。素晴らしい戦い、そして素晴らしい技だった」
「そっそんな、アカリちゃんの方こそ――」
そんな謙遜など許さないとばかりにアカリはノアの手を掴み、そして頭上高く差し上げた。
「「「「「ウワアアアァァァッ!!!!」」」」」
ますます激しくなる拍手と叫びに思わずビクッとなるノア。
アカリが手を離すと四方の観客席にそれぞれ頭を下げた。
ようやく落ち着きを取り戻してきた観客席から、そんなアカリに祝福の声が飛ぶ。
「おめでとうアクアルナ!」
「凄かったぞー、アクアルナ!」
「アクアルナ最高!!」
「「「「アクアルナぁ!!」」」」
思わぬ反応にフリーズするノア。
アカリはそのノアの肩にポンと手を置き、
「アクアルナ爆誕、この戦いは伝説の幕開けとして長く語り継がれるだろう」
とドヤ顔。
「…………語り継がないでよぉ」
ノアの呟きは観客の声援に掻き消され、誰の耳にも届く事は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます