第24話 二年生準決勝戦
劇的な幕切れに沸く場内に、次の試合がコールされる。
「二年生第二回戦第1試合、2D
マキとサザナミの二人はそれぞれの開始位置に移動、呼吸を整えその時を待つ。
そして審判が右手を高々と上げ、
「…………始めっ!」
先に動いたのはサザナミ。
契約精霊の真神と共に試合場内を走り出した。
オオカミである真神にとって戦いとは狩り。そして己よりも大きく力のあるクマを狩るには、隠れて待ち伏せるか素早い動きで相手を翻弄する事が定石、だがこの試合会場には当然隠れる場所など無い。
故に
マキもそれが分かっているから開始位置から動こうとはしない。
開始位置でどっしりと構え、サザナミが仕掛けてくるその時を待つ。
(まあ流石に読まれてるか)
お互い学年では目立つ存在であり、これまで試合等で見せた手の内は全て把握しているしされている。
ならばどうする?
決まっている。今こそ新たに会得した技を使う時だ!
「真神」
己の名を呼ばれた瞬間、真神は察した。サザナミがやりたい事、そして己がすべき事を。
(ウォォォォォーーン!)
真神は走りながら遠吠えを発した。
だがその遠吠えが空気を震わせる事は無い。精霊が声を上げる事など通常はあり得ないのだから。それにそもそも人間に聞かせる必要は無いのだから。
そしてサザナミに並走するのをやめ、自らの判断で別軌道を取り始めた。
(あれ? 二手に分かれた? これは初めて見るパターンかな)
初めて見る状況に、マキは全方向を警戒しながら素早く現状を把握・推測しようとしていた。そしてその傍らで浮かぶあーもんは、マキの判断を待つ。
「よし、あーもんは真神ちゃんの対処をお願い」
どうやら別行動で仕掛けてくるようだ。ならば対処は簡単、
マキの出した答えにあーもんも納得、自分の役割を果たすため真神を注視し始めた。
するとその真神に――!?
(来たか)
縦横無尽に走り回る真神の周りに白い光が現れ、真神の動きに追従していく。
その光はひとつふたつと数を増してゆき、やがてそれは五体の白狼の姿となった。
(ゆけっ!)
五体の白狼は真神の指示のもとマキとあーもんの周囲を駆け、そして翻弄する。
「ええーーっ!? そんなのズルいよーー!!」
残念ながら一対一の戦いにはならなかったようだ。
実際に精霊が増えた訳ではない。
かといって残像による分身などでもない。
真神の力によって生み出した形代に、精霊界にいる部下達がその存在の一部を宿したのだ。
それはつまり意思を持った精霊力。
完全自立型の遠隔攻撃なのである。
白狼達は素早い連携によってあーもんを取り囲み、死角からのヒットアンドアウェイを繰り返す。
その一撃一撃はそれほど大きなダメージとはならないが、何度も繰り返し一方的に受ける攻撃により徐々にダメージは蓄積し、あーもんの精神は疲弊していった。
その影響は当然契約者であるマキにも現れる。
マキもまた現在進行形でサザナミと真神による連携攻撃に悩まされているのだが、そこにきてあーもんから流れてくる力が減少した事で力と頑強さが弱まってきているのだ。
そしてとうとうあーもんからマキへの力の流入が途絶えた。
あーもんが自分自身の身を護るだけで精一杯となってしまったのだ。
(あ、これ終わったかも)
マキに迫りくるサザナミの渾身の一撃!
「そこまでっ! 勝者、2B甲野サザナミ!」
審判の宣言が響き渡ると同時に、サザナミの攻撃はマキの目前で止まった。
五体の白狼達はふっとその姿を消し、取り囲まれていたあーもんはキョロキョロと辺りを見回した。
そしてマキの姿を見つけるとヨタヨタとマキの元に辿り着き、そのまま二人はゴロンと試合場の床に大の字に転がる。
「はぁーーー……疲れたぁ……」
見上げた先では、サザナミが観客の声援に応えて手を振っていた。
そして第二試合、祈島リカと北見タキ。
実はリカは風紀委員長である。
そしてタキもまた風紀委員、つまり風紀委員同士の戦いが始まろうとしていた。
のだが……
開始線に立つ二人は、どちらも顔色が悪い。
二人とも試合が始まる前から追い詰められていたのだ。
リカが追い詰められた原因は一年生の火輪アカリ。
彼女のせいでイルカタイプに対する観客の期待が爆上がりしてしまったのだ。
(みんな気付いて! あれがイルカタイプとかないから! 多少の能力アップはあるけど、本来は水中特化だから!)
そしてタキ。
ヘビタイプの特性といえば【無音移動】に【温度感知】、それからタキが第一試合で使った見えない【緊縛】。
先程のサザナミやマキと比べとにかく地味、観客からは何が行われているのか理解され得ないのだ。
(あ、
「…………始めっ!!」
とうとう試合が始まってしまった。
覚悟を決めた二人はそれぞれの方針に沿って動き出す。
接近戦以外に勝ち筋の無いリカはタキに向かって走り出そうと一歩踏み出し、そしてタキは、
「マイク、さっき言った通りお願い」
「「「「「おおーーーーーーっ!!」」」」」
どよめく観客席。
そしてその一角では、
「Wow! It’s like a Ninja!!」
観客席に戻ったエイヴァが大興奮!
巨大化した白ヘビのマイクが、タキを中心としてとぐろを巻いている。
まるでタキの身を護るかのように。
そして鎌首をもたげ、リカを睥睨する。
まるで獲物を見つけたかのように。
「北見さん、あなた……」
呆然と呟くリカ。
それもその筈、何故なら――
「ふふふ、たとえ出オチと言われようと、この瞬間私はオーディエンスを支配する!」
大きくなったところでマイクの攻撃力は元のままである。そして姿を見せて巨大化したという事は、隠密性を失い攻撃を受けやすくなったという事。
つまり、超弱体化した状態なのだ。
「その覚悟、見事よ。ならば私も乗らせてもらう!」
駆け寄るリカに、マイクはリカを一飲みに出来そうな程大きな口を開けて跳び掛かる。
訪れる惨劇を想像した観客席からは大きな悲鳴が上がった。
だがリカは避けるどころか更に加速、そしてマイクの口の下を潜り抜けてタキの元へと辿り着いた。
それと同時に元の小ヘビに戻ったマイクは、そこに待ち構えていたリカの契約精霊フィンと睨み合う。
そしてリカとタキの間では対照的な動きによる格闘戦が始まった。
リカの技はひとつひとつの動きにメリハリがある。
それはまるで、水中で力を蓄えて速度を増し空高く跳び上がるイルカのよう。
一方のタキはぬるぬると滑らかに動き、そこから突如として攻撃が飛び出す。
まるでネズミに跳び掛かるヘビのように。
派手な巨大ヘビの登場から派手な格闘戦へと移り、観客は大盛り上がり。
だが戦う二人は知っている。
この格闘戦も長く続けば飽きられると。
故に双方初めから短期決戦の出力最大。
一瞬の花火と散る覚悟なのだ。
……ヘビ花火ではなく打ち上げ花火として。
お互い三手四手先まで読み合い、そして裏をかき合い、激しく打ち合い、そして素晴らしい反応で避け合う。
そんな応酬が五分十分と続き、そして――
「勝者、2D北見タキ!」
風紀委員内の下克上が成った。だが――
「よくやったわ北見さん。あなたの捨て身の覚悟によって風紀委員の面目は守られた……」
去り行くリカの表情は、非常に満足そうだったという。
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