第23話 一年生準決勝戦
各学年、勝ち残った四名による第二回戦が開始されようとしていた。
この試合に勝った者が決勝戦に進出、つまりこの第二回戦は準決勝戦となる。
その準決勝戦、一年生の戦いは次の二試合だ。
第一試合、1A
第二試合、1Aエイヴァ・エヴァンズvs1B
次は二年生。
第一試合、2D
第二試合、2A
そして三年生。
第一試合、3A
第二試合、3C
「それでは各年生の第二回戦を開始する」
「「「「「うわあああああぁぁっ!!」」」」」
待ち切れないとばかりに歓声を上げる観客達。
「まずは一年生、1A水月ノア、1C衿真城マリエ、開始線へ」
二人はそれぞれの開始位置で開始の合図を待つ。
第一回戦は緊張でガチガチだったノアも今回は落ち着いているようだ。
ゆっくりと周囲を見回してからマリエに視線を向けた。
「…………始めっ!」
「さー坊、【とげとげパンチ】」
マリエのさー坊は短い手足の生えたとげとげのサボテン。
ころころしたボディが中々に愛らしい。触る気は起きないが。
そのさー坊がパンチを繰り出すと、拳の形をした半透明の塊がノアに向かって飛んでいく。
その拳にもたくさんのとげが生えており、当たったら痛いだけでは済まなそうだ。
「げんぷー、【障壁】」
高速で突き進むさー坊の【とげとげパンチ】であったが、げんぷーの【障壁】に止められあっさりと消え失せた。【障壁】には傷ひとつ付いていない。
「うわ固っ、こんなのどうやって攻略したら……」
思わず呟くマリエ。だがのんびり作戦を考える暇はない。何故なら――
「よーし、じゃあ次はこっちの番だね! 行っくよーーーっ!!」
両手に纏った甲羅の【障壁】を輝かせながら、ノアが突っ込んでくるから。
「さー坊、【とげとげグローブ】」
近距離での殴り合いを覚悟したマリエは、自らの拳にさー坊の【とげとげパンチ】を纏わせ、迎撃の準備を整える。
だが黙ってノアの接近を許すつもりなはい。
「さー坊、【とげとげパンチダブル】」
さー坊が突き出した左右の拳から2発のとげとげパンチが発射、ノア目掛けてカウンター気味に飛んでゆく。
「おおーパンチが飛んできた……よっ!!」
走りながらの跳び右回し蹴りで迎撃。当然右足には【障壁】を展開している。
ひと蹴りでとげとげパンチを二発とも破壊したノアはそのままの勢いで空中一回転、勢いを殺さずに着地して更に加速っ!
「うわわわっ」
一気に目の前に来たノアに対し、マリエは【とげとげグローブ】を纏った両拳で迎撃のワンツーを繰り出した。
だがそのパンチはノアが一瞬だけ出現させた【障壁】に遮られる。
そして動きを止められたその瞬間に、
ノアの連続攻撃が炸裂!
その全てを身体に受けたマリエは一瞬でぼろ雑巾、そしてとどめのBA――アッパーカットにより天高く舞い上がる事になった。
「勝者、水月ノア!」
控えスペースに戻ったノアに観客席から祝福の声が降ってきた。
「ノア! 決勝進出おめでとー!」
幼馴染で親友の柑橘ライムである。
「ありがとー! ライムが訓練とか付き合ってくれたおかげだよー」
「うんうん、ノアは私が育てた!」
そしてそのライムのすぐ横からも。
「おめでとー。超カッコよかったよ!」
「うん、凄かった」
入学初日に友達になった
そして――
「ノアのPowerをもらうです!」
そう言って右手を上げてノアに差し出すのは、イギリスからの留学生エイヴァ エヴァンズ。
観客席と選手控えスペースの隔たりはあるがA組の友人5人組が揃い、
「うん、エイヴァもがんばれ!」
パチン!
ハイタッチと共に試合場に向かうエイヴァの背中を見送った。
試合場では既にアカリが待っていた。
「待たせたですね。これが巌流島ならワタシが武蔵、アカリ破れたり! です」
「ふっ……我の勝利はアカシックレコードに書かれた確定せし未来。何故なら……」
そこでアカリは選手の控えスペースのノアに拳を向け、
「我が宿命のライバルが待っているのだっ!」
双方の勝利宣言が飛び出し、そしてクマとイルカの戦いが始まった。
近距離レンジを主とする双方の戦闘スタイルは実によく噛み合う。
開始と共に相手に駆け寄った二人は同時に試合場の中心に到達すると、お互いそこから一歩も引かぬ覚悟で拳戟を交わし始めた。
エイヴァは自ら鍛え上げた肉体にパディ―の力によるパワーと頑強さが上乗せされ、そこに本人曰く『エクササイズ』であるキックボクシング技術が加わる。
これによりその長い手足が恐るべき凶器となるのだ!
一方のアカリはアンフィトリテによって炎と水という二つの力を得た。相克である筈のこの力は、だがチューニの理科の真髄を極めたアンフィトリテとアカリにおいては相乗!
水と炎とは状態の違いのみでその本質は同一、故に炎が水を、水が炎を高めるのだ!
互いの攻撃を見切り躱し合う二人。だがアカリが僅かに体勢を崩したのを見て取ったエイヴァが予備動作無しのハイキックを放つ。
避けきれないと一瞬で判断したアカリは、唸りを上げるエイヴァのハイキックを水の盾で受け止めた。
(ウォーターバッグ!?)
水の盾に当たった瞬間、込められていた力は全て散らされ吸収されてしまった!?
並みの防御であれば突き破れる。
ノアの【障壁】であればその反発力を利用して次の技に繋げられる。
だがその力を完璧に散らされてしまっては――
(次の動きに繋げられないです!?)
片足立ちで動きが止まったエイヴァ。
そして当然このようなチャンスを見逃すアカリではない。
アカリはすかさず右手に炎を纏い、一歩踏み出し距離を詰め、その一歩すらも螺旋と変えて力を貯め、全ての力を込めた猛烈な一撃をエイヴァの胸元に解き放った。
ドムッ!!
鈍い音と共に吹き飛んだエイヴァ。
だが開始線を越えたあたりで姿勢を制御して両手両足で着地、そのまま立ち上がる。
「It hurts! 喰らっちまったぜ、です」
ニヤリ。
痛いと言う割に表情は明るい。
吹き飛んだ距離から見てもかなりの衝撃だった筈である。
どうやらパディーから得た頑強さは並みではないようだ。
「あの一撃を耐えるか。ふん、どうやら一筋縄では行かないようだ。よかろう、それでこそ乗り越えるべき我が運命!」
そして再開される近距離での立ち技の応酬。
技の洗練度そしてパワーで上を行くエイヴァに対し、水と炎を使った防御と攻撃で対抗するアカリ。
同じ近接戦闘でありながら方向性の全く違う両者の戦いはまさに一進一退、どちらかの体力が尽きるまで天秤が傾く事は無いかと思われた。
だが――
(ノアちゃん対策のとっておきだったけど、仕方ないよね)
それまで攻撃には炎を纏っていたアカリだったが、ここで突然水を纏ったフックをエイヴァに放った。
エイヴァは高速戦闘の中微かに違和感を感じはしたが、これまでの流れに沿って身体が無意識に反応し、腕でそのフックをガードする。
が、ここまでの全てはアカリの計算通り。
フックがエイヴァの腕に当たったその瞬間、アカリの手を離れた水の塊がガードしたエイヴァの腕をすり抜けエイヴァの顔を覆った。
「っ!?」
驚きに呼吸が止まった偶然がエイヴァを救う。
もし息を吸おうとしていたら、もし息を吐こうとしていたら、その瞬間に勝負はついていただろう。
まさに幸運。
だが――
「るらららぁーーーーーっ!」
気合いと共にボディに攻撃を集めるアカリ。
重なるパンチにエイヴァの顔が徐々に歪んでゆき、そして
「がぼっ」
堪らず口を開いたところで、
「それまでっ! 勝者火輪アカリ!!」
一年生の決勝進出者二名が決定したのである。
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