第22話 戦う上級生
二年生の第一回戦が始まった。
第一試合は2A上尾ミカ対2D牧島マキ。
「あーもん、一緒に頑張ろうね」
おっとりした表情でパートナーのクマ精霊に話し掛けたのは牧島マキ。
柔らかな微笑を浮かべたまま、対戦相手の攻撃ごと跳ね除け捩じ伏せ薙ぎ倒す。
クマの力を手に入れた『微笑みデストロイヤー』牧島マキが一方的な勝利を飾った。
第二試合は2B甲野サザナミ対2C堀江リホ。
図らずともイヌタイプ精霊同士の対決となったこの試合は、見ていて気の毒になる程のワンサイドゲームとなった。
それもその筈、甲野サザナミは二年生の最優秀生徒であり白銀の称号を持つ『白銀のバスチアン』である。
しかも――
「
集団行動を得意とするイヌタイプは格というものを持っており、真神の格は上位である『リーダー』である。
そのうえ白銀の狼の姿を持つ真神は、生まれ落ちた瞬間から周囲の犬やイヌタイプ精霊を従える立場の存在なのだ。
本当に気の毒としか言い様がない。
第三試合は2A祈島リカ対2C野々田ノノ。
精霊タイプはイルカ対トリとお互い戦闘向きではないが、それだけに本人同士の堅実な技術戦となった。
目の肥えた格闘技ファンにとっては堪らないこの一戦、ノノの上段蹴りをいなし軸足を固めにいったリカの勝利で幕を閉じた。
そして二年生の一回戦最終試合となる第四試合。
2B三並ナミ対2D北見タキ。
トリタイプ精霊のすぱジローが飛び立ち、契約者のナミと俯瞰の視界を共有する――
その瞬間!
一瞬の隙を付き、タキはヘビタイプ精霊マイクの能力である【緊縛】を発動させナミを拘束、これが勝利の決め手となる。
全身を見えない蛇に拘束されたナミはギブアップを宣言、試合は終了した。
「ふぅ……凄かったね、カナカナ」
「うん、どの先輩もみんな精霊の使い方が凄く上手」
「だね……あーあ、私達はまだまだだなぁ」
そんな一年生達の感想の一方、会場の見学客はというと……
ワンサイドゲームに沸き、技術戦に沸き、よく分からない魔法的な決着に沸き、既にボルテージは最高潮。
次の三年生ではもっと凄い戦いが見られるのだろうと、その期待は一気に高まり――つまり三年生の試合内容のハードルが爆上がりしている。
そんな中、三年生の一回戦第一試合が開始された。
「3A
指示に従い開始位置に立つ二人、そして試合開始。
「リリー、【モード御神刀】」
傍らの精霊がその姿を木刀へと変化させると、アイリはそれを八双に構えた。
一方のオノカはウサギの脚力を足に溜め、そしてアイリに向かって弾丸のように飛び出した。
一瞬で十メートルの距離を潰したオノカがアイリに激突するその寸前、アイリの御神刀が雷光のように振り下ろされ、
ベチャッ
オノカはウサギから踏まれたカエルに変化、床へと張り付いた。
「たいへんっ!」
試合が終われば敵も味方もない。
「リリー、【モード
小さな葉が生い茂る小枝に変化した精霊から光の粒がオノカに降り注ぎ、そしてオノカは傷ひとつない姿へと回復した。
「「「「うわあぁぁぁっ」」」」」
そのアイリの強さ、そして不思議な回復の力に沸き立つ場内。
その拍手の中オノカは立ち上がり、アイリに握手を求めた。
「やっぱり今年も敵わなかったか。こりゃあ今年もアイリがバスチアンで決まりかな」
そう、真名アイリは最上級生のバスチアン。
友愛の称号を持つ『友愛のバスチアン』なのである。
「あの先輩の試合テレビで見た事ある!」
「そうか、去年の全国大会で二年生のバスチアンだった人だ!」
「あんなに綺麗であんなに強くてあんなに優しくて、もう超絶完璧美人!」
「先輩……Loveです」
興奮冷めやらぬどころか大騒ぎのスタンド。
そんな熱気溢れる会場の中、人知れずひっそりと3B
「それまで! 勝者、狩絵エリカ」
記憶にも記録にも残らない、そんな静かな勝負がここにはあった……ようだ。
そして次の試合。
選手が登場した瞬間、会場の目はある一点に集中した。
「「「「「ペンギン?」」」」」
3A三津サトミ対3C
その南極コノハがお腹のあたりに抱えているのが、会場の視線を独り占めしている鳥タイプ精霊のぺんぺん。ペンギンである。
(((((カワイイ……)))))
「シーパラ、行こう!」
サトミはイルカタイプの精霊シーパラと共に走り出した。飛び道具を持たない普通のイルカタイプは、陸上では近接戦闘以外の選択肢はないためだ。
そんなサトミの出足を挫く声が対戦相手から響く。
「ぺんぺん、【ブリザード】」
普通のトリタイプは攻撃手段を持たないのだが、ぺんぺんは違う。
飛べない鳥は翼の代わりに刃を持つのだ。
色々と覚悟した悲壮な表情で走るサトミに向かって、真っ白な嵐が吹き付ける。
風と共に飛んでくる氷の粒は徐々にその大きさを増し、やがてピンポン玉くらいの大きさに。
「痛っ! 痛い! 寒い! 冷たい! 痛い!」
そして……
「もう無理……やめて」
「三津選手ギブアップ! 南極選手の勝利!」
「やったね、ぺんぺん」
嵐が止むと、ガチガチと震えながら両腕で自らを抱きしめるサトミが現れた。
「誰か……お風呂……」
毛布にくるまれたサトミが退場し、いよいよ一回戦の最終試合。
3B
「「「「「キャーーーっ」」」」」
「「「「「苑森ぃーーっ」」」」」
「「「「「苑森せんぱーーいっ」」」」」
二年生と三年生の生徒から飛ぶ声援は、顔が知れた人気者である苑森に対するものが圧倒的に多い。
何故なら――
「「「「「生徒会長頑張れー!」」」」」
そう、苑森は現役の生徒会長なのである。
「
そんなミサの声に、ミサの左肩の上に小さな白いウサギが姿を現した。
全身真っ白なウサギタイプ精霊、白雪である。
「「「「「可愛いぃーーっ!!」」」」」
そしてカミナ。
「ペップ・シ―」
こちらは緑色のカメ。
「エイヴァ、カメ! カメだよ!!」
「本当です。普通のカメです。珍しい」
「ええっ、普通のカメって珍しいの!? っていうか私のげんぷーがいるじゃん」
「いつからげんぷーが普通だと錯覚していたのです?」
「ええっ!?」
そんな一部の混乱を他所に戦いは始まった。
「ペップ・シー、【弾ける泡】!」
カミナの合図でペップ・シーから大量の小さな泡がミサの方向に勢いよく飛び出した。
ペップ・シーを起点として放射状に延びていくそれは、まるで散弾のようだ。
ミサはその泡が届く前に小さく呟く。
「【八艘飛び】」
白雪が泡の上方に半透明の足場を幾つも生み出すと、ミサはその足場を跳んで上空からカミナに接近していく。
こうして相手の一瞬の隙を突いて制空権を奪うのがミサの得意戦法。
だが――
「いつまでも同じ手でやられると思うなよ? ペップ・シー、【スキヤキ】!」
ペップ・シーは上を向いた。
涙は溢さず危険な泡を発射しながら。
泡は半透明の足場に当たって弾け、足場はみるみる削り取られていく。
「チッ」
小さく舌打ちしたミサは射線から身を外し、地面へと降り立った。
そして水平に撃ち出されたミサイルのようにカミナに向かって飛び蹴りを放つ。
「っ【障壁】ぃ!」
咄嗟に張った障壁がギリギリ間に合い、カミナはホッと――
バリンッ!!
低い破壊音と共に自らに突き刺さるミサの足。
それがカミナの見た最後の光景だった。
こうして第一回戦の全ての試合が終了し、そして第二回戦が始まる!
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