第21話 実技試験
学科試験が終わり十月に入った。
教職員達とイベント会社の手により運動場は徐々に精霊格闘試験の会場へと作り変えられてゆき、地域住民への観覧の周知も進んでいる。
そして当日の主役となる生徒達といえば――
「運動場見た?」
「見た見た。結構出来てたよね」
「あそこで外の人に見られながらとか絶対無理なんだけど」
「だよねー」
「あーもう、せめて非公開だったらなあ」
「日常動作とかお茶とかの方もキツイよ。当日までに練習しとかなくちゃ」
一年生は大体こんな感じ。そして上級生はというと――
「去年までは普通に試験って感じだったのに」
「だよね。精霊格闘だって自分の技術を先生に見せるだけでさ……」
「そうそう。対戦トーナメントは希望者だけだったし。まあそれでもバスチアン狙いの希望者が結構参加してたけど」
「クラス内で強い人を二人選抜するんでしょ?」
「で、お客さんの前で一学年八名のトーナメント戦? 全国大会じゃないんだからさ」
「入場料とか取ってたりして」
今年からのイベント化に困惑気味である。
そして二週間後。
いよいよ実技試験が開始された。
【日常業務】
主の日常生活をサポートする技能である。
一人あたり五分、
【清掃技術】
部屋や備品の掃除技術が採点される。
【洗濯技術】
通常の洗濯、染み抜き、アイロン掛け等。
【料理】
決められた品を作り、その完成度を採点される。
味、美しさ、調理時間等。
【給仕】
食事等の際にお茶を淹れたり食事の世話をする技術。
【来客対応】
予定された来客の準備や急な来客への緊急対応など。
【警護】
外出時の主を想定した動作に対する採点。
周囲の警戒や暴漢への対処など。
この他にも様々な技術の試験を受け、午前中の実技試験は終了した。
校外からの見学者は時々感嘆の声や小さな悲鳴を上げ、それが生徒の精神状態を上げたり下げたり。
そして午後、生徒も見学者も全員精霊格闘試験会場に移動し、いよいよ精霊格闘術の試験が開始された。
まずはトーナメントに参加しない生徒達による型の披露から。
判定を行う教師の前でグループ単位で型を行う。
上上下下左右左右BA
上上下下左右左右BA
上上下下左右左右BA
契約した精霊により当然各自が持つ力はそれぞれ違う。それに適した動きがキチンと出来ているかが採点の一番のポイントとなる為、採点する側の教師にも相応の知識や技術が要求されるのである。
故にこれは教師に対する試験でもあるのだ。
生徒・教師それぞれが緊迫した動きを見せ、そのただならぬ雰囲気に見学者の緊張も高まって行く。そして全員の型が終了した時、会場は大きな溜め息、からの大きな拍手に包まれた。
そしていよいよ本日のクライマックス、各学年ごとのトーナメント戦が開始される!
「まず最初は一年生の第一回戦を開始する。まずは1A水月ノアと1D
学科試験の後、精霊格闘の授業で1Aの代表二名を決める総当たり戦を行い、ノアは全勝、エイヴァはノアへの一敗以外全勝の成績により選出されていた。
今日がノア伝説の幕開けとなるか?
そのノアだが、まさかの開幕戦トップバッターに選ばれて半べそ状態。そうなれば顔を出すのが弱気の虫なのだが、今はそれ以上に緊張でガチガチとなっていた。
膝は突っ張って曲がらず、棒のような両足でガックンガックンと歩くノア。
「コラーーー! ノアぁ、しっかりしろーーー!」
ライムの必死の叫びもノアの耳には届いていないようだ。
「あかん……これはあかん」
そんなノアを見た対戦相手のキリナは、勝利を確信して内心ガッツポーズ。
(まあ元々この私が負ける筈はないのだけど、秒で倒して体力を温存できるのはラッキーね)
1Dの代表決定戦では二位という結果だったキリナだが、あくまで相性の問題で二位に甘んじただけであり、実質は自分がナンバーワンだと信じている。
そしてバスチアンの称号は自分の物であると根拠も無く確信しているのだ。
両者はそれぞれの開始線へと立った。
その間には十メートルの空間があり、遠距離を得意とする者と近距離を得意とする者がそれぞれ行う駆け引きもまた、見どころの一つとなっている。
「それでは……始め!」
審判の号令でキリナはノアに向かって一直線に駆け出した。
突進こそがキリナ最大の攻撃。だが実は彼女の武器はそれだけではない。速度を落とさぬサイドステップこそがその突進を最大限に生かす最強の刃なのだ。
(だけど今回は真っ直ぐ突っ込むだけで勝負が決まりそうね)
「わっ、来た。速っ、ええーっ、どうしよー」
緊張からの急展開で頭が真っ白のノア。
そのすぐ横に姿を現したげんぷーはノアの様子に溜息を吐き、そして――
ノアのすぐ前まで迫ったキリナの目の前へと長さのある【障壁】を鋭角に設置した。
「うわっ!? 何コレ向きが……ってストーーップ!!」
その【障壁】を滑るようにして強制的にベクトルを捻じ曲げられたキリナは、勢いマックスのままノアの横を通り過ぎ――
ドカァァァーーーーーン!!
止まり切れずに場外へと飛び出し、そのまま壁に激突した。
「場外! 勝者水月ノア!!」
「「「「「うわあぁぁぁっ!!!!」」」」」
場内に響く割れんばかりの歓声に、勝者となったノアは、
「え? え? 何?」
自分が勝利した事を理解していなかった……
「ノア、初戦突破おめでとうでーす!!」
選手控スペースに戻ったノアにエイヴァが激しく抱きついた。
「うん、ありがとう……何が何だか良く分からないけど」
「げんぷーにちゃんとお礼をするですよ。げんぷーが【障壁】で相手の攻撃を逸らしてくれたのですカラ」
エイヴァは勝利の理由をノアに聞かせ、それでノアはようやく自分がげんぷーに助けられ勝利した事を理解した。
「そっか……そうだったんだ。ありがとーげんぷー!」
ノアにギュッと抱き抱えられ、手足をバタバタさせるげんぷー。
その様子は肯定なのか照れ隠しなのか、それとも苦しさによるものか……
「ノア、どうやら初戦突破で緊張が解けたみたいですねー」
「あれ? そういえば……」
気付けば足の裏は設置感を取り戻し、手足は自由に曲がるようになり、視界は広がり周囲の様子が目に入るようになっていた。
「ノア、次は自分の力で勝利するのですよー」
「うんっ!!」
この様子をすぐ上の応援席から見下ろす一人の少女――
(エイヴァ……美味しいとこ全部持ってって……あれは私の……私だけの役目なのにぃーーーっ!!)
それは、心の中でハンカチを噛みしめるノアの心のオカン、ライムであった。
そして会場で行われていた1Bと1Cの試合が終了し、次はエイヴァの出番。対戦相手は1Cである。
「エイヴァ、頑張ってね」
「参考資料によると、試合前の発言は謙虚なのが定石です。ですので、ワタシも謙虚に……『格の違いって奴を見せつけてやるぜ!』です」
「うわー、久しぶりにエイヴァの参考資料が炸裂したよー」
そしてエイヴァは……
宣言通りに格の違いを見せつけて戻ってきた。
「凄いよエイヴァ! あれってキックボクシングってやつ?」
「そうでーす。通ってるジムで最近流行ってるエクササイズなのです」
「エクササイズ……で勝てちゃうんだ」
次が一年生最後の一回戦。
「次、1B
1B最強は当然アカリである。
そして――
「勝者、火輪アカリ!」
勝利するのもまた当然であった。
会場はアカリによる炎と水の競演に大興奮、この戦いぶりにより早くもアカリは一年の優勝候補と目されたのである。
そして、それはもちろん上級生からも。
「火輪アカリ……今年の一年のバスチアンは彼女で決まりかしらね」
「そうだね。あと目立ったのは精霊に勝たせてもらった水月ノアと留学生……でも実力ではやっぱり火輪アカリが一歩抜け出てるかな」
「全国大会のいい戦力になりそうね」
トーナメントは続く。
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