第20話 学科勉強
夏休みが終わり、今日から二学期が始まる。
「全員揃っているな。うむ、夏休みを無事に過ごす事が出来たようで何よりだ」
今年は長期休みの間に奇行に走る生徒や『自分探し』と称して学園を休学しバックパッカーを始める生徒は出なかったようだ。
「各学科より出されている宿題はそれぞれ学科の最初の授業で集めるから、万が一やり残しがある場合はそれまでに完了させておくように。それではまず最初に二学期以降の予定を説明する」
バスティアーナ学園は便宜上夏と冬の長期休みで学期を区切っているが、成績の付け方は前期・後期の二学期制となっている。
そして前期の最優秀生徒がその年度の代表である『バスチアン』の称号を与えられるのだ。
「……という訳で、9月の終わりに学科試験を行い、10月に実技試験を行う。なお、実技試験の内容は精霊格闘を含む各種執事訓練に沿ったものとなる」
「格闘が含まれるんだって。ノアいい線行けるんじゃない?」
「そうです。そしてアカリと宿命のライバル対決です」
「ううー、絶対勝ち目無いよー」
「ああそうだ、今年度から実技試験の様子を一般公開する事になった。観覧や応援など結構な数の来場者が入ると思うから、気合いを入れて頑張るように」
「「「「「ええーーーっ!?」」」」」
「ライム……私無理だよ。緊張で死んじゃうよー」
「うん、これはもう頑張れとしか……」
ざわつく教室内。
そんな中、ある生徒から質問の声が上がった。
「せんせー、何で今年から急に?」
「何でも執事学校協会から『運動会的な行事を実施する』方針の通達があったそうだ。そんなものに割く時間など無い為、実技試験をそれに充てる事になったのだ。まったく面倒な事この上無いが、
教室内には教師と生徒達の溜め息が吹き荒れた。
「まあ頑張ってくれ。前期試験が終われば次は学園祭だ。これもまあ大変な行事だが、良い思い出になると思うぞ」
「「「「「おおーー……」」」」」
「で、その次にあるのが『ロゼメアリー学園』との合同競技会だ。これは冬休み明けに行われる『全国執事・メイド学校技術大会』出場者の選考を兼ねている」
「「「「「全国大会っ!!」」」」」
「「「「「きたぁーーーーっ!!」」」」」
各都道府県に一校、人口が多いところには二~三校ずつある執事学校とメイド学校。その代表チームが合同で参加し日本一を競う、それが全国執事・メイド学校技術大会、通称全国大会である。
この大会をテレビで見て、毎年数多くの少女達が将来執事やメイドになる事を夢見る。そしてこのクラスの生徒の多くも、やはりそれが切っ掛けで執事を目指し始めた少女達。
なので、かつてテレビで見たあの大会に参加出来る事が嬉しくてたまらない。
たとえ大会そのものへの出場は出来なくとも、学校の代表を決める選考会だって、その大会の一部という事なのだから!
キラキラと輝く瞳で自分を見つめる生徒達に、マキエ先生は言った。
「うむ、皆やる気に満ちた良い表情だ。そのやる気をまずは学科試験にぶつけてくれ。試験は三週間後だ」
「「「「「…………」」」」」
クラスは静けさを取り戻した。
学科試験に備え、ノア達は勉強会を行う事にした。
一般の高校と同等の基礎科目に加え、これまで習った執事学も当然出題範囲に含まれる。
これだけ幅広い出題範囲に対応するには、個人で戦うよりもそれぞれの得意科目を教え合えるチーム戦の方が効率が良いのだ。
「でもそうすると図書室は使えないよね」
「うん。図書室ではしゃべっちゃダメだから」
「おおー、カナカナ図書委員っぽい」
「図書委員じゃな――」
「だったらどこでやる?」
うーんと頭を悩ませるノア達。
その時、何かないかと端末で学校アプリを見ていたマイカがあるものを見つけた。
「ねえ、これってどうかな」
そこに書かれていたのは、
『多目的室使用申請』
「多目的室・・・って何?」
聖バスティアーナ学園では、生徒が自習や友人同士の集まりに使用可能な、収容人数五名~十名の多目的室が複数用意されている。
そこなら簡単な申請で借りる事が出来るのだ。
「うわぁ、結構埋まってる」
部屋の存在を知っている上級生達は、ノア達と同じようにグループでテスト勉強する為にこの部屋を利用する。
そのため前期や後期のテスト前というのは、年間を通して最も利用率の高い時期なのである。
「じゃあ申請するよー」
幸い八人部屋が空いていたので、テスト直前までの期間を借りる事が出来た。
一人が一度に申し込める利用日数は限りがあるため、メンバー交代交代で日にちを変えながら。
ノブの近くについているセンサーにマイカの端末を近づけると、カチャッという小さな音と共に部屋の鍵が開いた。
そのままマイカがドアを開けると、みんな一斉に部屋を覗き込む。
「おおーー」
「カラオケルームっぽいかと思ったけど、これは……」
「会議室?」
部屋の中央に大きなテーブルが鎮座し、その周囲を椅子が取り囲んでいる。
「申し込みの時に設備を変えられるみたいだけど、勉強だったらこれでちょうど良いかも」
「だね。じゃあ早速はじめようか」
「「「「「おおーーーっ」」」」」
「ねえライム、ここってさ……」
「エイヴァお願い、ここ読んで」
「誰かこの問題分かるー?」
それぞれが思い思いの教科書を広げ、これまでに習ってきた事の総ざらいを始める。
覚えている事はもう一度脳細胞に上書きし、忘れている事や分からない事は他の誰かに質問する。
けっして効率は良くないが、誰かに頼るのも誰かから頼られるのも嬉し楽しそうだ。
モチベーションという点では良いやり方なのかもしれない。
ノア達がテスト勉強の日々を送る中、精霊たちは何をしていたかと言うと……
実は精霊界でテストを受けていた。
といっても、人間達のように学科や実技の試験を受けるのではなく、執事の神セバスティから遣わされた執事精霊のトップ、トリタイプツバメ型精霊メキタルによる面接である。
『ふむ、あなたはぴょんたんですね。記録によると……ほうほう、あなたの力により契約者が水泳で素晴らしい成績を残せたようですね。ぴょんたんのここまでの成績は……イイネ!』
『やった!』
『次はルーク……ああ、あなたですね。あなたはどうだったかというと……ふむ、とりたてて目立ったところは無いようですが、視力の回復や自信を持てた事によりあなたの契約者の精神状態が向上したようですね。それらを加味したあなたの成績は……イイネ!』
『ほっ』
『それから……パディ―。あなたは……む? 好き勝手に出歩いて契約者の呼び出しに間に合わない事が多々あり。契約者への力の譲渡は行っているが、飛び抜けたものはなし。その見た目から、契約者やその友人から可愛がられてはいると。そんなあなたの成績は……チャントヤレ!』
『うぐぅ』
『ええと次は、タマミちゃんですね。ほほう、ぴょんたんの契約者と素晴らしい勝負を見せたのがあなたの契約者だったのですね。その契約者との関係も良好で良い関係を築けていると。あなたも当然……イイネ!』
『よっし!』
『あなたの名はアンフィトリテ……なんと神の名を付けられたのですか。そんなあなたは……ほほう! 炎の力を手にしたと。そして炎から水の神髄に辿り着き、その力を契約者に……これは素晴らしい成績が出ましたよ。……ヤバイネ!!』
『ふっ』
『そして最後のあなたが、げんぷー。ふむ、あなたは限られた能力を応用する事により契約者の能力向上を果たし、相乗効果により更なる効果を
『急に何だその評価……(だが水の克服か。いい目標をもらった)』
精霊達が精霊界で成績を突き付けられている頃、ノア達の学科テストも無事終了していた。そしてチームで臨んだ事が功を奏し、ノア達全員が良い成績を収める事が出来たのである。
「あとは実技試験かー。今からもうドキドキだよー」
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