第28話 学園祭は準備こそが祭り
学科試験も無事終わり、十月に入った。
永遠に続くかと思われた残暑も和らぎ、ようやく朝夕に秋風を感じられるようになった、そんな頃。
「さて、いよいよ君達お待ちかねの学園祭だ。クラス単位で出し物を用意する事になっているから、何をやるのか皆で決めるといい。ちなみに昨年の傾向だが――」
そう言って手元の資料に視線を落とし、
「執事喫茶にお化け屋敷、演劇、人形劇、紙芝居、朗読劇・・・何だこの辺りは劇だらけだな。……それから……ほほう、メイド喫茶をやったクラスもあるな」
「ええっ、どうやって?」
「まあメイド魔法は当然使えないから、そこは執事術でカバーしたのだろう。要は執事術を使ったメイドコスプレ喫茶だな」
「メイドコスかぁ。それはそれで楽しそうかも」
「アキヒメさんみたいなメイド魔法が使えたらいいんだけどね」
実習先で会ったメイドさんの料理を思い出しながら呟くライム。
「あとは……海岸で拾ってきた綺麗な石を展示? なるほど、当日は
「おおー、そういう作戦もあるんだー」
「まあ拾ってきた石を見たいかと言われると微妙だけどね」
「時々海岸で宝石の原石が見つかってニュースになるです」
「マジで!?」
「まあ大体こんな感じだ。まあせっかくだから今決めてしまうか? 各自意見を出してから多数決というのが定番か。
「おおー、丸文字道七段の書記川さんの出番だー!」
ポツリポツリと意見が出るたびに、黒板にファンシーな文字が踊る。
お化け屋敷
喫茶店
学園祭ベストショット
花火大会
デッサン大会
かくれんぼ大会
カラオケ大会
アームレスリング大会
精霊展
「ふむ、色々と突っ込みどころが多そうなラインナップだが……まずこの『学園祭ベストショット』とは何だ?」
「はい、学園アプリの機能を利用して一般生徒に学園祭の写真をアップしてもらって、その中の一番を決めようって企画です」
「ふむ、中々楽しそうではあるな。するとプロジェクターでの展示になる訳か」
「はい!」
「皆、意見を言ってくれ」
「面白そう」
「誰が一番を決めるの? 投票?」
「学園祭の最中だと写真が出揃わないかも」
「じゃあ学園祭後の投票?」
「それだと終わっちゃってるじゃん」
「ふむ、学園祭の出し物には間に合わんかもしれないが……企画としてはいいな。学校側の企画として検討していいか?」
「はいっ!!」
クラスの企画が学校の企画になった瞬間だった。
「花火大会……打ち上げ花火は無理だろ? だったら手持ち花火か? いや教室で花火は出来ないし……いや待て、そもそも昼間に出来る花火って何だ? ……蛇玉? ロケット花火? パラシュート? ……いや案外色々あるな」
「デッサン大会? ひたすら絵を描き続けるのか? 誰が? クラスで? それとも来場者が? だとしたらアリなのか? だが指導は出来ないだろうし……」
「かくれんぼ? 学校内で? いや無理だろう。そもそも始めて会った者を探すなど……執事というより探偵だな」
「カラオケ大会……採点機能付きの機器を借りられればあるいは……」
「アームレスリング大会……一体誰の趣味だ?」
「精霊展? 精霊を展示する訳にはいかないから写真や情報の展示か? パッと聞くと面白く感じるが……分かってるのか? 精霊の個人情報だぞ?」
そして残った実現できそうな企画が――
喫茶店
お化け屋敷
カラオケ大会
アームレスリング大会
「ありきたりなものと妙なものが残ったな。さてどうする?」
設営に手間がかかるお化け屋敷と誰得なアームレスリング大会が最初に除外された。
「カラオケ大会はまあ機械を借りる方針だとして、問題は喫茶店だな。どんな喫茶店だ? 選択肢としては……普通の喫茶店、執事喫茶、メイド喫茶あたりか?」
クラス中そこかしこで話し声が上がる。
「メイドコスもやってみたいよね」
「執事……お客さんも生徒だと店内全員執事って事だよね?」
「先輩の評価が厳しそう」
「先生からダメ出しされたりして」
「……執事はナシで!」
「ちょっと待って、それって普通の喫茶店でも一緒なんじゃ……」
客からの評価基準の高さに気付いてしまった。
喫茶店は無理か……誰もがそう思い始めたその時――
「だったらさライム、
ライムと会話するノアの声が、静まり返った隙間を埋めるように教室中に響いた。
「「「「「あるじ喫茶?」」」」」
聞き慣れない響きにクラス全員の視線がノアに集中した。
「ひうっ!?」
隣同士ひっそりと話していたところで突然目立ってしまい萎縮したノア。
そんなノアを助けてくれるのはいつも――
「何何? ねえノア、それってどんなの?」
必要以上に大きなリアクションでノアの気を自分に向けさせたライム。
ライムとの二人きりの会話となった事で、ノアの口が再び回り始めた。
「えっとね、学校内からのお客さんってさ、全員執事じゃない? だったらさ、私達が『
「ああ、なるほど。お客さんが執事になって、私達が主になるから『あるじ喫茶』か」
「うん、それで校外のお客さんにはお茶の淹れ方とかを教えてあげて――」
「おお! ナイスだ水月、それなら学園の教育内容の紹介にもなるじゃないか!」
とここでマキエ先生から思わぬ大絶賛。
そしてクラスメイト達も。
「それだったら私達の執事技術のアラ探しされずに済む!」
「でもその代わりに上品さが求められると思うけどね」
「先輩方の技術を盗むチャンス!」
「さんせー!」
こうして1年A組の出し物は『あるじ喫茶』に決定した。
「ほほう、それで茶葉の仕入れに来たって訳か」
「はい! 事前準備も含めて生徒だけでやる事になってるから」
茶葉の仕入れは、
そして二人は夏休みにバイトした店へとやって来たのである。
「それで? 喫茶店って事はやっぱりお目当ては紅茶かい?」
「それが実は……」
メニューを決める会議の中、ふとこんな意見が。
「あるじ喫茶って事はさ、お客さんが出したものを私達が食べたり飲んだりするんだよね?」
「あ、確かに」
「それってお客さんに食べ物代を払ってなんて言えなくない?」
「うん、絶対言えないよね」
お客さんが買った食べ物を食べさせてもらうとか……
そんな事が許されるのは猫カフェの猫くらいだろう。
「だからさ、料金は入場料っていうか体験料って事になるよね」
「それだと食べ物は無理じゃない? だってそれって料理させるって事でしょ?」
「うん。だとしたらメニューは……」
「って事になったんです」
「ほほう、それで紅茶と中国茶と抹茶になったって訳かい」
「そうなんですよ。それでお客さんが淹れてくれたお茶を私達とお客さんが一緒に飲むってサービスになって」
「そりゃあまたグレーゾーンに足を突っ込んだもんだねえ」
「え? グレーゾーンって?」
「ん……まあそれは気にしないどくれ(男性客が殺到しない事を祈ってるよ)」
そして安くて美味しいお茶と安くて見栄えのする茶器を仕入れたノア達は、荷物をげんぷーに【収納】してもらい学校に戻って行った。
「しかしあの娘たち、あるじ喫茶とはまた妙な事を考えたもんだね。でもまあ楽しそうではあるし、あたしも客として――ああそうだ、客ってのは体験した事を帰ってからやってみたくなるもんだ。財布のひもが緩んでいるうちに茶葉と茶器の販売もやるべきなんだが……それをどうやってあの娘達に伝えようかね?」
フタバ姉さんが臨時講師の打ち合わせに学園に赴き、マキエ先生にノア達への言付けを頼んだのは、その数日後の事であった。
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