第237話 意思表示
「今日は急な事なのによく集まってくれた。滅多にない機会だ。皆、堪能してほしい」
第1王子の言葉が終わると着席だ。アミューズから始まり、前菜、スープと進んでいく。
俺にとってはいつもの料理だ。スープなんてこの時期には必ず出てくるものだ。
「とても美味しいわね」
「素材の味が違うのか?」
「このワインもなんて芳醇なのでしょう」
皆で相談して決めた、シーフードのパエリアではふんだんに使った魚介類に驚きの声が上がった。
「どうやって王都までこんな新鮮な魚介類を持ってきたのだろう」
「今まで食べた事のないものだわ」
王都では米はあまり食べられていないらしい。うちの領地では普通なんだけど。
モーモーちゃんのスネ肉のワイン煮込みなんて絶賛だった。
「なんだこれは、口の中で肉が解けるぞ」
「何のお肉なのかしら?」
「こんなに良いワインで煮込むなんて、なんて贅沢なんだ」
耳に入ってくる誉め言葉の数々。うちの料理人達が聞いたら、きっとまた『ウェ~イ!』と言って喜ぶぞ。
「ココ、もう見ているのかい?」
「はい、兄さま。入った時から見ていますよ」
「そうか。で、やはり?」
「はい、黒ですね」
「食事が終わったら合図だね」
「はい」
順調に食事は進み、デザートが出てきた。
ばーちゃんが、希望していた桃のタルトもある。デザートは1個1個をいつもより小さく切り分けてあって、色んな種類が食べられるようになっている。
「この桃はなんてジューシーなのかしら」
「私はこのガトーショコラが良いな。チョコレートなのに甘すぎない」
うんうん、好評だね。最後にアイスクリームだ。領地のミルクを使ったバニラアイスと、いちごのアイスの2種だ。いちごはスイーツの王様だろう。
「ああ、幸せ」
「アイスクリームと言うそうだ。初めて食べたぞ」
「あら、今王都では最先端のスイーツですのよ」
そうそう。それはばーちゃんの店だ。うちの料理人に聞いて、色々なスイーツを出している。
何しろ、食材は全て領地のものを使っている。こっちの物とは、味も大きさも段違いだ。
マジックバッグに、入れて持って来たから新鮮そのものだ。
「ココ、そろそろ移動するよ」
「はい、兄さま」
デザートが終わると歓談の時間を取ってある。皆其々思う人物に話しかけたり、王子達に挨拶をしに行ったりする。その時に紛れてバルコニーまで移動だ。
もう咲と隆は、俺達が目立たない様に隠してくれている。メイドさん達も目くばせをしている。準備は万端だ。
その時、一角で騒ぎが起こった。
「ココ、待ちなさい」
「ロディ兄さま?」
第3王子が、例のクーデターを企てている貴族達に取り囲まれていたんだ。
よく見ると、いつの間にか貴族達のそばには武人らしき人達が守っている。こんな場で何をするんだ?
まさかここで、無理矢理武力介入するのか?
「フィルドラクス殿下!」
「もう陛下は何年も出て来られてないのですよ!」
「殿下こそが次期王を!」
「王家の色を継いでおられるのは殿下だけなのです!」
ああ、まさかの展開だ。晩餐会の場でその話を出すとは思わなかった。
普通は、もっと根回しするもんじゃないのか?
「ココ。彼らも精神干渉を受けているのか?」
「いいえ、正気です。受けていません」
鑑定眼で見ても、第3王子に迫っている貴族達は精神干渉を受けていなかったんだ。何を考えているんだ。
「僕は!」
第3王子が大きな声で話し出した。
「私は兄上を影からお支えしていくつもりだ! 自分が王になろうなどとは考えた事もない!」
王子がハッキリと言い切った。それでも食い下がる貴族達。
「殿下!」
「殿下しかおられないのです!」
「父上が出て来られなくても、平和でいられたのは兄上が取り仕切っておられたからだ! そんな兄上を私は尊敬している!」
「しかし! 殿下!」
「私は城に留まるつもりもない!」
なんだって!? 城に戻るんじゃないのか!? どうするつもりなんだ!?
「インペラート辺境伯! 此れへ!」
「はッ!」
げげッ! 脳筋のボスが呼ばれちゃったよ。ああ、どうすんだよ。あの父にこの場を収められるのか?
父とユリシスじーちゃんが貴族達から第3王子を守るかの様に立ちはだかる。実際に守るつもりなんだ。
そして、第3王子の後ろにはディオシスじーちゃんと護衛のアルベルトも立っていた。剣こそは持ってはいないが、2人も身体を張って第3王子を守るつもりだ。
「私は辺境伯の世話になろうと思う。辺境伯、迷惑だろうか?」
「殿下ッ! 何を仰います! 大歓迎ですぞッ!」
ああ、言ってしまった。取り敢えずこの場を収めようとは思わないのかよ。
「なんとッ!」
「殿下! 早まってはいけませんぞ!」
「私は私の人生を選ぶ権利がある! 勿論、辺境に行っても兄上をお支えする気持ちには変わりない! これは私自身が決めた事だ!」
「しかし殿下! 辺境になど!」
「なら皆様! どうしてフィルドラクス殿下が幽閉されておられると知ってお助けしなかったッ! 何もしないで都合の良い時だけ担ぎ出す等以ての外だぁッ!」
「そ、それは……」
「そうだ、機会を待っていたんだ!」
「何年もですかッ!?」
「いや、それは……」
「しかし殿下!」
「その間、殿下がどの様な気持ちでおられたか分からんのか!? 殿下は毒に侵されておられたのだぞッ!」
「な、なんとッ!」
父よ、頑張れ。脳筋なのによくそれだけ反論できたよ。見直したぜ。
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