第236話 晩餐会

 俺達は他の貴族達よりもずっと早く王城入りをした。色々やらなくちゃならない事があるからだ。

 まず、城に入ったら大聖堂の人達と合流だ。


「選り抜きの者達を連れてまいりました」


 大聖堂の司教様、ルーカスさんだ。


「私は魔力がそう多くはないのです。ですので、両方の伝達役としてお役に立ちたくてまいりました」


 ルーカスさんを含めて15名だ。2名が魔法陣に魔力を流す役目で、各場所に1名ずつ伝達係がつく。

 それは便利だ。助かるぜ。


「では、1度皆さんで現場を確認にまいりましょうか」

「はい。お願い致します」


 ディオシスじーちゃんが差配してくれて、俺はその後をついて行く。

 城塞の1番外側だ。突き出たところに魔法陣を設置してある。

 全部回るのはけっこう歩くぞ。早く行こう。


「ココ、ドレスで大丈夫かい?」

「だからお祖父さま、走れるものが良かったです」

「アハハハ、それは無理だ。抱っこしてあげようか?」

「え、歩きます」

「寂しいなぁ。もっと幼い頃は、おじーさま抱っこして! て、言ってくれていたのに」

「お祖父さま、何年前ですか」

「ほんの数年前だよ」

「私達だけでまいりますよ?」

「いや、その魔法陣がココでないと見えないんだ。不可視にしてあるそうなんだよ」

「なんとッ! 不可視ですか!?」

「大聖堂に設置した魔法陣と一緒です」

「素晴らしい! さすが、クリスティー殿ですね!」


 そうなんだ。クリスティー先生作の魔法陣はとんでもないんだ。こんなの他の誰にも作れないんじゃないのか? て、性能だ。

 先ず、1箇所目。丁度、城の正面だ。


「見えませんがここに魔法陣があってその中央に魔石があります。魔石は見えていますよね」

「ああ、本当だ。魔石が置いてありますね」

「はい。そこが中心になりますので、そこを目掛けて魔力を流してください」

「分かりました」

「大聖堂の5つの鐘が鳴ると貴族達が入城します。そして魔力を流す合図なのですが、ココ」

「はい、お祖父さま」


 俺は片手を挙げパチンと指を2度鳴らした。すると魔法で作った玉が白い尾を引いて上げっていき、上空で小さな花火の様にパンパンッと光が弾けた。


「おおーッ!」


 司教さん達が驚いて上空を見ている。


「これが始める合図です。晩餐会が始まり、食事が一段落したら合図を出しますので気を付けていてください」

「なるほど、分かりました」

「では、次の場所にまいりましょう」


 この場に3人残り、後は次の場所へ。

 そうして5箇所回り、控室へと戻ってきた。

 すると、第1王子と第2王子がやって来た。


「フィルドラクス」

「兄上」


 何年ぶりの対面だろう。

 第1王子が、遣り切れない様な慈しむ様な微妙な表情でフィルドラクス殿下の手を取る。


「すまなかった。気付いてやれずに辛い思いをさせてしまった」

「いえ、兄上」

「フィル、私もだ。すまない」

「ニコルクス兄上」

「元気そうでよかった」

「ああ。よく戻ってきた」

「兄上」


 3人の王子はしっかりと手を握り合っていた。余程気にしていたのだろう。晩餐会の前に態々やってくるんだ。


「フィルドラクス、今日は私達と一緒に入場してくれ」

「フィルは私達の弟だ。同じ王族なのだから」

「はい」


 そうか、そうなんだ。王子は俺達とはもう別の世界の人なんだ。いや、元々別の世界の人だ。王族なんだから。俺は何故がちょっとセンチメンタルな気分だ。

 俺達の方を振り返って、いつもの声で第3王子は言う。


「皆、本当に無茶をしないでください。私はそれが心配なんだ。特にココ嬢、無茶をしないで」


 え、俺なのか? さっきの感傷的な気持ちが途端に消え去ってしまった。


「大丈夫です。大人しくしておきます」

「ハハハ、怪しいなぁ。また、後で」


 そう言って、第1王子達と部屋を出て行く。チラッと王子がエリアリア姉を見た様な気がした。

 エリアリア姉は平然としている。気のせいか?


「皆様方も会場の方へお願い致します」


 侍従が先導して会場へと向かう。今回呼ばれた貴族達も次々と会場入りしている。

 今日は、うちの領地の食材を振舞う晩餐会だ。夜会ではない。なので、煌びやかすぎる訳ではない。

 それでも、ずっと領地から出た事のない俺にとっては今までで1番緊張した。

 父の名前を呼ばれ、会場入りする時なんてちょっと足が震えたよ。

 だって、みんな正装だ。それにこの国の名立たる貴族ばかりが呼ばれている。解呪する為とは言え、俺にしては珍しく気後れしたんだ。

 咲と隆はもう先に俺達の席近くで待機している。しっかりメイドと侍従に成り済ましている。

 周りを見ると幾つも知った顔があった。うちの領地のメイドさん達だ。完璧だ。


「まあ、珍しいわね」

「辺境伯ご一家ですって」

「今日の食事も、辺境伯領のものなのでしょう?」


 などと、聞こえてくる。子供なんて俺位だ。余計に目立つ。


「ココ、背筋を伸ばしなさい」

「お祖父さま」

「大丈夫よ、ココちゃん。じゃがいもと一緒よ」

「姉さま」


 到底じゃがいもとは思えないが、2人のお陰で気負いが無くなった。


『ココ、鑑定眼使っとけよ』


 霧島だ。ちゃんと俺が肩から掛けているバッグに入っている。


『分かってるわ』

『みごとにみんな黒だな』

『ええ』


 霧島もこっそり見ているらしい。招待された貴族達の、殆どが精神干渉をされていたんだ。

 貴族達の会場入りが終わると、正面の席に第1王子を先頭に第1王子妃、第2王子、第3王子と続いて入場された。

 全員立ち上がり黙って頭を下げる。会場にザワザワと騒めきが起こった。


「第3王子殿下が同席されるからだろう」

「何年も公式の場に出られていなかったからな」


 ディオシスじーちゃんとロディ兄がそう教えてくれる。

 なるほど。この中には、王子の迫害に加担していた者だっているのだろうな。

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