第238話 解呪
第1王子が見兼ねて、堂々と割って入られた。意外にも静かな声だ。
「良いか? このような場で話す事ではないと私は思うが?」
「イザークス殿下、この様な場でしかフィルドラクス殿下と話せません故」
「殿下もお分かりでしょう。フィルドラクス殿下だけが、王家の色を継いでおられると」
「色だと?」
ああ、やはり第3王子の髪と瞳の色に拘っている。本人や兄王子達は唯の個性だと話しているのに。こじつけてるんじゃないのか?
「それだけではありません。殿下は大変聡明でおられる」
「だから幽閉されたのでしょう! 御労しい!」
「寵愛を受けておられた、側室様が亡くなられたばかりに……」
勝手な事を言ってるぜ。ちょっとムカつく。
「そういうお前達は、フィルドラクスが幽閉されていると知って何をしていた? 自分達の不満をすり替えているだけではないのか? 私も辺境伯に知らされるまで、フィルドラクスが辺境伯の世話になっていると知らなかった。私も同罪だ。だが、それとこれとは話が違うぞ」
「イザークス殿下、しかし……」
「フィルドラクスがそう思っていると、私も今初めて聞かされた。これはまた機会を改めて話し合う事ではないか? この様な場で、軽はずみに話す事ではないだろう」
「兄上、有難うございます」
「フィル、私達はもっと話をしなければならなかった。インペラート辺境伯に甘えておったのだ」
「フィル、私もだ。ゆっくり話をしよう」
「ニコルクス兄上」
第1王子の介入で、その場は落ち着いた。しかし、びっくりだぞ。まさか、うちの領地に来ようと思っているなんてさ。
「ココはまだ子供だからね」
「え、兄さま。どういう意味ですか?」
「そのまんまだよ。さあ、合図を送ろう。まだ仕事は残っているよ」
「はい、兄さま」
そのまま俺とロディ兄はバルコニーに出た。
「ココ、合図だ」
「はい」
俺は予定通り、指を2度パチンと鳴らした。ヒュ~ッと魔法で作った玉が白い尾を引いて上げっていき、上空で小さな花火の様にパンパンッと光が弾けた。
すると、5箇所から透明なシールドが伸びていき城全体を包み込んだ。いいぞ、完璧じゃん。
「どうだい?」
「はい、成功です。ちゃんとシールドが展開されています」
「きっとこれからが大変だ」
「はい、兄さま」
何故、これからが大変なのか? クリスティー先生作のシールドで、軽い精神干渉の人は難なく解ける。
しかし、深く干渉されている人は苦しみ出すんだ。以前に枢機卿や教皇を解呪した時の様に、個々に対処しなければならない。
それを見極めるんだ。酷い者達は、会場に散らばっている侍従やメイドさん達が別室に集めてくれる手筈になっている。
みんな、完全防御の魔石を持っているから大丈夫だ。
見ていると、軽い精神干渉を受けていた人達がふらつき出した。
それも一瞬だ。お互いに話していても気が付かない程度だ。
次に、ふらつき壁やソファーに一瞬手をつく人達。この人達も、おやッ? と思う程度だろう。ワインを飲みすぎたかな? 程度で済む筈だ。
もう一段階精神干渉が深い人。その人達は立っていられずソファーに座り込む。その人達も、直ぐに元に戻るだろう。
そんな人達から黒いモヤモヤが出て、城の奥へと飛び去って行く。
問題は胸を押さえながら苦しみ出した人。やはり、前宰相近くで役職に就いていた人達が苦しみ出した。
待機していた従者達が素早くそばに行き、別室で少し休みましょうと声を掛けている。
「ココ、行こうか」
「はい」
「私も行こう」
ディオシスじーちゃんも来てくれた。
晩餐会の会場の、直ぐ近くに用意された一室。そこに集めてもらった、深く精神干渉を受けている人達。ここでまとめて解呪する。
「キリシマ、良い?」
「おう、いつでもいいぜ」
「やるわよ」
「ばか、俺がやるんだよ」
そこで、クリスティー先生の言葉が頭を過った。
『良いですか? ココ様の魔力は温存でっす。キリシマちゃんに任せてください』
そうだった。俺も解呪する気満々だったよ。
「あ、キリシマ。そうだったわ、お願い」
「おうよ、任せな!」
霧島は、俺が肩から掛けているバッグの中から指だけヒョイと出す。
そして、ヒョイヒョイと動かした。毎度の事ながら感心するぜ。それだけかよ、って思うよ。
たったそれだけなんだ。指をヒョイヒョイと動かしただけで、苦しんでいる人達の首筋から背中にかけて黒いモヤモヤが浮き出て飛び去って行く。
その後は、精神干渉を受けていた人達はそのままソファーにもたれ休んでいる。まだ意識を失わないだけマシだ。
「暫くしたら落ち着かれるだろう。それまで頼む」
ディオシスじーちゃんが部屋にいた侍従にそう伝える。
あとは、城で働いている人達だ。深い人がいたら知らせがくる筈なんだ。
「ココ、今のところ大丈夫だ」
ロディ兄が、部屋のドアのところでメイドさんから報告を受けているらしい。
メイドさん達、大活躍だ。
「戻ろうか」
「はい、ディオシスお祖父さま」
会場に戻ると、その空気が違った。どうした? 今度はなんだよ。
「ロディ様、お嬢、近衛兵ッス」
「近衛兵?」
晩餐会の会場に、白い団服の人達が剣を持ち会場を取り囲んでいる。
さっきまで、歓談していた貴族達が驚きを隠せず怯えている。
「陛下と王妃様を警護していた近衛兵ッス」
それがどうして……どうして剣を振りかざして乱入してきているんだよ!?
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