第231話 大聖堂の魔法陣

 晩餐会という目標が決まった。今まで、色んな場所で解呪してきたが、今度の晩餐会では一気に解呪する事ができる。

 そして、今度は堂々と城の中に入れるんだ。できる限り調査もしたい。いや、しよう。

 目標は王と王妃の私室だ。近衛兵が警備していて近寄れないらしい。

 メイドさんでも入る事ができなかった。一切の身の回りの世話をするウェイティングメイドや、部屋の整備を担当するチェインバーメイドでさえもだ。

 だからな、もう一層の事近衛兵も解呪してしまえばいいんだよ。そうしないと、埒が明かないと思わないか?


「お嬢、イケイケッスね」

「はいぃ」


 元を絶たなきゃ駄目なんだよ。キッチンに突然出てくるブラックな奴みたいにさ。放っておいたら、あっという間にウジャウジャと増えるぞ。


「げげぇ」

「例えがヤバイッス」


 おや、食事中の人がいたらごめん。

 そんなバカな事を言いながら、晩餐会の準備を進めていたんだ。

 そんなある日、クリスティー先生から魔法陣が届いた。先ずは、大聖堂に設置するものだ。


『大聖堂の入り口に、1つ大きなものを設置しまっす。必ずそこを通りますからね。大聖堂に居られる方々も意識して通るようにして頂いて下さい。もちろん他の出入口にも設置しまっす』


 霧島、どう?


「ああ、確かに受け取ったぜ」

「あのさ、今更何だけどさ……」

「なんだよ」

「魔法陣って、そんな大きな物をどうやって設置するんだ?」

「ココ、任せな!」


 お、おう。と、言う事でまた霧島は俺のバッグに入っている。前回バッグの中で居眠りしていたから、今回は中に敷物を詰めるのはやめた。


「なんだよ。居心地わりぃな」

「だって寝ちゃうじゃない」

「もう寝ないぞ」


 はいはい、さっさとやってしまおう。

 またディオシスじーちゃんとロディと一緒に大聖堂まで来ている。

 今日もいい天気だ。抜けるような青空に、薄いモワモワした雲が所々に浮いているだけだ。

 俺達は馬車を止め、降りて正面入り口へと向かう。


「私は枢機卿にお会いしてくるよ。教皇様の容態も気になるからな」


 ディオシスじーちゃんは平然と正面から入っていった。じーちゃんは例の下着も着けているし、魔石も持っているから大丈夫だ。


「キリシマ、どうすんの?」

「正面入り口付近まで行ってくれ」


 おう。分かったぞ。

 俺は霧島の希望通りに正面入り口の前までやってきた。


「キリシマ」

「おう、そのままだ」


 そう言って、霧島はバッグの中からゴツゴツとした小さな手を出して回した。

 指先をクルッと回しただけだ。

 すると、大きな魔法陣が空中にブワンッと展開し、大聖堂の正面入り口へと固定された。

 ピッカピカじゃん。これ、不可視なんだよな。


「あたぼうよ。クリスティー先生特製の魔法陣だ。俺でもこんな強力な魔法陣を見た事がないぜ」

「そうなの?」

「おうよ、これでこの入口を通る人は皆解呪されるぞ」

「凄いわね」

「ココ、他の入口用のももらってんだ」

「分かったわ」

「ココ、霧島、もう終わったのか?」


 そうだ、ロディ兄には見えていないんだった。


「はい、ロディ兄さま。正面入り口は終わりました。他の出入口に回ります」


 それから霧島と、大聖堂の両側にある入口と裏に1箇所ある裏口、そして、鐘楼の入口にも魔法陣を設置した。

 クリスティー先生はこんなに作ってくれていたんだ。


「クリスティー先生は、エルフの中でもバケモン級じゃねーか?」

「え、そうなの?」

「だってこんなに精巧な魔法陣を、たった数日で作ってしまうんだからな。信じらんねーよ」

「ドラゴンはもっとじゃないの?」

「ドラゴンは魔法陣なんて使わないんだ。そんなもんでチマチマするより、ドラゴンブレスで一発だ」


 ああ、ドラゴンも脳筋なんだね。そりゃ、父やユリシスじーちゃんと気が合うはずだ。


「最強だからな。あんま小さな事には拘らねーんだ」

「そうかよ」


 ま、とにかくキリシマは魔法陣は苦手と言う事だな。その上、今はドラゴンブレスも吐けないってな。


「ココー! ちげーだろう!」

「アハハハ。僕から見ればキリシマだって十分バケモン級だよ」

「おう、ロディはよく分かってんじゃねーか」


 アハハハ、愉快なドラゴンだよ。


「ココ、終わったのかい?」


 ディオシスじーちゃんが大聖堂から出てきた。


「はい、お祖父さま」

「ディオシスお祖父様、キリシマがあっという間に何箇所も設置してしまいましたよ」

「何箇所もなのか?」

「はい、お祖父さま。正面と裏口、左右と鐘楼ですね」

「それは完璧じゃないか。クリスティー先生も、そんなに魔法陣を送ってくれていたんだな」


 そうなんだよ。クリスティー先生、ありがとう。


『フフフ、とんでもないでっす!』


 なんて、言いそうだ。本当に有難い事だ。


「お祖父様、教皇様はどうでした?」

「ああ、もう大丈夫だ。意識も戻られて普通に生活されているよ」

「念のためココと一緒に、王都民が入る事のできる範囲だけでも見ておきませんか?」

「そうだな」


 ロディ兄の提案で大聖堂の中を1周して帰った。ずっと鑑定眼で見ていたが、大丈夫だ。もう、怪しいものは何もない。

 あとは、城だ。晩餐会に向けて皆で準備だ。

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