第230話 僕は僕の

 俺より明確に標的にされているのは王子だ。標的プラス担ぎ上げだよ。

 何をどう考えて、クーデターなんて事になったのかは知らないが。


「ココ、丁度良い話をしているな」


 ディオシスじーちゃんがやって来た。


「ディオシスお祖父さま」

「色々調べて、1つの仮説を立ててみたんだ」


 うちの軍師役、ディオシスじーちゃんとグスタフじーちゃんが色々考えた結果だ。

 クーデターの話に名前が出ているのが、今は亡き側室様を押していた貴族達だ。

 言わずもがな、側室様は第3王子の母親だ。その側室様が生きておられる頃には後ろ盾となり、バックアップしていた貴族達が企てたんだ。

 生存中にも多少の不満は出ていたらしい。まったく不満の無い事なんて有り得ないだろうから、そこは仕方ない。その不満をうまく発散させ、解消させていたのが側室様だったそうだ。

 その側室様が亡くなった。そして、誰も気付いてはいなかったが、城や大聖堂が精神干渉を受けていた。王や王妃も姿を見せなくなった。

 それが不満を増長させたのであろう。と考えた。もちろん、王妃の侍女を通して側室の唯一の息子である第3王子が幽閉されたりした事も大きい。

 だが、それなら何故どの貴族も第3王子を助け出そうとしなかったんだ?

 それもしないで、ここにきてクーデターの旗頭にしようなどと勝手も良いとこだ。


「僕の立場が丁度良かったのだろう」


 そんな事ってあるかよ。自分達の都合だけじゃねーか。

 

「僕は自分の口でちゃんと話そうと思うんだ。僕は何の関係もないと言うつもりだよ」

「殿下、決心なさったのですな」

「決心と呼べる程の事ではないんだ。当たり前の事なんだ。自分の意思を他人に決められたくない。そんな事は当然の事なんだという事を、僕は忘れていたよ。辺境伯に世話になって思い出したんだ。僕は僕の人生を生きる権利があるんだ」


 第3王子の瞳が輝いている。数ヶ月前に虚ろな瞳で、ふらつきながら馬車から降りてきた王子とはまるで別人だ。


「私達がお力になります」

「お守りするぞぉッ!」

「なんとしてもだぁッ!」


 今日は脳筋集団の2トップがいる。相変わらず、うるさい。が、熱い。

 正義感と人情に溢れた、父とユリシスじーちゃんだ。


「ありがとう。僕は1人じゃないんだ。それがとても心強いし嬉しいよ」


 照れるじゃん。そんな事、当然だよ。一緒に鍛練した仲間だからな。


「殿下もココちゃんも、あたしが守りますッ!」


 エリアリア姉だ。心強い味方だ。


「エリアリア嬢、危険な事はしないでほしい」


 姉の手を取り、見つめながら王子は言った。


「あたしは大丈夫です。殿下より強いのですよ」


 ああ、せっかくの雰囲気が台無しだ。


「ねえ、ココちゃん。あたしのドレスなんだけど、どっちが良いかしら?」


 母が持たせてくれたドレスで迷っているらしい。


「どっちも姉さまに似合ってますよ」

「もう、決められないから聞いているのにぃ」

「アハハハ。エリアリア嬢ならそっちのブルーが似合いそうだね。爽やかで凛としているエリアリア嬢にピッタリだ」


 おやおや、王子がエリアリア姉を褒めたぞ。


「そ、そうですか? じゃあ、ブルーの方にしようかしら」


 姉も満更ではないらしい。


「ココ嬢はこっちだね」

「ああ、私もそう思うな」


 王子とディオシスじーちゃんが選んだのは、淡いオレンジ色のドレスだ。


「これなら走れますか?」

「ココちゃん、何をしに行くつもりなのかしら?」


 ばーちゃん、だって万が一の事を考えると動ける方が良い。


「あ、でもキリシマをどうやって連れて行きましょう?」

「ココちゃんのバッグに入るしかないわね」


 と、丁度キリシマが入りそうなバッグを手に持った。

 母はまさかそんな事まで考えていたのか? まさかな。


「俺、体の大きさを測られたぞ」

「キリシマ、そうなの?」

「おう。だからきっと、俺が入る事も想定していたんだろうよ」


 もう、泣けてしまうぞぅ。母はどれだけの事を考えてくれていたんだろう。

 ビーズやガラス玉の様な物を編んだショルダーストラップが肩から斜め掛けできるように付いていて、バッグ自体はフリフリのレースやビーズで可愛らしく飾り付けてある。ドレスを着ているときに持っていても邪魔にはならないし、目立たない。

 俺の歳だからこそ持てるという感じだ。もっと年上の、ご令嬢が持つとやはり違和感がある。


「バッグもそのドレスが合うよ」

「そうですか?」


 王子とディオシスじーちゃんが、良いと言ってくれた淡いオレンジ色のドレス。それにピッタリだ。ただ甘く可愛いのではなく、キュートな感じだ。俺には、勿体ないな。


「お嬢さまぁ、お似合いですよぅ」

「ッス」


 隆、こんな時位はちゃんと褒めようぜ。


「馬子にも衣裳ッス」


 ヒデーな。


「サキとリュウも付いてくるのでしょう?」

「もちろんッス」

「はいぃ」

「何があるか分からないからね」

「はい、晩さん会の会場の中まで入るッス」

「はいぃ」


 え、そこまで入れんのか?


「紛れるッス」

「メイドと従者ですからぁ」


 なるほどね。てか、メイドさんなら何人も潜入しているじゃん。


「バッチリですぅ」

「ッス」


 メイドさん達プラス、この万能で最強な姉弟だよ。それだけでもかなりの戦力になる。


「俺様も行くぜ!」

「頼んだわ」

「おうよッ! ココはお転婆だからなッ!」


 なんでだよ。だから俺はこれでも抑えてるって言ってんじゃん。


「それでもッス」

「はいぃ」


 そうかよ、分かったよ。

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